独法化後の中期計画も第二期半ばを過ぎ,大学院,学部,さらには部局をこえたかたちで大学改革の実質化が目まぐるしい勢いで進んでいます.中教審,文科省からも国立大学改革プランが出され,各大学で独自性を出しながら第三期に向けての検討に入って行くことになります.大阪大学でも研究拠点の形成,グローバル化,部局マネジメントの充実化を掲げ世界的な研究大学を目指した動きが始まり,また,教育面でもデザイン力の強化,カリキュラムの体系化,GPA 制度の導入などが今年度から年度計画に基づき改革がどんどん進んでいます.理学研究科,理学部では,早くからオナーセミナーや能動性懇談会の活動を通じて意欲のある学生を支援した先進的な試みを進めてきました.また,今年は,思考型の学生を受け入れる挑戦枠や高校での自主研究活動を評価する AO などの新しい入試もスタートし第一期生を迎えています.大学院でも,カデットプログラムと呼ばれる新しい物質科学系のリーデング大学院がスタートしました.国際的に活躍できるリーダーとなるような研究者の育成が急務になっていくようです.熱力学の分野でも,次世代のリーダーとして牽引してくれる数多くの若手が,こうした新しい枠組みを使って,ダイナミックに活動してくれれば有難い限りです.変化の波は激しく進みますが,基礎科学の根元に位置する熱力学研究は,基礎技術,実験手法を大事にしながら様々な分野と協力しあいながら新しい概念を構築できるような理学を進めていくことが最も重要だと感じます.研究センターとしての先進的な発信を継続しながら,熱力学の関わる新しい分野の開拓に貢献していきたいと思います.
昨年のNo. 33を発刊した後のこの1年を振り返ってみると,構造熱科学センターにとって大きな変化の年でした.センターの専任教授として,また2011年度末まではセンター長としてセンターだけでなく熱科学の学術領域を牽引して頂いていた稲葉章先生が,2013年3月をもって定年退職されました.3月8日に最終講義「構造熱科学を目指して バルクから単分子膜へ」が行われ,数多くの関係者,卒業生が参加されました.稲葉先生らしい鋭い切り口と,精密な解析,時には大胆な仮説をたてながら機知に富んだ発想で現象を解明してきたこれまでの研究ヒストリーをお聞きすることが出来ました.ご自身で測定したばかりの新しいデータも数多く発表され,熱力学研究の魅力を堪能することができました.稲葉先生のメチル基の回転に関する熱や中性子回折の論文は,今から20年程前に,当時,在籍していた分子研でアンモニウムイオンのトンネル回転の問題に直面した時,図書館にこもって詳細に読ませて頂いたことを思い出します.阪大でお会いするよりもずっと前の事ですが,熱を用いることで,ここまで低エネルギーの詳細なスペクトロスコピーができるのかと感銘を受け,必死に理解しよとしたのを思い出します.センターの一つの財産となるような学術成果を残して頂けたことを,改めて感謝申し上げます.
2013年5月21日には,阪大の熱科学研究に道をつけて頂き,現在のセンターの前身である化学熱学実験施設の設立と日本熱測定学会の設立をご主導頂いた関集三名誉教授が,ご白寿を迎えられました.センターにとっては本当に嬉しい限りであり,センター関係者,卒業生,現役の教職員一同,今後の先生のご健勝を心より祈念致します.一方で,初代の施設長を努めて頂いた千原秀昭名誉教授が6月23日にご他界されました.阪大理学部の実験テキストである,物理化学実験法の第5版の編集に加えて頂き,実験書の書き方など時に厳しくご指導頂きました.ご冥福をお祈りいたします.
さて,来年2014年は熱測定討論会が第50回の記念討論会を迎え,この大阪大学豊中キャンパスで行われます.世界的にみても,北米のカロリメトリーコンファレンスに次ぐ,長い歴史のある熱の討論会が日本で毎年続いていることに責任を感じるとともに,あらためましてセンターとして新しい時代の熱科学を進められるように努力して参りたいと思います.
本冊子は,1年間のセンターでの研究や教育の活動をまとめたものです.是非,ご一読頂き,ご意見等をお聞かせ頂けましたら幸いです.バックナンバーについては,センターのホームページに掲載しています.
教 授 | 佐藤尚弘 | 高分子科学専攻 |
教 授 | 滝澤温彦 | 生物科学専攻 |
教 授 | 塚原 聡 | 化学専攻 |
教 授 | 中澤康浩 | 化学専攻(センター長) |
教 授 | 花咲徳亮 | 物理学専攻 |
教 授 | 深瀬浩一 | 化学専攻 |
教 授 | 宗像利明 | 化学専攻 |
准教授 | 宮崎裕司 | |
講 師 | 長野八久 | |
助 教 | 高城大輔 | |
外国人研究員 | Piotr M. ZIELINSKI | |
事務員(兼) | 安倍貴子 | |
教 授(兼) | 佐藤尚弘 | (高分子科学専攻) |
センター長 教 授(兼) |
中澤康浩 | (化学専攻) |
助 教(兼) | 山下智史 | (化学専攻) |
構造熱科学研究センターは,専任教員と兼任教員からなる.専任教員は全員,講義,演習,学生実験など化学専攻の基幹講座教員と同等の分担をしている.本務での講義担当の外,他大学での講義等も可能な限り要請に応じている.国際会議ならびに国内学会で行った研究発表は別途,リストにして掲載してある.国際学会については報告記事を参照して頂きたい.
宮崎は,大阪市立大学で1年生を対象とする講義「基礎物理化学B」を担当している(2013年10月〜2014年2月).センターの専任,兼任教員の担当,講義,セミナー,学生実験などは以下の通りである.
化学熱力学1:長野/国際教養科目(平和の探求):長野/基礎セミナー(現代市民社会と科学):長野/化学入門セミナー1(少人数セミナー):中澤/基礎セミナー(化学フロンティアIX):佐藤/基礎化学1:佐藤/現代化学の基礎:佐藤
化学熱力学2:長野/化学入門セミナー2(少人数セミナー):宮崎/基礎セミナー(平和研究入門):長野/共通教育化学実験:宮崎,山下/自然科学実験1:長野,山下/基礎化学2:中澤
自然科学実験2:高城/化学熱力学1:中澤/基礎化学3:佐藤/化学発展セミナー:佐藤
基礎化学実験:長野/化学熱力学2:中澤/化学オナーセミナー2:中澤,山下,佐藤/高分子科学:佐藤
化学実験1:宮崎,長野,高城,山下/統計力学概論:中澤
統計熱力学演習:宮崎,高城/化学オナーセミナー4:中澤,山下,佐藤
化学熱力学3:宮崎/物性化学:中澤
構造熱科学:宮崎,長野/化学アドバンスト実験:高城/凝縮系物理化学:中澤/大学院物理化学:中澤/固体電子物性:中澤/高分子物理化学:佐藤/サイエンスコアA・B:佐藤/ナノサイエンス・ナノテクノロジー高度学際教育研究訓練プログラム:佐藤
ナノプログラム 社会人講義 先端材料における熱計測:中澤
この一年間に修士(理学)が12名誕生した.
(*印は化学専攻,#印は高分子科学専攻の兼任教員の研究室に所属)
本年の各人の活動状況を以下に記す.
氏名 | 目的国 | 目的 | 期間 |
教授(兼) 中澤康浩 |
韓国 | ソウル大学,ヨンセイ大学訪問(ソウル) | 自 2013. 1.22 至 2013. 1.23 |
教授(兼) 中澤康浩 |
アメリカ | CALCON 2013 に参加(アトランティックシティ) | 自 2013. 8.20 至 2013. 8.25 |
教授(兼) 中澤康浩 |
ウクライナ | NATO ワークショップ,国際会議に参加(ヤルタ) | 自 2013. 9.28 至 2013.10. 3 |
教授(兼) 中澤康浩 |
中国 | IUPAC NMS-IX に参加(上海) | 自 2013.10.18 至 2013.10.20 |
来訪者 (Visitor) |
所属 (Affiliation) |
訪問期間 (Visiting days) |
Prof. Piotr M. Zieliński | Institute of Nuclear Physics, Kraków, POLAND |
June 29, 2012 – March 28, 2013 |
Mr. Piotr M. Konieczny | Institute of Nuclear Physics, Kraków, POLAND |
November 5, 2012 – December 5, 2012 |
Dr. Yoshikata Koga | University of British Columbia, CANADA |
December 18, 2012 – February 19, 2013 |
Prof. Bjφrn E. Christensen | Norwegian University of
Science and Technology, NORWAY |
February 18, 2013 |
Prof. Sergei P. Kruchinin | Bogolyubov Institute for Theoretical Physics, CHINA |
July 1, 2013 – August 16, 2013 |
Ms. Heloisa E. Hoga | Universidade Estadual de Campina, BRAZIL |
July 25, 2013 |