Osaka U 大阪大学 大学院理学研究科 高分子科学専攻

高分子合成化学研究室(旧青島研究室)

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若手に読んでもらいたい本  青島 貞人

出典:高分子(私の本棚から)2014, 63, 803.


 ある日、編集委員の先生からお声をかけていただき、すぐに頭に浮かんだのは2冊の古典でした。300年以上前、日本とフランスでほぼ同時期に書かれた、「五輪書(宮本武蔵著)」と「精神指導の規則(デカルト著、絶筆本)」です。何れも高校〜大学入学前後に背伸びしながら読んだ本でしたが、前者は生きていく上での指針に、後者は理系に来るきっかけになった本です。読み直してもやはりお勧めの本だと思いましたが、今回はもう少し読んでもらえそうな本を選びました。
 お薦めするのは、「喜嶋先生の静かな世界」です。森博嗣さんという元N大学工学部助教授(本人談)が作者で、「笑わない数学者」や「すべてがFになる」などでよく知られた推理小説家です。本の内容は、大学に入学した主人公の「僕」が研究者になっていく過程を書いた、いわゆる「研究者の青春小説」です。主人公は、研究だけを考えている喜嶋先生に少しずつ惹かれていき、一日中たった一つの方程式を睨んでいるような幸せな時間に漬っていきます。個人的に思い返すと、当時若いだけで何者でもなかった私を導いてくれたのも同じような先生、先輩であり、研究だけの環境でした。号泣しながら読みました。そして、「創造者はつねに狂気と正気のはざまの危険で険しい一本道を歩み続ける運命を背負っている。しかし、その道を選んだ幸せな人々よ。狂気にも正気にも、転落することなく、この道をいつまでも歩き続けよ」という、野崎一京大名誉教授が執筆本中で引用された哲学者梅原猛先生の言葉を思い出しました。
 すでに研究者になられた方には当時の熱かった青春時代を思い出してもらい、研究者を志している若手には研究の素晴らしさを感じ取っていただければうれしいです。



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