高分子科学専攻 講師 川口辰也 (revised 2026.04.01)
波の足し算を計算するプログラムは阪大理学部の化学科で開催していた高校生対象の一日体験入学での実験用に開発したが,筆者が担当した課題ではこれ以外にレーザーによる回折実験も行っていた。
自分で描いたパターンをプリンタで印刷し,そこからの回折像を見てみよう!というものである。

「こんなパターンからはこんな回折像ができます」と見せるために,見本となる綺麗なパターンが載った透明なフィルムが必要となる。
令和元年度の体験入学の前になって,以前に准教授と作成していたスライドフィルムを紛失していることが判明,大慌てで作成する羽目になった。
この作成時にメモを取っておいたので,同じようなことをしたい人のためにアップしておこうと思った次第。
の2つについて記述する。
基本となる図形が規則正しく並んでいる必要があるが,間隔をどの程度にするか見積もってみる。
光を通さない壁に充分小さなスリット(間隔 d)を2つ開け,平行光を入射してスリットを抜けた光がどのように干渉し合うかを考える。
図のように垂直な壁に左から平行光を入射する。スリットから右側に出る光はスリットを光源とした球面波になっているとする。
スリットから出る光は方向(ϕ)によって強め合ったり弱め合ったりするわけだが,
図のように光(電磁波)の行路差 dsin ϕ が波長 λ の整数倍であれば強め合う(dsin ϕ = nλ:n
は整数)。整数+0.5倍であるとちょうど打ち消し合う。

スリットから回折像を映すスクリーンまでの距離を L,スクリーン上で中心から一つ目の回折点の距離を
h とする(n = 1)。 距離が充分に大きく ϕ が充分に小さい場合に sin ϕ と tan ϕ はほぼ等しいので d = λL/h
とすることができる。

回折実験でレーザー光源はHe-Neの波長 λ
が632.8nm,フィルムからスクリーンまでの距離 L を2m,スクリーンでの回折点の間隔
h
をまあそれなりに判りやすくなるよう5mmとすると,スリットの間隔 d
は0.25mm,つまりフィルム上では1mmに4つほどの間隔で光が通る図形が並んでいれば良いことになる。
レーザー光源はプレゼンテーションで使う赤色レーザーポインタでも(ちょっと弱いかもしれないが)問題はない。
緑色を使うと波長が短いために回折点の間隔が狭くなるので,スクリーンとの距離を広げたほうが良い。まあ,0.8掛けくらいなので大したことはないが。
見本として使う綺麗なフィルムを作成するために。
昔懐かしいフィルムカメラで元図を撮影し,現像したフィルムにレーザーを当てて回折像をスクリーンへ映す。
準備するものは
撮影距離は5m,レンズの焦点距離は100mmとする。
自動露出機能(AE)が働くカメラの場合,パターン部分がなるべく真っ白(フィルムでは透明)になるようにするために,背景を暗くするのが良い。
あるいは露出補正をする。筆者は黒板に原稿を固定した。
原稿の例の左側の縦棒は印刷すると5cmだが,上の撮影条件でフィルム上で1mmに結像する。
もしレンズの焦点距離が90mmでフィルムに上と同じ大きさに写したい場合は撮影距離を4.5mにすれば良い。
上で見積もったようにフィルム上の1mmに図形が4〜6個ほど並べば具合が良いので,適当な原稿を作成し,適当な距離で撮影する。
厳密さを省くと,原稿上のパターン間隔を H,フィルム上のパターン間隔を h,撮影距離を WD,レンズの焦点距離を
f として f = (h × WD)/H
となる(例えば「焦点距離と実視野の理解」を参照のこと)。
現像の時に(スライド用の)マウント仕上げにしてもらうのが良い。
リバーサルフィルム(36枚)はフィルム代も現像代も高い…2018年当時で1本で合わせて二千円強掛かったが2026年4月では
フィルム代だけで5500円,現像は3000円前後(&1〜2週間)。ミスらないよう気合を入れて作業すること。
普通のフィルム(カラーネガフィルム)はベースフィルムが茶色なので回折実験にはとても使えないのである。
モノクロフィルムでもスライド用のベースフィルムが透明のものが有るらしい。そちらを使ってもよいだろうが未確認である。

実際のスライドはこんな感じ。中心のパターンにレーザー光を当てる。黒板消し・チョーク受けが判るね。
【注意】ドライバ等の問題であろうか,筆者の研究室で色々なPCとプリンタの組み合わせで試した分ではWindows・Linuxマシンでは充分な解像度での印刷は出来ず,Macのみが回折像らしい回折像を映し出せるパターンの印刷が可能であった。
透明なOHPシートにパターンを印刷して,それにレーザーを当てて回折像をスクリーンへ映す。
OHPシート…若者は知らないだろう。筆者の世代だと学生の頃の学会発表での投影機器はOHP(オーバーヘッドプロジェクタ)で,発表の原稿をOHPシートに印刷して持っていったものである。
現在はビデオプロジェクタにノートパソコンを繋いでパワーポイントでプレゼンするのが普通であるが。
現在でも購入できるが,どこで使われているのだろう?
印刷サイズを考えて1mmに図形が4〜6個ほど並ぶように作図をする。
PDF例:左上のブロックにパターンが描かれている。黒四角の中の縦棒は長さ1mm(目安です)。A4のOHPシートに印刷し,破線で切るとスライド用のマウントに入る(上の写真フィルムと同様)大きさになる。
SVG例:適切な描画ソフトで編集してください。
OHPシート上の図形の間隔が0.25mmくらいとしたとき,プリンタの解像度との関係を考えてみる。
プリンタの解像度が600dpiの時に1dotが0.0423mm → 6dot分の間隔
プリンタの解像度が1200dpiの時には12dotくらいの間隔
というわけで,高解像度(1200dpi以上)のレーザープリンタを使用することで,大まかなパターンであればOHPシートに印刷することができる。
とはいえ,昔のレーザープリンタは普通にOHPシートで印刷できたが,最近のプリンタは対応していないのでOHPシートが滑ってしまって途中で詰まってしまうことが多い。
古い高価な高解像度レーザープリンタを使いましょう。
(インクジェットプリンタは高解像用OHPシートに顔料インクの組み合わせを試せていない。一般的なインクジェット用OHPシートに染料インクでは滲んでしまい,使い物にならなかった)