本年度から稲葉前センター長にかわりセンター長を務めることになりました.化学熱学レポートの巻頭言を執筆するにあたりバックナンバーを開いてみましたが,阪大の熱科学研究の蓄積が紹介されている一冊一冊にあらためて学術的な重みを感じています.同時に,大学院生の修士課程の学生だったころ,関先生が書かれていた断熱法の装置と研究の紹介記事を読んだ時の感動を思い出しました.熱測定の装置を作りながら研究に取り掛かっていた際に,ここまで細部のこだわって精密さを追求しないといけないことを知り衝撃を受けたとともに,自分がやろうとしている熱測定のテーマの責任と重要さを感じました.縁あって,ここ数年,この熱学レポートの一部を執筆させて頂いていることを不思議に感じながらも,初心に戻った気持ちで研究に取り組んでいく思いを新たに致しました.阪大の化学熱学レポートは,今号で No. 33 になります.化学熱力学実験施設からスタートし,3回の改組を経て,現在の構造熱科学センターになってから今年は4年目にあたります.分子がミクロなレベルでもっている様々な自由度が,相互作用を通してそれぞれの物質の集団的な個性につながっている物質の世界の真理を,エントロピーという熱力学量を通して理解していく研究視点はサイエンスの原点であると考えます.分子を1個みるだけでは,なかなか分からない集団秩序を定量的な指標で評価することの大事さを改めて感じます.
本年10月には,iPS 細胞の発見された京都大学の山中教授のノーベル医学生理学賞受賞といううれしい知らせが日本中を駆け巡りました.iPS 細胞の研究は間違いなく基礎医学分野の画期的な成果であり,再生医療への応用という出口まではっきりした位置付けが高く評価された結果です.また,一昨年帰還し,昨年は試料の解析などで大ブームをまきおこした小惑星探査機「はやぶさ」を使った宇宙開発研究でも,不測の事態を乗り越えてイトカワ由来の試料を持ち帰る科学技術の力を感じました.日本の基礎科学の発想力やそれを支える高い技術力が,他になかなか真似の出来ないオリジナリティとして評価されています.物質科学の分野でも,日本発の新物質が数々報告されており,様々な概念が世界に発信されています.独法化によって大学が競争や評価の時代に入り,教育プログラムのようなものまで競争的外部資金として位置付けられるようになっていますが,そのような情勢下でも,資源や人口に限りのある日本は,独自の発想と展開力,オンリーワンの技術やそれを使った新しい切り口で学問を育てていくことが要望されています.大阪大学の構造熱科学研究センターに与えられている使命も,オンリーワン的な熱測定技術を使って,物質の特徴をエントロピー等の熱力学量を通して鋭く切り,構造や相互作用の情報を他の手法と相補的に与えることにあります.基礎とオリジナリティを大事にする理学研究科附設のセンターであるメリットを最大限に生かして,物質科学の新しい展開を開いていきたいものです.
本冊子は,今年1年のセンターの活動をまとめたものです.是非ご一読頂き,ご意見等をお聞かせ頂けましたら幸いです.バックナンバーについては,センターのホームページに掲載しています.
教 授 | 稲葉 章 | |
教 授 | 佐藤尚弘 | 高分子科学専攻 |
教 授 | 滝澤温彦 | 生物科学専攻 |
教 授 | 中澤康浩 | 化学専攻(センター長) |
教 授 | 塚原 聡 | 化学専攻 |
教 授 | 深瀬浩一 | 化学専攻 |
教 授 | 宗像利明 | 化学専攻 |
教 授 | 稲葉 章 | |
准教授 | 宮崎裕司 | |
講 師 | 長野八久 | |
助 教 | 高城大輔 | |
外国人研究員 | Piotr M. ZIELINSKI | |
事務員(兼) | 細川裕子 | |
教 授(兼) | 佐藤尚弘 | (高分子科学専攻) |
センター長 教 授(兼) |
中澤康浩 | (化学専攻) |
助 教(兼) | 山本 貴 | (化学専攻) |
助 教(兼) | 山下智史 | (化学専攻) |
構造熱科学研究センターは,専任教員と兼任教員からなる.専任教員は全員,講義,演習,学生実験など化学専攻の基幹講座教員と同等の分担をしている.本務での講義担当の外,他大学での講義等も可能な限り要請に応じている.国際会議ならびに国内学会で行った研究発表は別途,リストにして掲載してある.国際学会については報告記事を参照して頂きたい.
宮崎は,大阪市立大学で1年生を対象とする講義「基礎物理化学B」を担当している(2012年10月〜2013年2月).また,奈良女子大学で大学院生を対象とする集中講義「ソフトマター化学特論T」を行った(2012年5月30日).センターの専任,兼任教員の担当,講義,セミナー,学生実験などは以下の通りである.
基礎セミナー(化学フロンティアV):稲葉,宮崎,高城,中澤,山本,山下/化学熱力学1:長野/国際教養科目(平和の探求):長野/基礎セミナー(現代市民社会と科学):長野/化学入門セミナー1(少人数セミナー):中澤/基礎セミナー(化学フロンティア\):佐藤/基礎化学1:佐藤/現代化学の基礎:佐藤
化学熱力学2:長野/化学入門セミナー2(少人数セミナー):宮崎,長野/基礎セミナー(平和研究入門):長野/共通教育化学実験:宮崎,山下/自然科学実験1:長野/基礎化学2:中澤/共通教育化学実験:山下/理学への招待:佐藤
化学熱力学1:稲葉/共通教育化学実験:高城/自然科学実験2:山本/基礎化学3:佐藤/化学発展セミナー:佐藤
化学熱力学2:稲葉/基礎化学実験:長野/化学オナーセミナー2:佐藤/高分子科学:佐藤
統計力学概論:中澤/化学実験1:宮崎,長野,高城,山本,山下
統計熱力学演習:宮崎,高城
物性化学:中澤/化学熱力学3:宮崎
構造熱科学:稲葉,宮崎,長野/凝縮系物理化学:中澤/大学院物理化学:中澤/固体電子物性:中澤/化学アドバンスト実験:高城,山本/高分子物理化学:佐藤/高分子溶液学特論:佐藤/サイエンスコアA・B:佐藤/ナノサイエンス・ナノテクノロジー高度学際教育研究訓練プログラム:佐藤
ナノプログラム 社会人講義 先端材料における熱計測:中澤
この一年間に博士(理学)が1名,修士(理学)が10名誕生した.
(*印は化学専攻,#印は高分子科学専攻の兼任教員の研究室に所属)
本年の各人の活動状況を以下に記す.
氏名 | 目的国 | 目的 | 期間 |
教授(兼) 佐藤尚弘 |
中国 | Polymer Physics 2012に参加(成都) | 自 2012.6.4 至 2012.6.9 |
教授(兼) 佐藤尚弘 |
アメリカ | IUPAC Macro 2012に参加(ブラックスバーグ) | 自 2012.6.23 至 2012.6.29 |
助教(兼) 山本 貴 |
アメリカ | ICSM 2012 に参加(アトランタ) | 自 2012.7.8 至 2012.7.13 |
教授(兼) 中澤康浩 |
ブラジル | ICCT2012 に参加(ブジオス) | 自 2012.8.4 至 2012.8.12 |
助教 山下智史 |
アメリカ | KITP Conference 2012 Exotic Phases in Frustrated Magnets に参加(サンタバーバラ) |
自 2012.10.8 至 2012.10.12 |
来訪者 (Visitor) |
所属 (Affiliation) |
訪問期間 (Visiting days) |
Dr. Natalia Górska | Jagiellonian University, POLAND | – April 2, 2012 |
Prof. Tadeusz Wasiutyński | Institute of Nuclear Physics, Kraków, POLAND |
Jan. 12, 2012 – April 12, 2012 |
Prof. Xiaozheng Lan | Shandong Agricultural University, CHINA |
February 13, 2012 – February 16, 2012 July 31, 2012 – August 29, 2012 |
Prof. Xuwu Yang | Northwest University, CHINA | February 13, 2012 – February 16, 2012 |
Dr. Gang Xie | Northwest University, CHINA | February 13, 2012 – February 16, 2012 |
Mr. Zhilun Zhu | Shanghai Tian Ying Technology Co., Ltd., CHINA | February 13, 2012 – February 16, 2012 |
Prof. Arun Yethiraj | University of Wisconsin, USA | April 10, 2012 |
Ms. Heloisa E. Hoga | Universidade Estadual de Campinas,
BRAZIL |
August 23, 2012 |
Prof. Thomas J. McCarthy | University of Massachusetts, USA | October 17, 2012 |