大阪大学

大学院理学研究科
高分子科学専攻 高分子材料設計学

研究テーマ - Research Theme

自己修復材料

迅速な自己修復性とリサイクル特性を併せ持つ強靭な超分子材料

Poly (ethyl acrylate)を主鎖とし、アセチル化βシクロデキストリン(PAcβCD)をホスト分子、アダマンタンをゲスト分子とするホストポリマーとゲストポリマーをそれぞれ重合した。そのポリマーを、遊星型ボールミルを用いて強力な混合力で混合した(図aに示したMethod A)。その結果、高分子鎖の運動性が向上し、従来の混合方法で作製した材料より3倍程度強靭になった。また、ボールミル後ガラスにコーティングした材料は傷が数秒以内で消えた。破壊後の材料を繰り返してボールミル処理すると、強靭さを保ったまま再びフィルムに再成形できた

(a)可逆的な架橋を用いた二種類の超分子材料の作製方法
強靭性、自己修復性及びリサイクル特性を持つ超分子材料

Park, J.; Murayama, S.; Osaki, M.; Yamaguchi, H.; Harada, A.; Matsuba, G.; Takashima, Y., Adv. Mater. 2020, 32(39), 2002008.

ホスト-ゲスト相互作用を用いた自己修復性ウレタン材料の作製

メチル化アミノβCDと1-アダマンタンアミン(1-AdNH2)の包接錯体を用いて、主鎖中に包接錯体を有するHG(x) ウレタンを作製した。包接錯体の導入量は材料の破壊エネルギー(Gf)と自己修復性に影響しており、ポリウレタン中にメチル化アミノβCDと1-AdNH2を10 mol%で導入したHG(10)のGfと回復性はHG(2.5)よりも向上し、最も高いGfと修復率を示した。ホスト―ゲスト相互作用はGfや自己修復性に重要な役割を果していた

HG(x)の化学構造と力学特性と自己修復率

Sinawang, G.; Asoh, T.; Osaki, M.; Yamaguchi, H.; Harada, A.; Uyama, H.; Takashima, Y., ACS Appl. Polym. Mater. 2020, 2(6), 2274-2283.

可逆性架橋からなる自己修復性エラストマーの作製とその力学特性

本研究では可逆的な架橋として、ホスト-ゲスト相互作用を選択した。ホスト分子には、代表的なホスト分子としてシクロデキストリン(CD)を選択した。  可逆的な結合からなる材料の作製には、ホストポリマーとゲストポリマーを混合する方法とホストモノマーとゲストモノマーの混合物から重合する方法がある(下図a参照)。本研究では、図aに示したMethod Bにあるホストモノマーとゲストモノマーの混合物から重合する方法を選択した。  高分子主鎖にはPoly(ethylacrylate) (pEA)を選択した。架橋の無いpEAは破断応力と破断歪ともに低い一方で、化学架橋点を有するpEA-BDAは破断応力が高いものの、破断歪の向上には至らなかった。可逆的な架橋を有するpEA-PMγCD-Adは破断応力と破断歪ともに向上する興味深い結果を示した(下図b参照)

(a)可逆的な架橋を用いた二種類の超分子材料の作製方法
(b)化学架橋pEAと可逆性架橋pEA-PMγCD-Adの応力歪曲線

Nomimura, S.; Osaki, M.; Park, J.; Ikura, R.; Takashima, Y.; Yamaguchi H.; Harada, A., Macromolecules 2019, 52(7), 2659-2668.

ホスト―ゲスト相互作用を用いた完全な自己修復の実現

CD をホスト分子とする、ホスト-ゲスト相互作用を用いた自己修復材料の作製方法は、光応答性ヒドロゲルの構築、酸化還元で自己修復をコントロールに示した、(1) 高分子の側鎖にホスト分子を修飾したホストポリマーと側鎖にゲスト分子を修飾したゲストポリマーを混合する方法、(2) ホスト分子修飾モノマーとゲスト分子修飾モノマーの包接錯体を架橋ユニットとして導入し重合させる方法がある。得られたヒドロゲル βCD-Ad ゲル(m, n) を切断し、再結合させた。再結合した数秒後には、自重を支えるほどの接着が見られた。(下図a参照)一方で、切断面へ競争分子(β-CD もしくはアダマンタンカルボン酸ナトリウム)を添加すると、24時間接着させたにも関わらず、接着しない挙動が確認された。また破断応力を測定により、応力回復率を測定した結果、24時間後には99%の回復率と切断面の消失が見られた。この様な修復挙動は、包接錯体の包接-解離により発現したと考えられる。(下図b参照)

βCD-Ad ゲルの接着挙動と接着機構
(a) βCD-Ad ゲルの切断―再接着試験 (b) βCD-Ad ゲルの自己修復機構
素早い自己修復挙動の発現

Kakuta, T.; Takashima, Y.; Nakahata, M.; Otsubo, M.; Yamaguchi, H.; Harada, A., Adv. Mater. 2013, 25, 2849.

酸化還元で自己修復をコントロール

酸化・還元刺激応答性の自己修復性超分子ヒドロゲルを作製するにあたり、ホスト分子として β-CD、ゲスト分子としてフェロセン (Fc) を選択した。β-CD はその空洞に Fc のサイズがフィットするために安定な錯体を形成する。Fc は還元状態では CD と包接錯体を形成するが、酸化状態の Fc+ では CD と包接錯体を形成しないことが明らかとなっている。 ゲルを切断し、切断面同士にて再び接合したところ、切断した際の傷が消失し、再接着が確認された。(下図a参照)
更に、ゲルの切断面に酸化剤を塗布し、表面のフェロセンをプラスイオン状態としたところ自己修復能の低下が確認された。続いて還元剤を塗布してフェロセン部位を中性状態に戻したところ元のように自己修復能の回復が認められた。(下図b参照)

ゲルの自己修復性と酸化還元応答性
(a) 形成したゲルの再接着試験。(b) 酸化還元の刺激を用いた自己修復性の制御実験
自己修復の機構
酸化還元による自己修復の制御

シクロデキストリンと酸化還元刺激に応答するフェロセンを導入した水溶性ポリマーを用いて、生体系に見られるような刺激に対する応答性、自己修復性を兼ね備えた材料を人工系で実現した。

Nakahata, M.; Takashima, Y.; Yamaguchi H.; Harada, A., Nat. Commun. 2011, 2, 511.

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