Fig. 1. Chemical Structures of amylose tris(ethylcarbamate) (1. ATEC), amylose tris(n-butylcarbamate) (2. ATBC), and amylose tris(n-hexylcarbamate) (3. ATHC).
Fig. 2. Comparison of experimental phase boundary concentrations for ATBC (circles), ATEC (triangles), and ATHC (squares) along with those for cellulose tris(phenylcarbamate) CTPC all in THF at 25 °C (inverse triangles). Filled and unfilled symbols denote experimental cI and cA, and solid and dashed curves are theoretical cI and cA, respectively. (Color online)
Fig. 3. SAXS intensity profiles for ATBC in ELs at 25 ° C.
炭水化物の主成分であるデンプンは多くの分岐をもつアミロペクチンと鎖状のアミロースからなります.このアミロースの水酸基をアルキルカルバメート化したアミローストリス(エチルカルバメート)(ATEC),アミローストリス(n-ブチルカルバメート)(ATBC),アミローストリス(n-ヘキシルカルバメート)(ATHC)はテトラヒドロフラン(THF)や乳酸エチル(EL)などの溶媒中で棒状高分子として振る舞うことがわかっています.Fig. 1にこれらの化学構造を示します.
狭い場所に爪楊枝のような棒状のものを多く詰め込むにはきれいに並べたほうが良いのと同じように,棒状高分子の濃厚溶液はしばしば分子が局所的に配向した液晶相を形成します(リオトロピック液晶性).そこで,本研究ではこれらの高分子の液晶について,液晶相の発現する相図を決めると共に,液晶の構造を小角X線散乱測定により決定しました.
図2に上記の3つのアミロース誘導体のTHF溶液の相図を示します.縦軸のcI,cAはそれぞれ等方相と二相領域,二相領域と液晶相の境界の質量濃度です。また横軸のλはKuhnの統計セグメント数で高分子の重量平均モル質量Mwに比例する量です.3つのアミロース誘導体の相境界濃度(cI,cA)は,アルキル鎖長の伸長に伴い,低くなること,またそれらは典型的な液晶性高分子であるセルロース誘導体よりも低いことがわかります.実線及び破線で示した理論値からわかるように,これらの実験値は高分子の形態や分子間相互作用を考慮した熱力学理論により,ほぼ定量的に再現されます.
得られた液晶は濃度や温度等にもよりますが,ある特定の色の可視光線を反射し,色付いて見えるコレステリック液晶になります.アミロース誘導体は左巻きのらせん構造をもつため,液晶相中で隣り合う分子との間に一定の角度を生じるためです.この一定の角度をθとするとさらに次の分子は2θだけ傾き,いずれは180°になります.この間隔が可視光線の波長となる場合、その波長の光が反射されるため,先に述べた色が観測されます. THF中で見られた液晶及びその相図が過去の研究で明らかにされた他の棒状高分子系に類似していたのに対し,乳酸エチル中では高分子の形態に大きな違いはないにもかかわらず,極めて広い二相領域が観測され,従来の理論のみでは説明できないことがわかりました.ATBCのD-乳酸エチル(D-EL)及びL-乳酸エチル(L-EL)について行った小角X線散乱の結果をFig. 3に示します.2つの溶媒中では同じようなピークが出現し,それらは層状構造があることを示します.また,その間隔が,高分子鎖の長さに近いことからこの系は,スメクチック相であることがわかりました.溶媒により,大きく異なる液晶相が現れた原因として,乳酸エチル中における強い末端間相互作用や,2分子が平行に近づいた際に他の角度で近づくよりも強い引力が働く異方的な相互作用の影響が考えられますが,これらを直接的に示す実験データは得られておらず,今後の検討が必要になります.