Research projects

・有機単結晶トランジスタの研究

 現代の高度情報化社会とエレクトロニクス技術を支える基幹材料は、単結晶シリコン(ケイ素)をはじめとする無機半導体です。一方、有機材料の中にも、分子間の電子伝導が可能な半導体材料が知られており、これらをエレクトロニクス材料として用いることによって、従来より格段に安く、大面積の電子機器を開発することに、最近大きな注目が集まっています。有機材料は、無機材料に比べて作製する温度が低いなどの理由で、製造プロセスがずっと簡単になることが期待できるからです。しかも、例えば折りたたみや巻き取りが可能な“曲がるディスプレイ”のように、有機物材料ならではの性質を利用した新しい応用も可能であるため、国内外の研究機関及び民間企業において活発な開発研究が進められています。

 通常の有機トランジスタは、絶縁体基板上に多結晶または非晶質の有機半導体薄膜を形成するのですが、本研究では、半導体層として有機単結晶を用いることを特徴としています。単結晶では、有機分子が全体にわたって規則正しく整列しているため、理想的な電子伝導が期待されるからです。独自の手法によって、世界に先駆けて有機単結晶トランジスタを構成することに成功し、最近ではこれまでで最高の“キャリア移動度”をもつ有機トランジスタを実現しました。現在、5人の阪大メンバー及び外部機関との共同研究により、以下のテーマを中心に研究活動をおこなっています。

 我々のグループでは、の構造によってon-offスイッチ機能を発現し、コンピューターの演算やディスプレーの発光制御を担う最も基本的な素子となる電界効果トランジスタ(Field-Effect Transistor: FET)を有機半導体を用いて構成し、物理化学的手法によって有機材料の限界性能を実現する研究を行っています。現在一般的な方法で作製される有機トランジスタにおいて、電子伝導のスピードに関係する“キャリア移動度”などの素子性能が無機半導体トランジスタに比べて大きく劣ることが大きな問題になっています。本研究によってこの問題を克服して、有機トランジスタの適用範囲を格段に広げ、新たな産業の創出につなげたいと思っています。

(1)更なるトランジスタ性能の向上により無機半導体に迫る特性を実現する。
(2)様々な有機分子結晶の分子間電子移動をトランジスタ特性によって評価することによって、
  高性能トランジスタ特性の実現を狙うとともに新たな有機材料の評価手法を確立する。
(3)有機トランジスタにおける電子伝導機構の解明と新たな界面電子物性の探索。
(4)異種有機材料の接合により、新たな界面機能をもつハイブリッド物質の創製。

電界効果トランジスタの原理

 もともと(off状態では)電子の伝導性がほとんどなかった半導体層に、ゲート電圧VGを加えることによってコンデンサーと同様に電荷(キャリア)が蓄積されて、良好な伝導性のあるon状態にスイッチする。

有機半導体単結晶の例
ルブレン単結晶トランジスタ
ルブレン分子の構造
ルブレン結晶の構造
ルブレン結晶