Erythropoietin

[要約]

このページでは貧血治療薬であるエリスロポエチンのglycoformの化学合成に成功したことを述べる。

[EPO]

エリスロポエチン(EPO)は赤血球造血において重要な役割を果たすホルモンである。EPOは、Asn24、38および83の3つのN-グリコシル化部位を含む166残基からなる。EPOは糖タンパク質として重要な生体機能を果たしているが、そのN-糖鎖の機能はまだ完全には解明されていない。また、EPOは多様な糖鎖構造を示すため、それらGlycoform(タンパク質構造は同じであるが糖鎖構造が違う異性体)の機能を調べることが必要である。EPOのN-型糖鎖機能を解明するために、2012年、村上と梶原のグループは、Asn83に複合型シアリルオリゴ糖を持つ折りたたみ型エリスロポエチンの全合成に成功した(図6)[25]。この合成法では、HFを使わない安全なBoc法を使うことで効率よくEPOを合成することができた。従来のBoc-SPPS法は、HFなどの酸を使うために、特に酸に弱いしアリル糖鎖をもつ糖ペプチドチオエステルの合成は困難であった。種々の検討の結果、酸に弱い理由は、シアル酸のカルボン酸の分子内触媒反応のために酸加水分解が進むことを明らかにした。この問題を解決するために、N型糖鎖上のシアル酸をフェナシル(Pac)基で保護し、酸性に耐性を示すことを確認した。そして、HFを使わず、また、最後の脱保護に使うTFA等も濃縮などする必要のない方法を考案した。まず、固相上で、ペプチドの側鎖の保護基をTFA等で脱保護後、樹脂を洗浄し、次に緩衝溶液とアルキルチオールを加えることでマイルドにペプチドチオエステルを得る方法合成戦略を開発した。

そして、このSafe-Boc-SPPS法の実用性を検証するために、Asn83にジシアロN-グリカンを持つ糖タンパク質EPOを化学合成した。4つのセグメント56、57、58、59をそれぞれ新規Boc法で合成し、NCLで順次ライゲーションした。糖ペプチド(配列番号:50-166)は、3つの遊離チオール基の脱硫された糖ペプチド60を得た。最後のライゲーションと4つのネイティブシステインのAcm保護基の脱保護により、糖鎖化EPOの全長が得られた。酸化的フォールディング法をおこない、ジシアロオリゴ糖を持つEPO 61が得られた。 そして2016年、村上と梶原のグループは、N-グリコシル化の数と位置を変化させた糖タンパク質EPOの合成に成功した[26]。 [26]。この合成では、Asn24、Asn38、Asn83に複合型2分枝シアリル糖鎖を導入し、糖鎖付加位置とヒト型2分枝シアリル糖鎖の数が異なる5種類のEPO糖鎖を合成した(図7)。さらに、構造と活性の関係についても調べた。その結果、この例は、糖鎖配列パターンと造血活性の関係を明らかにした最初の研究となった。この合成に加え、Makiと梶原は、同じ戦略に基づいて、Asn83に複合型3分枝をもつEPOの合成を達成し、糖鎖の分枝構造によってさらに活性があがることを明らかにした[21]。