徂徠道夫名誉教授が平成24年度
錯体化学会貢献賞を受賞

元センター長の徂徠道夫名誉教授が,大変栄誉なことに今年度の錯体化学会貢献賞を受賞されました.受賞理由は「機能性金属錯体の分子論的熱力学の展開」に対する貢献とのことで,9月21〜23日に富山大学で開催された錯体化学会第62回討論会で授与式と受賞講演が行われました.徂徠先生の今回の受賞は,私たちセンターの全構成員ばかりでなく,熱測定に携わる者,とりわけ分子磁性の熱的研究に携わる者にとっても,大いなる慶びと誇りであり,また大変励みとなる受賞でした.ここに,お祝いと共に感謝の意を表したいと思います.

受賞講演は,物性研究に対する熱力学的手法の有効性,特にエントロピーの重要性に始まり,5配位 Fe(V)錯体の磁気相転移,強磁性電荷移動錯体の磁気構造・磁気異方性,集積型金属錯体の磁気相転移・磁気構造,有機金属化合物の分子運動・電子状態の温度変化,Fe(U)スピンクロスオーバー錯体の相転移,擬一次元 MMX 型混合原子価錯体の相転移,サーモクロミズム錯体の相転移・分子運動,集積型混合原子価錯体の電荷移動・スピン状態変化と,多岐にわたった非常に興味深い内容の講演でした.なお,今回の受賞に関しては,次頁以降に掲載されているように,徂徠先生ご本人からも寄稿していただきました.

徂徠先生は,現在も論文・総説執筆や集中講義など精力的に活動されていて,つい最近も長編の Chemical Reviews 誌の分子磁性体に関する総説のアップデート版を完成されたところです.徂徠先生の益々のご活躍をお祈り申し上げます.

(宮崎裕司)

【錯体化学会貢献賞を受賞して】

日本錯体化学会から,思いもかけず貢献賞に推挙したいとの打診があった.退職して久しいので,もっと若い現役の方がふさわしいのではないかとためらったが,熱測定の重要性を高く評価していただけることは,後に続く若い熱測定研究者の励みにもなるとの思いから,推薦をお受けすることにした.その結果,はからずも受賞の栄誉に浴し,9月21−23日に富山大学で開催された錯体化学会第62回討論会で,授与式と受賞講演の晴れがましい舞台に立たせていただいた.受賞理由は「機能性金属錯体の分子論的熱力学の展開」に対する貢献とのことである.錯体化学会討論会(当初は錯塩化学討論会)は,わが国の化学分野では最も歴史の長い伝統ある討論会で,錯体化学会の会員数は約1100名である.そのような学会から熱測定の重要さを評価していただいたのは大変嬉しいことで,ご協力いただいた多くの皆さんと喜びを分かちあいたい.

大阪大学理学部には,わが国の錯体化学の黎明期に大きな足跡を残された槌田龍太郎先生がおられ,第2回錯塩化学討論会が1952年に大阪大学で開催されている.私は1962年に大学を卒業したが,卒業式のあと化学科のクラスメート約20名と一緒に,卒業報告をかねて阪大病院に入院中の槌田先生をお見舞いした.卒業証書を見せて欲しいと言われたので,枕元に一番近かった私が証書をお見せすると,「おめでとう.これからは君達の時代だ.がんばってください.」と言われ,目を潤ませておられた.誠に残念なことに,それから間もなく5月9日にお亡くなりになり,私たちが槌田先生の無機化学の講義を受けた最後の学年ということになる.第二次世界大戦のとき,槌田研究室は富山県に疎開されていたそうで,富山の地で錯体化学会貢献賞をいただいたことに槌田先生とのご縁を感じながら,感慨深いことであった.

学位取得後,私はスピンクロスオーバー錯体の熱容量を世界に先駆けて測定し,大きなエントロピー変化を伴う相転移を観測し,スピンクロスオーバー現象における振動自由度の重要性を見出した.ミクロな立場からスピンクロスオーバー現象を理解するため,アレキサンダー・フォン・フンボルト財団の博士研究員として1年10ヶ月,西ドイツのギュートリッヒ教授(Prof. Philipp Götlich)の研究室で57Feメスバウアー分光によるスピンクロスオーバー現象の研究を行なった.この経験も契機となり,国の内外に実に多くの錯体化学や分子磁性の研究者の知己を得て,実り多い共同研究を展開することができた.若い時にある程度長期にわたって海外で武者修行することは,とても有意義である.若い人が積極的に留学することを願っている.熱物性の研究室に所属していながら,メスバウアー分光による研究をするための留学を許可してくださった恩師関 集三先生のご配慮に,心より感謝申し上げたい.

(徂徠道夫)


JSCC Contribution-Award


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