大阪大学大学院理学研究科 附属基礎理学プロジェクト研究センター 原田グループ ロゴ
  English

シクロデキストリン(CD)を用いた超分子合成

修飾CDを用いた超分子錯体の合成 CDによる高分子鎖の認識挙動の解明
外部刺激による超分子錯体の構造制御 超分子エネルギー変換システムの開発
共役分子を有す超分子錯体の合成 Social Self-Sorting型超分子錯体CD
シクロデキストリンを用いた並進・回転運動の観察 挿し違いダイマー

挿し違いダイマー

シクロデキストリンを用いた超分子錯体の外部刺激による構造制御

 生体系においてはダイニン(Dynein)、べん毛モーター(Flagellar)、ミオシン(Myosin)、キネシン(Kinesin)といった生体分子モーターが存在し、近年、これら分子モーターの構造が明らかとなりつつある。生体分子モーターの構造は人工系における超分子錯体と類似点が多い。筋繊維の構造・収縮運動などはCDの挿し違い型ダイマーの構造と類似する。このような生体分子モーターは外部刺激により構造変化が引き起こされる。

 CDの超分子錯体にて動的挙動を観察するために、桂皮酸修飾部位をアルキル鎖にて伸張した修飾CD合成し、水中にて挿し違い型ロタキサンダイマーを形成させた。その後、ストッパー分子を導入し、有機溶媒中においても解離しない挿し違い型ロタキサンダイマーを得ている。その伸縮挙動は溶媒極性の変化によりCDの包接位置が変化した。

溶媒の極性変化により、収縮するロタキサンダイマー
図1.溶媒の極性変化により、収縮するロタキサンダイマー

Tsukagoshi, S.; Miyawaki, A.; Takashima, Y.; Yamaguchi, H.; Harada, A.
"Contraction of Supramolecular Double-Threaded Dimer Formed by alpha-Cyclodextrin
with a Long Alkyl Chain"

Org. Lett. 2007, 9(6), 1053-1055.

伸縮性人工筋肉を目指した修飾CDを用いたさし違いダイマーの合成とその光異性化挙動

 生体系においては、アクチンフィラメントとミオシンフィラメントからなる骨格筋サルコメアを構成単位として、これらが組織化することで筋肉の伸縮運動を実現している。このような構造を私たちは超分子錯体を用いて作製した。環状分子としてαCD、光異性化分子としてアゾベンゼンを選択し、αCDが滑ることの可能なポリエチレングリコールユニットとヘプタメチレン基からなる軸分子を修飾してさし違いダイマー構造を作製した。
 このさし違いダイマーを安定な構造とするために、軸分子の末端にアダマンチル基を修飾し、幾何学的にインターロックされたさし違いダイマーを作製した。このさし違いダイマーは末端のアダマンチル基の修飾により、有機溶媒中においても解離することなく、特に水中においては、アゾベンゼンの光異性体に応じた構造変化を示すことが明らかとなった。例えば、アゾベンゼンがトランス状態のときには、αCD同士が向かい合い、お互いが近い位置に存在する結果、分子サイズとして大きな状態であるのに対して、紫外光を照射した後には、アゾベンゼンはαCDの空孔から抜けだし、お互いのαCDは離れ、分子サイズが小さくなることが明らかとなった。
 このような構造変化は骨格筋サルコメアの伸縮運動を彷彿とさせる超分子錯体の異性化挙動であることを明らかとした(図2)。


広い口側の二級水酸基にゲスト分子が修飾されたCDによるポリ[2]ロタキサン合成

図2.アゾベンゼン修飾αCDが形成するさし違いダイマーの構造と光刺激に対する超分子構造の制御
Li, S.; Taura, D.; Hashidzume, A.; Harada A.
"Light-Switchable Janus [2]Rotaxanes Based on α-Cyclodextrin Derivatives Bearing Two Recognition Sites Linked with Oligo(ethylene glycol)"
Chem. Asian. J. 2010, 5 (10), 2281-2289.

さし違い二量体を架橋部に用いた伸縮性超分子ゲルの構築

 より筋肉に近い仕組みで動く分子集合体の作製を目的にさし違い型の二量体を部品として、分子集合体を組み立てることを考えた。すなわち、分子は機械的に閉じ込められた形で存在し、線状の分子は環状の分子の中を互いに滑ることにより伸縮する。この仕組みを用いると、分子レベルでは溶媒の変化や光で動く分子を合成することにより、実現することができた。私たちの報告の後、他の研究グループにおいても、クラウンエーテルなどを用いて同様のさし違い型の二量体を部品として、分子レベルでの動きが報告された。ところが、さし違いの二量体は、通常のホスト―ゲスト相互作用と比較して、二重にホストーゲスト相互作用が働くため、動きが抑制されている。この大きな困難のため、この分子レベルでの動きに基づいた巨視的な動きの実現は、世界中でまだ実現していなかった。
 私たちはさし違い二量体を架橋剤として用い、水溶性ポリマーを架橋することによりゲルを得た。このゲルは化学結合で結合しているわけではなく、機械的な結合で結合している。このゲルに紫外光を照射したところ、ゲルは収縮した。これはさし違い二量体からアゾベンゼンがはずれるため、互いに軸部分を引っ張り合うように収縮する。そのような分子レベルでの動きが巨視的に発現したものと考えられる。

ページのTOPへ