重元素の基礎知識


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周期表

原子番号が101番(Md: メンデレビウム)以降の元素
= 重元素と呼ぶ

原子番号が104番(Rf: ラザホージウム)以降の元素
= 超重元素と呼ぶ


これらの元素は全て放射性であり、 原子核の壊変により違う元素に変わってしまう。


天然には存在していない!!


重い元素はどうやって作るの??

その前に・・・

原子は陽子・中性子・電子から出来ています。 原子番号は原子核の陽子の数(Z)で決まります。 原子の重さは陽子の数(Z)と中性子の数(N)の和でほぼ決まります。 この和が大きい程、重い原子といえます。 この和のことを原子の質量数(A)と呼びます。


例えば原子番号が101番、質量数が258のMd(メンデレビウム)は陽子が101個,中性子が
258 - 101 = 157個
の原子核を持ちます。また、中性原子では、電子数は101個となります。


原子の構造
重い元素の合成法

重い元素は、ある原子Aをある原子Bに衝突させ,両者を 核融合(Nuclear Fusion) させることによって作ることが出来ます。

例えば2004年、理化学研究所にて世界で初めて113番元素が合成されましたが、このときは以下のような核融合反応が用いられました。

83Bi + 30Zn = 113Uut

ビスマス(Bi)の83個の陽子と亜鉛(Zn)の30個の陽子が融合し113個の陽子を持つ新たな元素が生成

重い元素は
・合成できる確率が非常に小さい
・放射壊変によってすぐに異なる元素に変わる
という特徴を持ちます。そのため…

一度に合成できる量は
わずか数原子です。(超重元素になると1原子!)

重元素・超重元素ではすぐに放射壊変して別の元素に変化してしまう。
そもそも、たった数原子を検出するにはどうしたら良いのだろう?

検出法の比較

従来の方法(例えば質量測定や発光測定)では、原子を検出するために非常に多くの原子数が必要となります。 そのため、同時に数原子しか作り出すことが出来ない重元素・超重元素を検出することは不可能です。

しかし!!

放射壊変の中でもα壊変(と自発核分裂)だけは、低いバックグラウンド状況により、たとえ 原子数が1個でも検出が可能 となります!! ただし、飛程の短さ(空気中で数cm)からその測定試料の作成等に工夫が必要で、 超重元素の化学研究における大きな難題の一つとなっております。

話は少し飛びますが・・・ 放射壊変とはなんぞや???

放射壊変とは・・・

原子核から 放射線が放出されて自発的に他の原子に変換する 現象。 原子核の性質によって 様々な壊変の様式 があります. 代表的な例をいくつか紹介します.

α壊変 A/Z X → A-4/Z-2 Y + 4 He
ある原子Xの原子核から4He原子が飛び出す壊変をα壊変といいます。 この4Heはα線と呼ばれます。 Xは原子番号が2,質量数が4小さい原子Yへと変換します。
β壊変 A/Z X → A/Z+1 Y + e + ν
ある原子Xの原子核から電子e(+/-)が飛び出す壊変をβ(+/-)壊変といいます。 この電子eはβ線と呼ばれます。 Xは原子番号が1異なる原子Yへと変換します。
γ壊変 A/Z X → A/Z X + γ
ある原子Xが壊変後,励起状態からより低エネルギーの状態に遷移する際に光子(電磁波)が放出される壊変をγ壊変といいます。 この光子はγ線と呼ばれます。 γ壊変自体ではXの変換は起こりません。
壊変様式

重元素・超重元素は放射性であるという点が幸いして、たとえ1原子でも検出が可能です。 そのため、それらの 未知なる化学的性質の探求 も可能となります。

重元素・超重元素の化学的性質??

周期律と相対論効果

周期表の縦の列の元素(同族元素)同士は化学的性質が似ている。

重元素・超重元素では…

相対論効果による周期律からの逸脱が予想される。


相対論効果とは??(理論的予測)
(m: 電子の質量,v: 電子の速度,r: 電子の軌道半径,Z: 原子番号,e: 電子1つ当たりの電荷)

電子の遠心力と,原子核の静電的引力のつりあい

mv^2/r = Ze^2/r^2

ボーアの量子化条件
(1s軌道: 原子の内側の軌道)

mvr=eta

(1)式を(2)式より変形して下に示す(3),(4)式となる。

r=1/Z・eta^2/me^2

ここで1s電子の速度vを光速cで割ると、式(5)のように変形される。

v/c=Ze^2/ceta=Z/137

この式は 原子番号Zが大きくなるほど、1s電子の速度が光速に近づく ということを意味する。

(特殊)相対性理論の式より

電子の速度vが光速に近づくと、分母の値がゼロに近づくため, 電子の見かけの重さmは,無限に大きくなる。 そのことにより、 1s軌道半径が小さくなる。

m=m0/(1-v/c)^0.5

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重元素・超重元素のように原子番号が大きくなると、 原子核近傍の電子が光速に近づき、 電子の重さが大きくなることにより、 軌道が収縮します。

原子の内側の電子軌道が小さくなると、 その内殻電子による原子核のプラスの電荷の遮蔽効果が高まり、 外側の電子軌道半径は逆に広がります。

これが相対論効果である!!


超重元素を化学する!!

超重元素ラザホージウム(Z =104)についての化学的研究

ラザホージウム(Rf)のフッ化物錯体の安定性についての研究が原子力機構にて行われました。 その結果、 ラザホージウムのフッ化物錯形成が、 同族元素であるジルコニウム(Zr)や ハフニウム(Hf)に比べて弱い可能性が指摘されています!

果たしてこの結果は相対論効果による影響なのでしょうか? 理論的な研究サポートや、 その他のさまざまな錯形成に対する実験結果が必要です! さらに重い元素の性質はどうなのでしょう? 超重元素の化学研究はまだまだこれからです。

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最後に

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元素の周期律発見当時の周期表

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現在の周期表

研究者たちは元素の周期律発見以降、 競って新元素の探索を行ってきた。 周期表はどこまで拡張されるのだろうか?? 新元素の化学的性質は?? これらは未だ未知のままである。 これらの謎を解明するために、 我々は若きチャレンジャーを待っている!!! (それほど若くなくてもいいよ。)


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