研究紹介 19

環状アミロースを原料とした
剛直環状高分子の創製とその溶液物性

Fig. 1
Fig. 1. Chemical structure of cyclic amylose tris(n-butylcarbamate).

Fig. 2
Fig. 2. Molar mass dependence of z-average radius of gyration <S2>z1/2 for cATBC (unfilled circles) and linear ATBC (filled circles) in THF at 25 °C. Solid black curves, theoretical values for cylindrical wormlike ring. Dashed and dot-dashed lines, theoretical values for rigid ( λ−1 = ∞) and rather flexible ( λ−1 = 4 nm) cyclic cylinders. (Color online)

Fig. 3
Fig. 3. Polarized light micrograph of concentrated THF solutions for (a) cATBC45K (c = 0.69 g cm−3) and (b) cATBC75K (c = 0.45 g cm−3), where c denotes polymer mass concentration. (Color online)

環状高分子は,生物界には原核生物のDNAやプラスミドなどがあります.これを人工的に合成する場合には,まず直鎖高分子を調製したのちに,その両端を化学結合させる必要があり,大量に調製するのは容易ではありません.また,得られる高分子は柔らかい鎖に限られていました.我々は,高純度の環状アミロースが酵素合成より調製可能であること,そして,アミロースのn-ブチルカルバメート誘導体が剛直鎖として振る舞うことを利用して,剛直な環状鎖を得ることに成功しました.得られた環状アミローストリス(n-ブチルカルバメート) cATBCの化学構造をFig. 1に示します.実際に調製した高分子が剛直環状鎖として振る舞うことを示すために,本研究では重量平均モル質量Mwが1.6 × 104から1.1 × 105までのcATBC試料を調製し、それらのテトラヒドロフラン(THF)溶液,2-プロパノール溶液,そしてメタノール溶液について,小角X線散乱測定を行い,平均二乗回転半径<S2>zや粒子散乱関数を決めました.

Fig. 2にTHF中におけるcATBCの<S2>z1/2Mwに対してプロットしたものを示します.cATBCの<S2>z1/2は直鎖ATBCのそれよりも有意に小さく,直鎖とほぼ同じ剛直性(剛直性パラメーター λ−1で表現される)をもつ環状鎖に対する理論値で再現できることがわかります.測定したモル質量の範囲でデータ点は剛直環状鎖の極限に近く,剛直環状鎖が実際に得られたことがわかりました.

Fig. 3に偏光顕微鏡写真を示すように,実際,cATBCの濃厚溶液は,液晶相になることも確認されました.また,直鎖のATBCはメタノール中ではTHF中よりも約7倍屈曲性が高くなりますが,メタノール中におけるcATBCも同様に7倍高い屈曲性を示すことがわかりました.この溶媒による剛直性の違いは主に分子内水素結合状態の違いであることが赤外吸収測定より明らかにされました.

高分子間の分子間相互作用は低分子気体の場合と同様にビリアル係数を用いて議論されます.環状高分子の第二ビリアル係数A2には鎖を構成するセグメント間の相互作用の他に,2つの環状鎖を切ることなしにお互いの輪に入ることができないトポロジカルな効果がA2を増加させることが知られています.本研究で初めて得られた剛直環状鎖間の分子間相互作用にもこのトポロジカルな効果が影響していることを確かめるために,直鎖ATBC分子間の相互作用が消失する(すなわちA2が0となる)シータ溶媒である2-プロパノール中においてcATBCのA2が正になることを見出しました.得られた値は,トポロジカル相互作用のみを考慮したモンテカルロシミュレーションの結果とほぼ一致しました.これは剛直環状鎖のトロポロジカルな分子間相互作用が初めて実測された例になります.

(寺尾憲,佐藤尚弘)

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