高分子の拡散係数

高分子の拡散速度はきわめて遅いことが知られています。例えば、分子量10万のポリイソプレン分子がバルク状態で1mm移動するためには、約10の10乗秒=300年!もかかります。このように遅い拡散を通常の方法では精度よく測定できません。例えば、同位体原子でラベルした分子の移動速度を測定することは、ほとんど不可能です。遅い拡散係数を測定するために、強制レーリー散乱法が用いられます。 この方法の原理を図1に示します。

図1 強制レイリー散乱測定の模式図      

図2 2つのレーザー光による格子縞の形成

  図のように暗い部屋にアルゴンレーザー(A)を置き、強力な緑の光を試料Eに照射します。ここでBとDは鏡で、Cは光を半分透過させ、半分を反射させるハーフミラーです。このように光を当てると、図2のように光の交差している部分で定在波が生じ、振幅が大きい部分と小さい部分ができます。光の強い部分から弱い部分までの距離(波長)は2本の入射光のなす角度できまり、通常数マイクロメートルのオーダーになります。もし、試料が光によって分解あるいは異性化するような色素である場合、試料中には光と反応した部分と未反応の部分が交互にならんだ状態ができます。高分子の拡散係数の測定はこの現象を利用します。高分子鎖の末端あるいは一部分にそのような色素をつけておき、パルス的にアルゴンレーザーを照射すると、光によって色素が異性化した部分としていない部分で屈折率の差が生じます。ここにヘリウムーネオンレーザーの赤い光を図1のFから適当な入射角で照射するとブラッグの条件にしたがって光の回折が起こり、これを光増倍管Gで検出する訳です。時間が経過するに従って分子は拡散するので、異性化した分子とそうでない分子はたがいに混合し、屈折率の周期的な変化は弱まり、その結果光増倍管Gで検出される光は弱くなります。すなわち、光増倍管Gの出力の時間依存性から分子の拡散速度を測ることができるわけです。色素は高分子全体からみると小さいので、色素をラベルしたことの影響は無視できます。

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実際の装置はここ