大阪大学大学院理学研究科 附属基礎理学プロジェクト研究センター 原田グループ ロゴ
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シクロデキストリン(CD)を用いた超分子合成

修飾CDを用いた超分子錯体の合成 CDによる高分子鎖の認識挙動の解明
外部刺激による超分子錯体の構造制御 超分子エネルギー変換システムの開発
共役分子を有す超分子錯体の合成 Social Self-Sorting型超分子錯体CD
シクロデキストリンを用いた並進・回転運動の観察 挿し違いダイマー

超分子エネルギー変換システムの開発

シクロデキストリン-オリゴチオフェンロタキサンを利用したエネルギー 移動システム

 近年、共役分子はその発光特性や電気的な性質から大きな注目を集めており、多くの研究がなされている。しかし、その特性を十分に発揮させるには高次構造の精密制御が必須となる。私たちはπ共役分子の構造制御を超分子科学的な手法を用いて行うため、CDと共役分子の組み合わせによる構造制御について検討してきた。本研究では、ロタキサンの末端 βCD 部位を利用し、ゲスト分子との混合系について、超分子形成とエネルギー移動について検討した。
 ホストとして末端にゲスト分子を包接可能なβCD 部位を有する2T-[2]ロタキサンおよび 3T-[2]ロタキサンを、ゲスト分子には、水溶性を有し、CDに包接される形状のオリゴチオフェン誘導体Disodium salt of 2,2':5',2'':5'',2''': 5''',2'''':5'''',2'''''-sexithiophene-3'',4'''-dicarboxylic acid (6TCA2Na2) を合成した. (図1)

Polyethylene glycolとヒドロ桂皮酸を有する-CDの[1]ロタキサン形成(a)と[1]ロタキサンの光構造制御(b)
図1. 2T-[2]rotaxaneと6TCA2Na2の混合溶液の発光挙動とこれらの溶液を石英板に乾燥させたときの発光挙動.

 6TCA2Na2は単体では強い発光を示さないが、6TCA2Na2とロタキサンを混合すると強い発光を示し、6TCA2Na2単体を直接励起 (λex = 424 nm) した場合よりも強い発光であった(図19)。これはロタキサンをドナー、6TCA2Na2をアクセプターとしたエネルギー移動が起こったと考えられる。更にロタキサン部位の発光の減少の度合いからエネルギー移動効率を算出すると、90 %以上の高効率であることがわかった。一方で競争ゲストを過剰量添加した場合、混合系の蛍光スペクトルでは6TCA2Na2由来の発光が減少した。これはロタキサンと6TCA2Na2の錯体形成が阻害されたためと考えられる。これらの溶液を石英板上に塗布し、乾燥させると、より明確に発光強度の差が観察された。6TCA2Na2単体では自己消光されて、全く発光しないが、ロタキサンと6TCA2Na2の混合物は鮮やかな蛍光発光を示し、固体状態においても、効率よくエネルギー移動が起こった. (図2)

Polyethylene glycolとヒドロ桂皮酸を有する-CDの[1]ロタキサン形成(a)と[1]ロタキサンの光構造制御(b)
図2. ホスト分子として機能する2T-[2]rotaxane および 3T-[2]rotaxaneの化学構造とゲスト分子として機能する6TCA2Na2の化学構造.

Sakamoto, K.; Takashima, Y.; Hamada, N.; Ichida, H.; Yamaguchi, H.; Yamamoto, H.; Harada, A.
"Selective Photoinduced Energy Transfer from a Thiophene Rotaxane to Acceptor"

Org. Lett. 2011, 13, 672-675.



センシングフィルムを目指したペリレンジイミド修飾シクロデキストリン化合物の発光制御

図3.ジアルキル置換ペリレンジイミド修飾CDの化学構造
図4.アルトロピラノースユニットの回転運動を通したPDIC7-3CD2 の超分子構造の変化.
図5.PVAフィルムに溶かし込んだPDIC7-3CD2の発光挙動.(上部) 可視光下、(下部) UV 照射下 (λex = 365 nm).

 近年、ジアルキル置換ペリレンジイミド化合物は有機電界効果トランジスタ(OFETs)などに代表される光電子材料や蛍光センサーとして期待されている。一方でペリレンジイミド化合物(PDIs)は一部の有機溶媒には溶解するものの、多くの有機溶媒に不溶であり、水や極性溶媒に対する溶解度は極めて低い。私たちはPDIの発光特性とシクロデキストリン(CD)の分子認識能を生かした効率の良い発光フィルムを合成し、その発光特性について調べた。
 図3に各種PDI-CDダイマーの化学構造を示した。DMF溶液と水溶液について蛍光スペクトルと絶対量子収率を測定した結果、DMF溶液中ではCDの種類に応じた発光特性の違いは見られなかったが、PDIC7-3CD2sは水溶液中にてCDの種類に応じた特異的な発光特性が見られた。その発光強度は
PDIC7-3CD2 > PDIC7-3CD2 > PDIC7-3CD2
の順番であった。これらの発光強度の差について、二次元NMRにて解析した結果、PDIC7-3CD2やPDIC7-3CD2のCDは水溶液中においてCDのタンブリングを経てPDIユニットを包接していた(図4)。一方、PDIC7-3CD2のPDIユニットはCDに包接されていなかった。
 各種PDI-CDダイマーとポリビニルアルコール (PVA) 水溶液を混合、乾燥させたところ、CDの空孔サイズに応じた特異的発光特性を示すフィルムが得られ、特にPDIC7-3CD2が強い発光性を示した(図5)。
 このフィルム作製は水溶液から行うことが重要で有機溶媒からは発光フィルムは得られず、CDの分子認識能とタンブリングが関係していると考えられる。今後、これらの発光性フィルムは化学物質を検出するフィルムとして応用が可能と考えられ、ある物質については、蛍光が消光されたり、ある化学物質についてはエネルギー移動を経て、発光色が変化するようなセンシングフィルムとして機能することが期待できる。

"Emission Properties of Cyclodextrin Dimers Linked with Perylenediimide - Effect of Cyclodextrin Tumbling"
Takashima, Y.; Fukui, Y.; Otsubo, M.; Hamada, N.; Yamaguchi, H.; Yamamoto, H.; Harada, A.
Polymer Journal 2012, 44, 278-285.


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