レーザー回折実験用パターン作成

高分子科学専攻 助教 川口辰也

はじめに

プログラムではないけれど

波の足し算を計算するプログラムは阪大理学部の化学科で開催する高校生対象の一日体験入学での実験用に開発したが,筆者が担当した課題ではこれ以外にレーザーによる回折実験も行っている。
自分で描いたパターンをプリンタで印刷し,そこからの回折像を見てみよう!というものである。

「こんなパターンからはこんな回折像ができます」と見せるために,見本となる綺麗なパターンが載った透明なフィルムが必要となる。
かなり昔に准教授と作成したスライドフィルムをよく利用していたのだが,令和元年度の体験入学の前に紛失していることが判明,大慌てで作成する羽目になった。

今回の作成時にメモを取っておいたので,同じようなことをしたい人のためにアップしておこうと思った次第。

の2つについて記述する。

パターンの大きさ

基本となる図形が規則正しく並んでいる必要があるが,間隔をどの程度にするか見積もってみる。

光を通さない壁に小さなスリット(間隔d)を開け,平行光を入射してスリットを抜けた光がどのように干渉し合うかを考える。
図のように垂直な壁に左から平行光を入射する。スリットから右側に出る光はスリットを光源とした球面波になっているとする。
スリットから出る光は方向(φ)によって強め合ったり弱め合ったりするわけだが,図のように光(電磁波)の行路差d sinφが波長λの整数倍であれば強め合う(d sinφ=nλ:nは整数)。整数+0.5倍であるとちょうど打ち消し合う。

スリットから回折像を映すスクリーンまでの距離をL,スクリーン上で中心から一つ目の回折点の距離をhとする(n=1)。距離が充分に大きくφが充分に小さい場合にsinφとtanφはほぼ等しいのでd=λL/hとすることができる。

回折実験でレーザー光源はHe-Neの波長λが632.8nm,フィルムからスクリーンまでの距離Lを2m,スクリーンでの回折点の間隔hをまあそれなりに判りやすくなるよう5mmとすると,スリットの間隔dは0.25mm,つまりフィルム上では1mmに4つほどの間隔で光が通る図形が並んでいれば良いことになる。
レーザー光源はプレゼンテーションで使う赤色レーザーポインタでも全く問題はない。緑色だと回折点の間隔が狭くなるので,スクリーンとの距離を広げたほうが良い。まあ,0.8掛けくらいなので大したことはないが。

写真撮影

見本として使う綺麗なフィルムを作成するために。
昔懐かしいフィルムカメラで元図を撮影し,現像したフィルムにレーザーを当てて回折像をスクリーンへ映す。

準備するものは

撮影距離は5m,レンズの焦点距離は100mmとする。 自動露出機能(AE)が働くカメラの場合,パターン部分がなるべく透明(色としては真っ白)になるようにするために,背景を暗くするのが良い。筆者は黒板に原稿を固定した。
原稿の例の左側の縦棒は印刷すると5cmだが,上の撮影条件でフィルム上で1mmに結像する。
上で見積もったようにフィルム上の1mmに図形が4〜6個ほど並べば具合が良いので,適当な原稿を作成する。

現像の時に(スライド用の)マウント仕上げにしてもらうのが良い。
リバーサルフィルム(36枚)はフィルム代も現像代も高いので1本で二千円超え掛かってしまうのがなかなか痛い(ヨドバシカメラ:現像は外注だが早い。科研費の清算に間に合わなかったんで自腹を切った。いたたた)。
が,普通のフィルム(カラーネガフィルム)はベースフィルムが茶色なので回折実験には使いづらいのである。
モノクロだとネガでもリバーサルでも大丈夫(ベースフィルムが透明)らしいが試していない(現像に日数が掛かるので使えなかった)。

プリンタで印刷

透明なOHPシートにパターンを印刷して,それにレーザーを当てて回折像をスクリーンへ映す。

OHPシート…若者は知らないだろう。筆者の世代だと学生の頃の学会発表での投影機器はOHP(オーバーヘッドプロジェクタ)で,発表の原稿をOHPシートに印刷して持っていったものである。
現在はビデオプロジェクタにノートパソコンを繋いでパワーポイントでプレゼンするのが普通であるが。
現在でも購入できるが,どこで使われているのだろう?

パターン原稿

印刷サイズを考えて1mmに図形が4〜6個ほど並ぶように作図をする。
:左上のブロックにパターンが描かれている。黒四角の中の縦棒は長さ1mm(目安です)。A4のOHPシートに印刷し,破線で切るとスライド用のマウントに入る(上の写真フィルムと同様)大きさになる。

プリンタ

OHPシート上の図形の間隔が0.25mmくらいとしたとき,プリンタの解像度との関係を考えてみる。
プリンタの解像度が600dpiの時に1dotが0.0423mm → 6dot分の間隔
プリンタの解像度が1200dpiの時には12dotくらいの間隔

というわけで,高解像度(1200dpi以上)のレーザープリンタを使用することで,大まかなパターンであればOHPシートに印刷することができる。
とはいえ,昔のレーザープリンタは普通にOHPシートで印刷できたが,最近のプリンタは対応していないのかOHPシートが滑ってしまって途中で詰まってしまうことが多い。
古めの高価な高解像度レーザープリンタを使いましょう。
(インクジェットプリンタは高解像用OHPシートに顔料インクの組み合わせを試せていない。一般的なインクジェット用OHPシートに染料インクでは滲んでしまい,使い物にならなかった)

【注意】ドライバ等の問題であろうか,筆者の研究室で色々なPCとプリンタの組み合わせで試した分ではWindows・Linuxマシンでは充分な解像度での印刷は出来ず,Macのみが回折像らしい回折像を映し出せるパターンの印刷が可能であった。