教授からのメッセージ

はじめに
2025年4月1日から村田道雄先生の後任として生体分子化学研究室を担当することになりました。 歴史ある大阪大学理学研究科化学専攻で有機化学の研究に取り組めることを大変光栄に思います。 私は、本学に着任するまでに国外を含め7つの研究室・研究所を渡り歩いて来ました。 その先々で、世界の第一線で活躍する才能豊かな研究指導者の先生方から薫陶を受けることができ、このことは今日の私にとって非常に大きな財産となっています。 徳島大学に教授として着任してからは、その受けた恩恵を還元すべく、高いレベルでの研究教育を学生の皆さんにしっかりと伝承してきたつもりです。徳島大学で研究室を主宰した12年間で50名以上の学生・院生の研究指導を担当し、卒業・修了生の9割以上が現在研究職として活躍しています。また、5名の博士課程修了生が現在大学教員としても活躍しています。今年度から教育・研究の場を大阪大学に移しますが、引き続き高いレベルでの教育研究を継続していくつもりです。 すなわち、高い研究水準の維持、研究室での化学的知識・技術の継承、新たな発見や達成の喜びの共有、互いに切磋琢磨できる環境の整備などを心がけ、高度な有機合成化学力と優れた人間性・コミュニケーション能力を有する人材の育成を目指します。
大阪大学での研究室は新たにスタートを切ったばかりです。 難波研の新たな研究教育のスタイルを今後皆さんと一緒に発展させて行きましょう。 研究室の見学は随時受け付けていますので、興味のある人は遠慮無く難波まで問い合わせて下さい。
研究について
自然界の全ての現象には化学反応が関わっています。 生命活動の維持から思考や記憶に至るまで様々な化学反応が関与しており、それらの化学反応には有機化合物(分子)が密接に関わっています。 我々は、そういった有機化合物をうまく利用することで自然界に起こる様々な現象を分子のレベルで解明しようと試みています。 例えば、イネ科植物は土壌から効率良く鉄イオンを取り込むために、根から特異な鉄キレート剤を分泌していることが知られています。 そこで、最近では光るキレート剤を化学合成することによって、鉄イオンが細胞に取り込まれる様子を可視化することに成功しました。 植物鉄輸送体の機能を明らかにすることで、ヒトの鉄欠乏症治療薬への展開や、全世界陸地の3割におよぶアルカリ性不良土壌での農耕を可能にする農薬の開発が期待されています。 他にも、医薬・農薬の有効な成分でありながら、自然界には超微量にしか存在しない有機化合物が沢山あります。 我々はそういった医薬の候補となる化合物を、安価かつ大量に入手できるアミノ酸や糖などの化合物から化学反応を繰り返すことによって作り替え供給する研究も行っています。 さらに、体内での代謝を観測するために様々な色で光る蛍光分子を創製し、生物活性化合物や医薬化合物に組み込んだりもしています。 このように、天然に微量にしか存在しない化合物や、あるいは天然には存在しない新たな機能を持った分子を様々な化学反応を駆使することによって創り出すことが我々の主な研究テーマです。 また、そういった機能性分子を効率良く合成するために、新しい反応や合成方法論の開発も行っています。
全合成研究への取り組み
先に述べたような様々な機能性化合物を自在に創製するためには、高度な有機合成化学力が必須であることは言うまでもありません。 魅力的な機能性分子や医薬候補化合物をいくら設計できても、実際に作る(合成する)ことが出来なければ机上の空論にすぎないのです。 このため、十分な合成化学力を備えていることが、創薬研究や生命科学研究をスムーズに展開する駆動力となります。 そこで我々は有機合成化学の力量をただ維持するのみではなく、常に磨き向上させる必要があります。 当研究室では、挑戦的な合成研究への取り組みとして、複雑な生物活性天然有機化合物の全合成研究を重要な研究テーマの一つとして掲げています。 真に難解(複雑)な化合物の全合成研究は、精密有機合成化学の粋を集めるのみならず、様々な新反応の開発や新しい合成コンセプトの確立、大量合成可能なルート構築なども求められ、まさに分子レベルでの"ものづくり"研究の集大成と言えます。 このように全合成研究は高度な有機合成化学者の育成にも最適な課題であり、我々が今後も大事にしていかなければならない研究分野の一つと考えています。 また、合成に到達することのみを目標とするのではなく、合成の先にある創薬研究への展開を視野に入れて合成研究に取り組むことが重要だと考えています。
おわりに
当研究室では、誰にでも出来ることではなく、自分達にしか出来ない困難な課題に挑戦します。 すぐに大きな成果は出ないかもしれませんが、"これが成功したら凄いことになる!"というワクワクした気持ちになれるような研究課題に一緒に取り組みましょう。 日々の実験や勉強で忙しい毎日を送ることになりますが、皆さんが充実した研究生活を送れる環境はしっかりと整えます。 また、スポーツ大会への参加や他大学との交流会、飲み会なども適宜行い、遊ぶ時は思いっきり遊ぶことでメリハリのある明るい研究室を作っていきたいと思っています。 興味のある人はc棟の研究室を是非のぞいて見て下さい。