構造と機能の関係

私たちの研究室では,X線回折法を主体に各種手法を用いて高分子物質の分子レベルの構造・構造変化・構造形成過程を解析し,相互作用や機能との関係を研究しています。 対称物質として,生体中の分子モーターや関連する蛋白分子,酸化酵素,合成高分子,それらのモデル化合物,高分子と低分子化合物の複合体などを扱っています。

  1. 分子モーターと関連する蛋白分子の構造解析
  2. アミノ酸酸化酵素の構造解析
  3. 黄色蛍光蛋白質の構造解析
  4. 高分子/低分子複合体の構造とその形成機構に関する研究
  5. 脂質および鎖状分子(脂肪酸・脂肪酸トリグリセリド,n-alkane,コラーゲンモデルペプチド)の構造化学的研究
  6. 測定装置の開発

べん毛は細菌が体表に持つ太さ20ナノメートル・長さが約10マイクロメートルのねじれた繊維で,根元にある回転モーターが回ることで推進力を得る運動器官である。回転モーター部分は基部体,らせん型プロペラとして働く長い繊維部分はフィラメント,基部体の回転軸(ロッド)とフィラメントをつなぐユニバーサルジョイント部分はフックと称される。これらは多数のタンパク質から構成される超分子ナノマシンである。基部体はタンパク質の複合体が集合して形成されているが,いくつかのタンパク質や複合体は他の用途に使われているタンパク複合体と構造が酷似していることが分かっている。そのため,一つの複合体の構造を解明することで,類似の複合体の構造・機能の情報が得られることが期待され,世界中で構造解析が競われている。

分子モーターの部品の構造と機能

べん毛の回転モーターは細胞内外のイオンの透過に共役した電気化学的ポテンシャルを運動エネルギーに変換することで回転する。基部体を囲む固定子内部のチャンネルをイオンが流れるときに基部体との相互作用でトルクが発生するとされている。構成するタンパク質およびそれらがどのように集合しているかは,非常におおまかには解明されているが,細かい構造と機能は不明な部分が多い。

べん毛の構造形成の機構

べん毛の形成過程では,まず基部体が形成され,その後中心のモーターの軸部分からべん毛の中空部分を通って送りだされたタンパク質がべん毛の先端部分で構造形成して伸びていく。このとき水溶性タンパク質がべん毛等を形成する部品となるタンパク質を基部体に運び,基部体中央の輸送ゲートのタンパク質が中央の管へと部品となるタンパク質をほどいた状態で送り込むと考えられている。この構造形成過程で実際にどのタンパク質がどんな形態でどのように働いているのかを追っている。

生体高分子輸送装置の構造と機能-1 III型分泌系

病原性細菌は「III型分泌装置」と呼ばれる器官を用いてエフェクタータンパク質と呼ばれる病原因子を宿主細胞へ送り込み,生理機能を乗っ取って感染する。べん毛の輸送装置は,この病原性細菌の持つ注射器と構造が非常に良く似ており,III型分泌系に分類され,起源を共にしていると考えられている。このため,べん毛の輸送装置・機構に関わる構造を解くことにより,病原細菌の感染を予防する手段の開発に繋がることが期待される。

生体高分子輸送装置の構造と機能-2 IV型分泌系

IV型分泌系はプラスミドの接合伝達系と起源を共にするタンパク質・核酸の輸送系である。IV型分泌系は,
  1. タンパク質だけでなく核酸を輸送するものがある
  2. 基質が細胞質内にあるとは限らず,ペリプラズムにあるものもある
  3. 百日咳毒素のようなタンパク質複合体を輸送するものがある
など多彩な輸送活性を持つ。べん毛と起源を共にするIII型分泌系とは明らかに異なった作動原理を持ち,詳細な構造と機能の解明が待たれている。

コレラ菌走化性受容体の構造解析 〜モーター回転の制御機構の一部〜

細菌が周囲の特定の化学物質の濃度勾配に対して方向性を持って泳ぐ性質を走化性と呼ぶ。この運動のためには周囲の環境を感知するためのセンサーとなる器官が必要であり,これを走化性受容体と呼ぶ。例えばコレラ菌は胆汁に向かって泳ぐことが知られており,40種類を超える受容体が知られている。受容体からのシグナルをもとに,以下の回転方向の制御をすることにより菌は望む方向へ泳ぐ。

  1. べん毛が反時計回りに回転して直線的に泳ぐ
  2. べん毛が時計回りに回転して菌の方向が変わる

我々は,コレラ菌が胆汁に多く含まれるタウリンを受容体のMlp37で認識する仕組みを明らかにした。Mlp37とタウリンやセリン等が結合した状態でX線結晶構造解析を行い,

  1. タウリンはセリンと同じ場所で同じ配置で結合する
  2. 結合するアミノ酸の側鎖がくる位置に隙間がある

ことを見出した。側鎖部分がくる位置に余裕があるためにMlp37が様々なアミノ酸を認識することができると考えられる。

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建設中

LLAOの構造と機能

L-lysine酸化酵素

蛍光タンパク質を用いた生体分子標識技術は,生体内の分子の濃度や分布を調べるためには今や必要不可欠となっている。蛍光タンパク質として有名なのはオワンクラゲ由来の緑色蛍光タンパク質(GFP)であるが,GFPの変異体の1つが黄色蛍光タンパク質YFPである。YFPはGFPの203番目のトレオニン(Thr)をチロシン(Tyr)に置換した変異体で,発色団とこのTyrとのπ-π stackingで安定化され,GFPより長波長側の蛍光を発していると考えらる。YFPはハロゲン化物イオンセンサーや,他の蛍光タンパク質と組み合わせたFRETセンサーなどとして広く使われている。我々は黄色蛍光タンパク質YFPの変異体を用いて新たなセンサーの研究を進めている

YFPの構造と特性

YFPのAsn144とTyr145の間にグリシン(Gly)を挿入すると圧力センサーとして働くことがわかった。 YFP,YFPのAsn144とTyr145の間にGlyを1つ挿入したもの(YFP-1G),Glyの3連鎖を挿入したもの(YFP-3G)の構造解析から以下の考察をした。

  • YFPのTyr145の位置にできる空隙に入った水と発色団の相互作用が蛍光特性と関わっている
  • 圧とともに空隙の水が吐き出され,蛍光強度が上がると予想される(一般的には圧とともに水との相互作用が増して消光する)

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ポリスチレン(PS)はポリエチレン(PE)・ポリプロピレン(PP)と並ぶ汎用高分子の代表例の一つであり, 誰もが名を聞いたことがあるぐらいさまざまな用途に使用されている。ただし,一般に使用されているのは側鎖の立体配置がランダムな非晶性のアタクチックポリスチレン(aPSやat-PS等と表記される)である。
立体規則性ポリスチレンの一つであるイソタクチックポリスチレン(iPSやit-PS等と表記される)は,結晶化速度が低いために成形に時間が掛かることから,実用材料としては使用されていない。これに対し,シンジオタクチックポリスチレン(sPSやst-PS等と表記される)は結晶化速度が高くまた高融点のため,汎用またはエンジニアプラスチックとして利用されている。

シンジオタクチックポリスチレンは,溶媒存在下での結晶化により,溶媒分子を結晶格子にゲストとして含む抱接結晶化を起こすことがある。この抱接結晶は様々な応用が考えられる興味深い材料であり,当研究室ではゲスト交換に注目し,その挙動を調べている。

ゲスト交換反応の機構

シンジオタクチックポリスチレンはより安定なゲスト分子を包接させるために,ゲスト交換現象が発生する。我々はこの現象を利用することで,従来では考えられなかった巨大な分子もシンジオタクチックポリスチレンに包接させることに成功した。


市販の装置をそのまま使用しているだけでは我々が注目している領域を観測することが不可能な場合がある。場合により,装置メーカーと協力して装置の開発を行うこともある。

傾斜顕微赤外分光器 日本分光(株)と共同開発

市販の顕微赤外分光器は光学系の制約が大きいという測定上不利な点がある。
高強度で偏光測定が可能であり,かつ試料を動かさずに観測する一点に対して入射方向を変える(斜入射)ことができる光学系を開発した。

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