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研究概要

溶液中における高分子は、その分子形態に高い自由度をもち、無限に近い数の分子形態をとることができます。このため、高分子は低分子にはない様々な特徴をもちます。たとえば高分子内、そして溶媒分子との弱い相互作用により、高分子の分子形態が様々に変化します。さらに水素結合や静電相互作用などの強い分子内相互作用があると、ミセルやベシクル、そして微小な濃厚相液滴などの複雑な構造を形成します。また溶媒分子を介した高分子間の相互作用は、さまざまな相分離を引き起こします。このような現象は生体高分子が示す機能とも相関しています。高分子溶液が示す様々な特性を明らかにするために、当研究室では溶液中における1本の高分子鎖からその集合体、ナノ粒子などとの複合体形成挙動、そして高分子溶液の相分離現象などを、各種散乱法および分光法をはじめとした最新の分析手法を駆使して明らかにすることを目的に研究しています。

Research overview

Macromolecules in solution can take a nearly infinite number of conformations due to their high degree of freedom of internal rotations. Macromolecules in solution have, therefore, specific characteristics not found in small molecules. Intramolecular interactions in a macromolecule and intermolecular interactions with solvent molecules significantly influence the molecular shape in solution. Furthermore, strong intramolecular interactions, including hydrogen bonding and electrostatic interactions, lead to the formation of micelles and aggregates. The intermolecular interactions between polymers through solvents can also cause various phase separations. Such phenomena correlate with the functions in biosystems. Our research aim is to clarify the various phenomena exhibited by macromolecules in solution, that is, single chain conformation, complex formation behavior, and phase separation behavior by using the latest scattering and spectroscopic methods.
Macromolecular Solutions Lab



研究成果については以下のアニュアルレポートの記事の抜粋をご覧ください
2022 2021 2020 2019 2018 2017 2016 2015 2014 2013 2012 2011 2010 2009 2008
アニュアルレポート2022(2023年5月発行)より

塩化ナトリウム水溶液中における二重らせん多糖ザンサンの変性および再形成過程の動力学
塩水溶液中低温で二重らせん構造をとるザンサンは、古くから増粘剤として食品に用いられている。高分子鎖の分子形態は溶液の粘性率に大きく影響するが、ザンサンの分子形態の温度変化、特に急激な温度変化に対する、分子形態の時間変化についてはほとんど研究されていない。そこで本研究ではザンサン-塩化ナトリウム水溶液について、急激な温度変化に伴う二重らせん構造の融解および再形成過程を小角X線散乱(SAXS)、円二色性(CD)測定によって調べた。温度上昇に伴い、CDで観測される側鎖の構造変化が迅速であるのに対し、SAXSより観測される主鎖の融解はゆっくりであることを明らかにした。これに対し、温度低下に伴う、二重らせん構造形成は、主鎖の二重らせん構造形成が先行し、側鎖の構造形成には1日以上の時間を要することもわかった(図1)。多重らせん構造の融解や再形成には、おもにCDなどの分光法を用いて調べられることが一般的であるが、高分子自体の形の変化をより直接的にとらえるSAXS法を併用することにより、中間体の存在が明らかになった。

図1. NaCl水溶液中でのキサンタンの変性と再形成過程の模式図

シリカナノ粒子とザンサンの複合体形成挙動
当研究室では最近、シリカナノ粒子とコラーゲンが水溶液中で静電相互作用による複合体を形成すること、そしてシリカナノ粒子の分布状態がコラーゲンの分子形態によって大きく変化することを報告した。そこで本研究では、水溶液中で温度変化に伴い、可逆に二重らせん―1本鎖の構造変化を起こす高分子電解質多糖ザンサンと正に帯電したシリカナノ粒子とのポリイオンコンプレクス形成挙動を研究した。電気泳動光散乱よりゼータ電位が反転する混合比付近で沈殿が観測されたのに対し(図2)、ザンサン過剰の条件ではザンサン含量の増加とともに流体力学的半径が減少したことから、過剰量のザンサンが複合体を安定化していることがわかった。また小角X線散乱測定より、複合体中でシリカ粒子は比較的疎に分布しており、ザンサンのコンホメーションはシリカ粒子の集合状態に大きな影響を与えないこともわかった。
  • Yu Tomofuji, Ken Terao*, Macromol. Symp., Vol. 408, No. 1, 2200024 (2023). [10.1002/masy.202200025] [OUKA Available on Apr. 13, 2024]

図2. 混合比cx/cSiNPの異なるシリカナノ粒子とザンサンの混合水溶液の写真。ただしcSiNP = 0.6 mg cm−3

多分岐構造を持つ高度分岐環状デキストリンカルバメート誘導体の分子構造とキラル認識能の解明
アミロペクチンを酵素処理して合成される高度分岐環状デキストリン(HBCD)は、水溶性、アミロペクチンと比較して狭い分子量分布をもつ。このHBCDを原料としてジメチルフェニルカルバメート誘導体(HDMPC)を合成した。この高分子は図3に示すような剛直鎖からなる分岐鎖となる。有機溶媒中での分子形態を散乱法、粘度法により調べた。 得られた回転半径と固有粘度は、同じモル質量をもつ線状鎖試料よりもはるかに小さく、形状因子は既存の多分岐鎖の理論で説明できた。 HDMPCをシリカ粒子に担持させたキラルカラムは8種のラセミ体に対してキラル分離能を示し、線状鎖とは異なる化合物を分離すること、すなわち、多分岐鎖と低分子との分子間相互作用が線状鎖とのそれとは有意に異なることを明らかにした。

図3. 酢酸メチル中におけるHDMPCの形状因子P(q)(左)とキラル分離カラムの模式図(右)。

アニュアルレポート2021(2022年5月発行)より

リオトロピック液晶相における剛直な環状高分子の配向状態
環状のアミローストリス(n-ブチルカルバメート)は有機溶剤(テトラヒドロフラン、L-乳酸エチル)中で液晶相を形成する。本研究では、相図を決定するとともに、液晶相中の高分子鎖の配列をX線回折法により調べた。相境界濃度が同分子量の線状鎖と変わらないこと、そして広角領域のX線回折が線状鎖の濃厚溶液のそれにかなり近いことから、濃厚溶液中では環状構造がつぶれた擬似的な棒状構造をとっていると推定した。この棒状構造を仮定したモデルで等方-液晶相図も理論的に説明が可能であることを確認した。
  • Daigo Kabata, Akiyuki Ryoki, Shinichi Kitamura, Ken Terao*, Macromolecules, Vol. 54, No. 23, 10723-10729 (2021). [10.1021/acs.macromol.1c01783 free!] [AoR free!]



コラーゲンとシリカナノ粒子の複合体形成速度
負に帯電したシリカナノ粒子の水溶液を正に帯電したアテロコラーゲン水溶液と混合し、時間分解SAXS測定を行った。5-20分くらいの時間をかけて散乱強度が緩やかに変化し、一定値に近づくことが見出された。アテロコラーゲンを介したシリカナノ粒子の凝集は分のオーダーで凝集すること、すなわち、凝集構造形成は溶液混合に比べて十分ゆっくりとした過程で溶液混合の方法にはあまりよらないことがわかった。



アニュアルレポート2020(2021年5月発行)より

静電的相互作用によるコラーゲンと高分子・微粒子との複合体形成
水溶液中低温で可逆的な三重らせん構造を形成するコラーゲンモデルペプチド(CMP)は塩濃度20 mM あるいは50 mMのNaCl水溶液中15℃でナトリウム塩型ヘパリン(NaHeparin)と複合体を形成する。複合体化に伴って三重らせん構造は安定化され、その融解温度は高くなった。複合体塩水溶液の散乱関数の解析より、CMP三重らせんはNaHeparin鎖に寄り添うように配置していることが分かった(図3参照)。複合体形成にはCMP 鎖末端とNeHeparin間の静電引力が重要であるが、そのほかにも引力的な相互作用が働いているためと考えられる。
他方、pH 3または4で負に帯電したシリカナノ粒子(Ludox)はこれらのpHで正に帯電したアテロコラーゲンと複合体を形成する。この複合体形成は、三重らせん構造の熱安定性にはほとんど影響を与えない。これに対し、複合体中のシリカ粒子の密度はアテロコラーゲンのコンホメーションに強く依存し、三重らせんコラーゲンとシリカ粒子の複合体中のシリカ粒子が比較的疎であるのに対し、一本鎖コラーゲンの存在下では高い密度でシリカ粒子が凝集することを明らかにした(図4参照)。

図3.CMPとヘパリンの複合体


図4.アテロコラーゲンとシリカナノ粒子(Ludox)の複合体

温度応答性を持つアミロース誘導体水溶液の相図と低分子との複合体形成
置換度1.3以下のアミロースエチルカルバメート(AEC)が水溶性であること、そして置換度0.9から1.2のAEC水溶液が下限臨界相用温度(LCST)型の相分離挙動を示すことを発見した(図5参照)。希薄溶液中の分子形態より、アミロースや完全置換AECと同じ様に局所らせん構造を有していることを見出した。さらに、水溶性のAECはヨウ素と複合体を形成することから、AECは包接錯体形性能と温度応答性をあわせ持つ高分子であることを明らかにした。
  • Shunji Kimura, Ryotaro Kochi, Shinichi Kitamura, Ken Terao*, ACS Appl. Polym. Mater., Vol. 2, No. 6, 2426-2433 (2020). [10.1021/acsapm.0c00366] [AoR free!] [OUKA free!]

図5.AECの化学構造、ヨウ素による呈色と水溶液の相図

アニュアルレポート2019(2020年5月発行)より

剛直な星型鎖・環状鎖の濃厚溶液が示すリオトロピック液晶性
剛直な高分子の濃厚溶液は液晶性を示す。この現象は線状高分子についてよく知られているが、分岐や環状構造をもつ高分子についてはほとんど報告がない。
最近我々は3本腕ポリ(キノキサリン2,3-ジイル)がテトラヒドロフラン(THF)中で剛直な星型鎖としてふるまうことを示した。本研究ではまず、線状鎖のTHF濃厚溶液がリオトロピック液晶性を示し、その相図が可変尺度粒子理論(SPT)で説明できることを確認した。さらに3本腕星型鎖濃厚溶液もリオトロピック液晶性をもつことを発見した。X線回折の結果を勘案し、図2右上に示す配列を仮定し、SPTを星型鎖に拡張して得られた相図と比較したところ星型鎖の等方-液晶相図をほぼ定量的に説明できた。
さらに溶液中で剛直鎖となる線状および環状のアミローストリス(n-オクタデシルカルバメート)が有機溶剤(THF、2-オクタノン)中で液晶相を形成することを発見した。線状鎖の等方-液晶相図がSPTで説明できるのに対し、環状鎖の液晶相は線状鎖よりも少し高い濃度領域に出現し、その鎖長依存性は液晶相中で環状鎖が棒状の構造をとるとしたモデルで説明できることを示した。これらの結果は等方相中と液晶相中で環状鎖の分子形態が大きく異なることを示す。
分岐構造や環状構造を持つ高分子の液晶相中での分子形態が希薄溶液中と大きく異なることは、これまでほとんど研究例のない剛直な非線状鎖の濃厚溶液の物性を、希薄溶液中における分子形態と線状鎖の濃厚溶液についての知見のみから簡単に予測できるものではないことを示している。

図2.3本腕星型ポリキノキサリン(2,3-ジイル)のTHF濃厚溶液の等方-液晶相図と、希薄相(左)および濃厚相(右)中の高分子鎖の模式図


図3.線状および環状アミローストリス(オクタデシルカルバメート)の化学構造と、濃厚溶液中における分子形態の推定図

アニュアルレポート2018(2019年5月発行)より

多糖誘導体の局所分子形態とキラル分離能
多糖誘導体の一つであるアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)(ADMPC)は光学異性体分離カラムの担体として広く用いられている。この光学異性体分離カラムの性能は、基材であるシリカへの多糖誘導体の固定化方法に強く依存することが知られているが、その理由については必ずしも明らかになっていない。最近我々は、環状アミロースから環状のADMPC(cADMPC)を合成し、その溶液中における分子形態を精密に調査した。その結果、cADMPCはADMPCよりも局所的に引き伸ばされたらせん構造を持つこと、そして環状鎖の剛直性がADMPCより低いことを見出した。そこで、ADMPC及びcADMPCを用いてキラルカラムを作製して光学異性体の分離能を詳細に調べ、多糖誘導体の局所分子形態との相関を明らかにすることを試みた。
物理吸着法により作製された環状鎖キラルカラムは線状鎖(ADMPC)のものとかなり異なる性能を持ち、ラセミ化合物によって環状鎖カラムでのみ分離が可能なもの、そして線状鎖でのみ分離されるものの双方が見出された。この結果はADMPCの局所らせん構造の違いがキラル分離能に影響を与えていることを強く支持する。さらに、ADMPCを多点でシリカ粒子に化学結合させたキラルカラムは環状鎖由来のものに近い分離能をもつこともわかった。この多点結合により、ADMPC鎖の局所構造が環状鎖に近くなるためと考えられる。
  • Akiyuki Ryoki, Hiromi Yokobatake, Hirokazu Hasegawa, Aya Takenaka, Daichi Ida, Shinichi Kitamura, Ken Terao*, Macromolecules, Vol. 50, No. 10, 4000-4006 (2017). [10.1021/acs.macromol.7b00706] [AoR free!] [OUKA free!]
  • Akiyuki Ryoki, Yuto Kimura, Shinichi Kitamura, Katsuhiro Maeda, Ken Terao*, J. Chromatogr. A, Vol. 1599, 144-151 (2019). [10.1016/j.chroma.2019.04.019] [OUKA free!]

図1. 環状と線状のアミロース誘導体のキラル分離能の違い

アニュアルレポート2017(2018年5月発行)より

両親媒性ブロック共重合体の溶液中でのミセル化と相分離の競合
両親媒性ブロック共重合体が選択溶媒中でミセルを形成することは古くより知られており、近年、その高分子ミセルをナノキャリアやナノリアクタとして利用しようという試みが盛んである。最近、我々は条件によっては、両親媒性ブロック共重合体がミセルではなく、液-液相分離を起こし、巨視的な相分離を引き起こすこともあることをいくつかの系で見出した。ミセル化と相分離の競合は、両親媒性ブロック共重合体の高次構造制御にとって重要な問題である。 平成29年度は、ポリオキサゾリン骨格を有する二重感熱応答性ブロック共重合体の水溶液が、ある温度で巨視的な液-液相分離を起こして生じた濃厚相を小角X線散乱(SAXS)で調べ、濃厚相中でも長距離秩序を有するミクロ相分離構造は形成されず無秩序状態であることを実証した(図1参照)。また、ミセル化と液-液相分離の競合現象を、格子モデルに基づく統計熱力学理論により調べ、図2に示すように、疎溶媒性ブロック鎖と溶媒間の相互作用パラメータχBS(図中の縦軸)を大きくしていくと、液-液相分離からミセル化へ転移することを見出した(図中の横軸のφPは、共重合体の溶液中での平均体積分率を表す)。
  • Masaaki Kondo, Rintaro Takahashi, Xing-Ping Qiu, Francoise M. Winnik, Ken Terao, Takahiro Sato*, Polym. J., Vol. 49, No. 4, 385-389 (2017). [10.1038/pj.2016.124]
  • Takahiro Sato*, Rintaro Takahashi, Polym. J., Vol. 49, No. 2, 273-277 (2017). [10.1038/pj.2016.110]

図1.相分離溶液に対するSAXS実験

図2.ブロック共重合体溶液の相図

高沸点・高粘性溶媒中における多糖および多糖誘導体の分子形態
半屈曲性高分子の分子形態は溶媒分子との相互作用によって変化する。しかし、レオロジー測定などに適した高粘性・高沸点溶媒中における分子形態は、ほとんど調べられていなかった。このような溶媒の1つである1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド(BmimCl)はイオン性液体として注目されており、多糖の溶剤としても多く研究されている。本研究ではセルロース、アミロースそしてアミローストリス(エチルカルバメート)のBmimCl溶液について小角X線散乱測定を行い、図3に代表される散乱データを得た。これらのデータを解析して決定した鎖の剛直性は、他の溶媒中における文献値よりも概ね低く、高分子の分子内水素結合がBmimCl中では切断され、比較的高い屈曲性をもつことが示された。さらに、我々は剛直鎖として知られるセルローストリス(フェニルカルバメート)(CTPC)がリン酸トリクレジルに高い溶解性を持つことを発見した。そこで、CTPCのこの溶媒中における分子形態を決定し、以前に調べられたテトラヒドロフラン中より幾分柔らかい鎖として振る舞うことを明らかにした。

図3.BmimCl中のセルロースの平方根型Zimmプロット。cは質量濃度、qは散乱ベクトルの絶対値、ΔI(q)は過剰散乱強度

剛直性三本腕星形鎖の溶液中における分子形態
テトラヒドロフラン中で比較的高い剛直性をもつらせん高分子ポリ[5,8-ジメチル-6,7-ビス(プロポキシメチル)キノキサリン-2, 3-ジイル]からなる三本腕星形高分子を合成した(図4参照)。希薄溶液中で小角X線散乱、粘度測定を行い、得られたデータは線状鎖と同じ剛直性とフレキシブルな結節点をもつ三本腕星形みみず鎖で説明できることがわかった。さらに、これらの濃厚溶液はリオトロピック液晶性を持ち、その相境界濃度は同じ分子量の線状鎖よりも高いことを見出した。
図4.本研究で用いた星形高分子の化学構造と溶液中での分子形態の模式図

アニュアルレポート2016(2017年5月発行)より

疎水性物質を取り込んだ両親媒性交互共重合体の花型ミセルの構造
近年、水溶液中で形成する高分子ミセルをナノキャリアやナノリアクタなどに利用しようという試みが盛んに行われているが、 運搬物あるいは反応原料である疎水性物質が高分子ミセル内にどのように取り込まれているかについては、いまだに十分理解されていない。 最近我々は、低分子界面活性剤が水溶液中で形成する球状ミセルに疎水性物質(ドデカノール)を内包させたときのミセル構造と解離-会合平衡を、 静的光散乱と動的光散乱を組み合わせて詳細に研究した。これを拡張して、本研究では、両親媒性交互共重合体が水溶液中で形成する花型ミセルに疎水性物質であるドデカノールを内包させたときのミセル構造の特性化を行った。
親水性のマレイン酸と疎水性のドデシルビニルエーテルの交互共重合体は、希薄水溶液中で右図の左上に描いた花型ミセルを形成する。 このミセル水溶液に疎水性物質であるドデカノールを添加すると、ドデカノールの内包量の増加に伴って、同図中の下に示すように、 単核の花型ミセルから多核のフラワーネックレスにモルフォロジー転移を起こすことを見出した。 さらに、内包されたドデカノール(同図中の茶色の線分)は、交互共重合体のドデシル基(赤色のジグザグ線分)で形成される疎水性コア内(藤色の領域)にではなく、 疎水性モノマーと親水性モノマーが共存しているミセルの中間領域内(図中のオレンジ色の領域)に存在していることが判明した。 これは、低分子界面活性剤の球状ミセルがドデカノールを疎水性コア内に内包させるのとは対照的な結果である。 両親媒性交互共重合体が形成するミセルをナノキャリアやナノリアクタとして利用する場合、この疎水性物質の内包様式の特徴が生かせる可能性がある。
  • Kai Uramoto, Rintaro Takahashi, Ken Terao, Takahiro Sato*,
    Polym. J., Vol. 48, No. 8, 863-867 (2016). [10.1038/pj.2016.49]
  • Ken Morishima, Ken Terao, Takahiro Sato*,
    Langmuir, Vol. 32, No. 31, 7875-7881 (2016). [10.1021/acs.langmuir.6b01480] [AoR free!]

アルキル鎖長の異なるセルロースアルキルカルバメート誘導体のコンホメーション
最近の研究で、我々はアミロース誘導体の溶液中での分子形態(らせん構造、剛直性)が側鎖に強く影響されることを報告した。同様の現象がセルロース誘導体でどのように現れるのか調べるために、図中に化学構造を示すアルキル鎖長の異なる3種のセルロースのアルキルカルバメート誘導体を合成し、その希薄溶液中での分子形態を決定した。図に示すように同様の側鎖を持つアミロース誘導体に類似して、アルキル鎖長が中間的な長さをもつときに最も主鎖軸方向に縮んだらせん構造をとり、剛直になることが明らかになった。ただし、分子内水素結合率は同種のアミロース誘導体に比べて4-8ポイント低く、有機溶剤への溶解性も低い。セルロースアルキルカルバメート誘導体同志の分子間水素結合がアミロース誘導体に比べて形成しやすいことが原因であると考えられる。

散乱関数を用いた剛直環状鎖の剛直性の解析
剛直性パラメータの異なる環状みみず鎖の散乱関数をモンテカルロシミュレーションによって計算し、図中に化学構造を示す環状アミローストリス(フェニルカルバメート)(cATPC)と環状アミローストリス(n-ブチルカルバメート)(cATBC)の実験値と比較した。適切なみみず鎖パラメータ(鎖の剛直性と局所らせん構造、そして鎖の太さ)を与えることによって、鎖長と溶媒を変えて測定された約50の散乱関数のすべてがほぼ定量的に説明できた。比較的屈曲性が高い環状鎖の剛直性が直鎖のそれに近くなるのに対し、剛直性が高くなると、直鎖とのずれが顕著になる(環状鎖の方が柔らかくなる)ことを明らかにした。この閾値は線状みみず鎖の閉環確率に強い鎖長依存性があるKuhnの統計セグメント数である1に近い。


アニュアルレポート2015(2016年6月発行)より

高分子電解質コンプレックスミセルのモルフォロジー転移
カチオン性-中性ブロック共重合体とアニオン性-中性ブロック共重合体を水溶液中で混合すると、カチオン性ブロック鎖とアニオン性ブロック鎖がポリイオンコンプレックスを形成し、そのコンプレックスが疎水性コアを形成してポリイオンコンプレックスミセルができる(図1参照)。このポリイオンコンプレックスミセルのモルフォロジーとしては、イオン性ブロック鎖と中性ブロック鎖の鎖長比を変化させることにより、球状ミセル、円筒状ミセル、二分子膜ベシクルなどが形成されると報告されている。
我々は、図2左に示す二種類のブロック共重合体の混合物水溶液(カチオン基の全イオン基に対するモル分率を0.6に固定)の添加塩(NaCl)濃度を変化させることによるポリイオンコンプレックスの集合状態について研究を行った。添加塩濃度を変化させると、カチオン性ブロック鎖とアニオン性ブロック鎖間の静電引力相互作用の強さが変化する。特に、本研究で用いたカチオン性ブロック鎖とアニオン性ブロック鎖の場合、十分塩濃度が高く静電相互作用が十分弱いときには、イオンコンプレックスは形成されずに、各共重合体は分子分散する。塩濃度を下げていくとイオンコンプレックスが形成されるが、その両親媒性が弱く、貧溶媒中のホモポリマーに類似した液-液相分離を引き起こす(図2右の黒丸で示した領域が相分離領域)。さらに塩濃度を下げると、系は再び透明な溶液となるが、小角X線散乱(SAXS)の低角での散乱光強度は著しく強く、ミセルが形成されていることが分かる。加えて、SAXSの散乱関数の解析より、ミセル領域内で塩濃度を下げていくと、二分子膜ベシクルから円筒状ミセルへのモルフォロジー転移が認められた。これは、イオン性ブロック鎖間の静電引力が強くなることにより、疎水性部の体積が収縮し、両親媒性分子のパッキングパラメータが小さくなったことにより説明される。
また、図2左に示した二種類のブロック共重合体の混合比(カチオン基のモル分率)を0.6からずらすと、二分子膜ベシクルから球状ミセルへの可逆的なモルフォロジー転移が観察された。これは、過剰に存在するブロック共重合体成分がポリイオンコンプレックスミセルに吸着して帯電し、その静電エネルギーを減少させるためにモルフォロジー転移を起こしたと考えられる。
  • Rintaro Takahashi, Takahiro Sato*, Ken Terao, Shin-ichi Yusa,
    Macromolecules, Vol. 48, No. 19, 7222-7229 (2015). [10.1021/acs.macromol.5b01368] [AoR free!]
  • Rintaro Takahashi, Takahiro Sato*, Ken Terao, Shin-ichi Yusa,
    Macromolecules, Vol. 49, No. 8, 3091-3099 (2016). [10.1021/acs.macromol.6b00308] [AoR free!]

図1.ポリイオンコンプレックスミセルの模式図


図2.研究したカチオン性-中性ブロック共重合体とアニオン性-中性ブロック共重合体の混合物水溶液の相図


ジアルキルポリシランのサーモクロミズムと分子形態、分子間相互作用との相関
溶液中で低温領域にサーモクロミズムをもつ2種のポリシランとサーモクロミズムを持たないポリシランについて、溶液中での分子形態と分子間相互作用を広い温度範囲にわたって詳細に調べた。サーモクロミズムを持つもののみ高分子間の相互作用が顕著に変化し、低温側で引力的となった。これに対して、図3に示すように主鎖を反映する紫外吸収に顕著な変化があった温度領域でも、分子形態にはほとんど変化は見られず、低温領域の分子形態をUVスペクトルから予測することはできないことが明らかとなった。
低温でのSAXS測定とポリスチレン及び環状アミロース誘導体溶液への応用については
  • Ken Terao*, Naoya Morihana, Hiromi Ichikawa,
    Polym. J., Vol. 46, No. 3, 155-159 (2014). [10.1038/pj.2013.76] [OUKA free!]

図3.試料の化学構造と回転半径の温度依存性。実線は常温領域のUV吸収と分子形態からの予測値


主鎖に共役性を持つらせん高分子の局所らせん構造と剛直性
近年その独特のらせん性より様々な機能性が研究されているポリキノキサリン類の内、最も基本的な化学構造を持つポリ[5,8-ジメチル-6,7-ビス(プロポキシメチル)キノキサリン-2, 3-ジイル]の溶液中での分子形態を決定した。図4中に示すような内部回転角約120°のらせん構造を取ること、そして水素結合などを分子中に持たないものとしてはかなり高い剛直性(Kuhnの統計セグメント長で43 nm)を示すことを明らかにした。

図4.回転半径の分子量依存性と局所らせん構造


アニュアルレポート2014(2015年5月発行)より

親水化ポリ(ジメチルシロキサン)の溶解状態
疎水性高分子に少量のイオン性置換基を導入したランダム共重合体は、アイオノマーと呼ばれ、古くから研究が行われ、近年燃料電池膜として注目されているフッ素ポリマーに電解質基を導入したナフィオンなど応用上重要であるが、その強い両親媒性のために溶液中で形成される高分子集合体については、いまだ十分な理解が得られていなかった。 我々は、一部の側鎖に4級アンモニウム基を導入した親水化ポリ(ジメチルシロキサン)の水-メタノール混合物中での集合状態を、光散乱および小角X線散乱により調べ、高分子集合体の構造やその形成機構について考察した。
この親水化ポリ(ジメチルシロキサン)試料を0.1 M酢酸ナトリウム含有水-メタノール混合物と混ぜて1%未満の濃度の溶液を調製すると、溶液はほぼ透明であったが、水-メタノール混合物中の水の重量分率が0.5以上では、相分離していた。 この3成分系の相図は、図1に示すように、高分子+溶媒(メタノール)+非溶媒(水)の系に期待される相図であった。 2相領域にある溶液中で、濃厚相は回転半径が100~300 nm程度のコロイド粒子として存在するが、時間が経つとゆっくりと凝集が起こり、溶液調製後数日が経過すると溶液は濁ってきた。 2相領域にある高分子溶液系が、溶液調製直後にはコロイド分散状態にあるのは、この親水化ポリ(ジメチルシロキサン)の乾燥試料が、水-メタノール混合物と混ぜる前に、電解質基が凝集したマルチプレット構造をとり、溶解時にはそのマルチプレットが膨潤してコロイドが形成されたと考えられる。
  • Takashi Okuhara, Akihito Hashidzume, Ken Terao, Takahiro Sato*,
    Polym. J., Vol. 46, No. 5, 264-271 (2014). [10.1038/pj.2014.3]

図1. 高分子+溶媒+非溶媒系の相図


三重らせんペプチドの分子形態の温度変化と高分子電解質との複合体形成
片末端を高い熱安定性を持つ結合ドメインで固定化したコラーゲンペプチドが、水溶液中、三重らせんの融解温度近傍で温度の上昇と共に棒状鎖から星形鎖に形態を変化することを、放射光小角X線散乱法で明らかにした。 星形鎖の広がりは、変性ペプチドの広がりから予測されるものよりも有意に大きく、結合ドメインとの相互作用によって鎖が広がっていることがわかった。
他方、三重らせんペプチドと高分子電解質の一種であるカルボキシメチルアミロースが、静電相互作用により複合体を形成することを明らかにした。 さらに、その複合体のモル質量が三重らせんの融解温度付近で急激に減少し、完全に一本鎖となる高温領域では分子分散すること、すなわち三重らせん構造が複合体形成に重要な役割を果たすことを示した。
  • Ken Terao*, Kazunori Mizuno, Hans Peter Bächinger*,
    J. Phys. Chem. B, Vol. 119, No. 9, 3714-3719 (2015). [10.1021/jp5129172] [AoR free!] [OUKA free!]
  • Ken Terao*, Ryoko Kanenaga, Tasuku Yoshida, Kazunori Mizuno, Hans Peter Bächinger*,
    Polymer, Vol. 64, 8-13 (2015). [10.1016/j.polymer.2015.03.013] [OUKA free!]

図3. 水溶液中におけるペプチドの転移挙動


アニュアルレポート2013(2014年5月発行)より

直鎖高分子と異なる環状高分子の剛直性と局所構造
屈曲性の環状高分子の局所構造が直鎖のそれと同じになることはほぼ自明であるのに対し、剛直環状鎖の場合、その固有の曲率が局所構造や剛直性に影響を及ぼしうる。 本研究では1,4-ジオキサン中の環状アミロース(トリスフェニルカルバメート)(cATPC)の剛直性と残基あたりの経路長が直鎖から予測されるものであったのに対し、 ケトン及びエステル中では、溶媒分子サイズ(溶媒のモル体積)の増加と共に、直鎖との違いが顕著になることを見出した(図3参照)。 先の研究より直鎖ATPCの分子形態には溶媒との相互作用が重要であることがわかっており、溶媒との相互作用が直鎖と環状鎖で異なることが示唆される。 実際、これらの溶媒中における環状高分子間の分子間相互作用は、直鎖のものと比べて著しく引力的になることがわかった。
  • Natsuki Asano, Shinichi Kitamura, Ken Terao*
    J. Phys. Chem. B, Vol. 117, No. 32, 9576-9583 (2013). [10.1021/jp406607w] [AoR free!] [OUKA free!]

図3. (左)環状アミローストリス(フェニルカルバメート)の構造(右)鎖の剛直性と残基あたりの経路長の溶媒分子のモル体積に対するプロット


アニュアルレポート2012(2013年6月発行)より

両親媒性ブロック共重合体の自己集合
両親媒性ブロック共重合体は、溶液中において様々なモルフォロジーの高分子ミセルなどの自己集合体を形成することが知られている。 これらの高分子集合体は数10~数100ナノメートルサイズで、ナノ・キャリアやナノ・リアクターなどとしての応用が期待されている。 中でも感熱応答性のブロック共重合体は、温度変化により自己集合体構造の形成や崩壊が起こり、様々な応用が期待されている。 ただし、その集合体構造やその構造形成機構の詳細については、まだ十分な研究は行われていなかった。 今年度は、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)と水溶性高分子であるポリ(N-ビニルピロリドン)(PNVP)ブロック共重合体(PNIPAM-b-PNVP) およびポリ(2-イソプロピル-2-オキサゾリン)(PIPOZ)とポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)(PEOZ)のブロック共重合体(PIPOZ-b-PEOZ) が熱水溶液中で形成する自己集合体の構造を、光散乱と小角X線散乱によって調べた。 ここで、PNIPAM、PIPOZ、およびPEOZは感熱応答性ブロック鎖、PNVP鎖は水溶性ブロック鎖で、PIPOZとPEOZでは前者の方が相分離温度がより低い。 実験の結果、どちらのブロック共重合体も熱水溶液中では、内部濃度の均一な数10~数100ナノメートルサイズの球状濃厚相と会合数が 10程度以下の小さい星型ミセルが共存することが判明した(図1参照)。また、理論的にもそのようなサイズの非常に異なる集合体の形成が予言された。
  • Rintaro Takahashi, Takahiro Sato*, Ken Terao, Xing-Ping Qiu, Francoise M. Winnik
    Macromolecules, Vol. 45, No. 15, 6111-6119 (2012). [10.1021/ma300969w] [AoR free!]
  • Takahiro Sato*, Kohei Tanaka, Akiko Toyokura, Rika Mori, Rintaro Takahashi, Ken Terao, Shin-ichi Yusa
    Macromolecules, Vol. 46, No. 1, 226-235 (2013). [10.1021/ma3020992] [AoR free!]

図1. 感熱応答性ブロック共重合体が形成する高分子集合体


剛直な直鎖及び環状アミロース誘導体が濃厚溶液中で形成する液晶構造
アミロースアルキルカルバメート誘導体 (ATAC)は、様々な溶媒に高い溶解性を持ち、それらの濃厚溶液はリオトロピック液晶性を示す。 本研究では、ATACのテトラヒドロフラン(THF)溶液が、可視領域に選択反射を示すコレステリック液晶を形成するのに対し、 乳酸エチル溶液は広い二相領域を持ち、濃厚相がスメクチック相を形成することを、円二色性及び磁場配向試料の小角X線散乱より明らかにした。 さらに、環状アミロースより合成した環状ATACが、剛直環状鎖として振る舞うことを見出した。 この高分子の溶液中におけるトポロジカルな分子間相互作用が第二ビリアル係数に現れること、そしてその濃厚溶液が液晶相を形成することを見出した(図3参照)。 我々の知る限り剛直環状高分子の液晶形成はこの系が初めてである。
  • Keiko Oyamada, Ken Terao*, Masayori Suwa, Shinichi Kitamura, Takahiro Sato
    Macromolecules, Vol. 46, No. 11, 4589-4595 (2013). [10.1021/ma400787c] [AoR free!] [OUKA free!]
  • Ken Terao*, Kazuya Shigeuchi, Keiko Oyamada, Shinichi Kitamura, Takahiro Sato
    Macromolecules, Vol. 46, No. 13, 5355-5362 (2013). [10.1021/ma400774r] [AoR free!] [OUKA free!]

図3. 環状アミロース誘導体が形成する液晶の顕微鏡写真(左)と環状鎖に特異な分子間相互作用の模式図(右)


アニュアルレポート2011(2012年6月発行)より

置換基により変化するアミロースアルキルカルバメート誘導体の剛直らせん構造
以前我々は側鎖に極性基をもつアミローストリス(n-ブチルカルバメート) (ATBC)は比較的極性の低いテトラヒドロフラン(THF)中で剛直ならせん構造を形成するが、そのらせん構造を特徴づける繰り返し単位当たりの経路長hは結晶中のアミロースやその誘導体類とは異なり0.26 nmという値をとることを報告した。この剛直らせん構造の形成が置換基の違いによってどのように異なるのかについて調べるため、図1に化学構造を示すアミローストリス(エチルカルバメート) (ATEC)及びアミローストリス(n-ヘキシルカルバメート) (ATHC)の溶液物性を様々な溶媒について調べ、ATBCと同様に、溶媒の極性の低下に伴って著しく剛直性が増加し、THF中では剛直ならせん構造をとることを見出した。ATHCについて得られたhがATBCに近かったのに対し、ATECのそれは0.35 nmとかなり長くなった。図1に示すようにアミロースの主鎖のらせんにはほかの原子が入りうるほどの隙間があると考えられるが、この隙間に側鎖を適切に包接することができるように主鎖のらせん構造が決まっていると推察される。
  • Ken Terao*, Fumihiro Maeda, Keiko Oyamada, Takaaki Ochiai, Shinichi Kitamura, Takahiro Sato
    J. Phys. Chem. B, Vol. 116, No. 42, 12714-12720 (2012). [10.1021/jp307998t] [AoR free!] [OUKA free!]

図1. ATEC、ATBC、ATHCの化学構造と繰り返し単位当たりのらせんのピッチhより推察される主鎖のらせん構造


カードランのカルバメート誘導体の溶液物性
アミロース(α-1,4-グルカン)やセルロース(β-1,4-グルカン)のトリスフェニルカルバメート誘導体(それぞれATPC、CTPCとする)は、THFや1,4-ジオキサン中で分子内水素結合を形成するが、溶液中で先に述べたアミロースアルキルカルバメート誘導体ほど剛直な構造は取らない。これに対し、カードラン(β-1,3-グルカン)のトリスフェニルカルバメート誘導体(CdTPC)はジメチルスルホキシドや塩基性水溶液中におけるカードランよりもかなり大きな広がりを持ち、THF中でATBCに匹敵する剛直性を持つことを見出した。赤外吸収より分子内水素結合について調べたところ、アミロースやセルロースの誘導体に比べ、1つ1つの水素結合は弱いが、ATPCやCTPC比べ、2倍程度多くの分子内水素結合が存在することを見出した。
  • Takaaki Ochiai, Ken Terao*, Yasuko Nakamura, Chiaki Yoshikawa, Takahiro Sato
    Polymer, Vol. 53, No. 18, 3946-3950 (2012). [10.1016/j.polymer.2012.07.004] [OUKA free!]


図2.カードランおよびCdTPCの回転半径の主鎖重合度依存性


環状アミロース誘導体の溶液物性
アミロースに比べATPCが溶液中でかなり剛直であることを利用して、これまでほとんど合成例のない剛直性の高い環状高分子の創製を目指し、環状アミロース誘導体から直鎖と同様の方法で、重合度が24-290の環状ATPC (cATPC)を調製した。小角X線散乱測定より得られた広がりが、直鎖と同様の剛直性パラメータをもつ環状みみず鎖の理論値によって再現され、剛直環状鎖が得られたことが裏付けられた。
  • Ken Terao*, Natsuki Asano, Shinichi Kitamura, Takahiro Sato
    ACS Macro Lett., Vol. 1, No. 11, 1291-1294 (2012). [10.1021/mz3004506] [AoR free!] [OUKA free!]


図3.環状アミロース及びcATPCの剛直性パラメータ(Kuhn segment length)


アニュアルレポート2010(2011年6月発行)より

π共役高分子の相分離にともなう円二色性の誘起
π-共役高分子は、有機LED や化学センサーとしての利用が期待されている有機半導体である。これらの高分子に、円二色性、旋光性、円偏光発光性などの特性を付与できれば、 その応用範囲の幅を広げることができる。この目的のために、π-共役高分子の側鎖に光学活性基の導入が試みられているが、光学活性基の導入だけでは希薄溶液中で目的の特性が得られず、 相分離、会合、フィルム化が必要な場合が多い。我々は、光学活性側鎖を有するポリフルオレン誘導体の希薄THF 溶液に非溶媒であるメタノールを加えると、液-液相分離を引き起こし、 この相分離溶液を冷却すると円二色性が誘起されることを見出した。さらに最近、キラル-アキラルのポリフルオレンランダム共重合体についても研究を行い、 希薄THF 溶液にやはりメタノールを添加して冷却すると円二色性が誘起され、その円二色性の符号が、キラルモノマー組成の変化によって二度反転することを見出した(下図)。
ポリフルオレン主鎖は、5/2 らせん構造がエネルギー的に安定であるが、希薄THF 溶液中では左右のらせん状態が等確率で存在して、円二色性を呈さない。 この溶液にメタノールを添加すると、溶液中に高分子濃度が40%程度の濃厚相が球状の微粒子として存在する。この微粒子状の濃厚相中で、近接するポリフルオレン鎖同士の間に、 キラルな相互作用が働き、片方のセンスのらせん状態が過剰に存在するようになり、円二色性が誘起されたと考えられる。
この高分子間相互作用によるらせん形態転移現象は、外部磁場を印加したときの強磁性体の磁化の現象と類似している。 そこで、強磁性体で用いられるイジングモデルの理論をいまのらせん状のランダム共重合体に応用して、らせんのセンスの二重反転現象を理論的に考察した。 その結果、キラル-キラル、キラル-アキラル、およびアキラル-アキラルのモノマー単位間の相互作用を適当に選べば、 モノマー組成を変化させて高分子鎖のらせんセンスが二度反転することを理論的に実証した。 なお、このようなキラル-アキラルランダム共重合体のらせんセンスがモノマー組成によって二度反転する現象は、本研究で初めて見出されたものである。
  • Yusuke Sanada, Ken Terao, Takahiro Sato*
    Polym. J., Vol. 43, 832-837 (2011). [10.1038/pj.2011.75]

コラーゲンモデルペプチドと高分子電解質の相互作用
溶液中で可逆的な3重らせん―1本鎖のコンホメーション転移を示すコラーゲンモデルペプチドは、その両末端にイオン性基を持つ。これは温度に対して可逆的に変化する1価-3価の両性イオン種ともみなされ、高分子電解質との相互作用にも影響しうる。図1に化学構造を示すPPG5はメタノール中でPAAと複合体を形成することを見出した。この複合体の溶解性は必ずしも高くはないが、PAA大過剰([AA]/[PPG5] = 98)の条件下では透明な溶液が得られ、30℃以上高い温度まで3重らせんが安定に存在する.。すなわち、複合体形成に伴い、コラーゲンモデルペプチドの3重らせん構造が著しく安定化されることが明らかにされた。

他方、水中でヒドロキシプロリンを含むペプチドと高分子電解質が複合体は、混合比によらず高い溶解性をもつことを見出した。塩濃度100 mM 及び20 mMの水溶液中における小角X線散乱実験より、すべてのGPO9がコイル状態になる75℃でポリアクリル酸ナトリウムNaPAAとGPO9共に完全に分散するのに対し、GPO9が3重らせん状態を取る15℃では、[AA]/[GPO9]が10以上の範囲で、ほぼすべてのGPO9がNaPAAと複合体を形成することがわかった。複合体中のNaPAA主鎖は、単独のNaPAAより2倍程度、回転半径が大きくなることも明らかにされた。この複合化に伴う3重らせん融解温度の上昇は、純水中で8-10℃程度であるのに対し、塩濃度の上昇とともに著しく減少し、イオン強度100 mMでは、その差は2 ℃程度である。また、ペプチドN末端をアセチル化したものでは、3重らせんの安定化は観測されなかったことから、3重らせんペプチド-高分子電解質複合体の形成及び、それに伴う3重らせんの安定化には、N末端と高分子電解質の静電的相互作用が重要であると結論される。
  • Ken Terao*, Ryoko Kanenaga, Takahiro Sato, Kazunori Mizuno, Hans Peter Bachinger*
    Macromolecules, Vol. 45, No. 1, 392-400 (2012). [10.1021/ma202176w] [AoR free!] [OUKA free!]
  • 喜田 裕介, 寺尾 憲, 佐藤 尚弘
    高分子論文集, Vol. 67, No. 12, 686-689 (2010). [10.1295/koron.67.686] [OUKA free!]

図1.3重らせんモデルペプチドPPG5及びPAAを加えたもの([AA]/[PPG5] = 98)のらせん分率の温度依存性。

図2.ポリアクリル酸ナトリウム(NaPAA)と3重らせんモデルペプチドGPO9の相互作用の模式図。


光学活性溶媒中における多糖誘導体の形態
互いに光学異性体にある物質は、融点、沸点、密度、屈折率等ほとんど同じ物性を示すが、光学活性な高分子の溶媒として用いた場合、その高分子との相互作用には有意な差が期待される。我々は、低極性溶媒中で剛直らせん構造をとるアミローストリス(n-ブチルカルバメート)(ATBC)が、D-乳酸エチル中において、L-乳酸エチル中よりも約50%高い剛直性を示すことを見出した。他の溶媒中のデータとの比較より、この差は主にD体中での高分子内水素結合がL体中よりも15%多いことに起因する。この水素結合率の差は、溶解熱の差異としても検出された。
  • Shota Arakawa, Ken Terao*, Shinichi Kitamura, Takahiro Sato
    Polym. Chem., Vol. 3, No. 2, 472-478 (2012). [10.1039/C1PY00432H] [OUKA free!]


図3.ATBCのD-及びL-乳酸エチル中での繰り返し単位当たりの経路長hと剛直性パラメーターλ-1の関係。


アニュアルレポート2009(2010年6月発行)より

分子内水素結合により安定化されるアミローストリス(n -ブチルカルバメート)(ATBC)の剛直らせん構造
図1に化学構造を示すATBC の溶液中での広がりは、溶媒に著しく依存し、メタノール中では典型的な半屈曲性高分子として振舞うのに対し、テトラヒドロフラン(THF)中では主鎖軸方向には20%程度縮んだ剛直らせん構造をとる。実際、ATBCのTHF 濃厚溶液は青‐緑の選択反射を示すコレステリック液晶を形成する(図2)。高い剛直性の原因として置換基のC=O 基とNH 基間の分子内水素結合が挙げられる。そこでTHF-MeOH 混合溶媒中及び、1-プロパノール、2-プロパノール、2-ブタノール、2-エトキシエタノールの4 種のアルコール溶液について、鎖の堅さを表すKuhn の統計セグメント長、繰り返し単位当たりのらせんのピッチ、更には置換基のカルボニルの分子内水素結合率を決定した。得られたデータは、種々の溶媒中分子内水素結合がランダムに切断されたとしたモデルでほぼ定量的に説明できる(図1右)。すなわち、この高分子の溶液中の形態は分子内水素結合のみによって決まると結論される。
  • Ken Terao*, Maiko Murashima, Yuichi Sano, Shota Arakawa, Shinichi Kitamura, Takashi Norisuye
    Macromolecules, Vol. 43, No. 2, 1061-1068 (2010). [10.1021/ma902200z] [OUKA free!]
  • Yuichi Sano, Ken Terao*, Shota Arakawa, Masahiro Ohtoh, Shinichi Kitamura, Takashi Norisuye
    Polymer, Vol. 51, No. 18, 4243-4248 (2010). [10.1016/j.polymer.2010.06.048] [OUKA free!]

アミロースフェニルカルバメート類の剛直性の側鎖及び溶媒依存性
前述のATBC の溶液中の形態が分子内水素結合のみによってほぼ定量的に記述できるのに対し、より嵩高い置換基をもつアミローストリス(フェニルカルバメート)(ATPC、図3に化学構造を示す)のそれには置換基に水素結合した溶媒分子が影響する。図4に図1右のプロットにATPC のデータを加えたものを示す。ケトン・エステル中のデータ(▲)がエーテル・アルコール中のデータ(△)よりもかなり下にあることから、ATPC のNH 基に水素結合した溶媒分子が高分子鎖を引き延ばしたと考えられる。ATPC の2 位をアセチル基で置き換えたAAPC のデータ点(1,4-ジオキサン、酢酸メチル、4-メチル-2-ペンタノン中)が直線に従うことから、この効果には、置換基の嵩高さが非常に重要であることが分かる。実際に、さらに嵩高い置換基をもつアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)(ADMPC)の剛直性は水素結合する溶媒分子のサイズの増加に従って著しく高くなる(図5)。これらの結果は、アミロースフェニルカルバメート類の極性基が溶媒分子程度のサイズを持つ隙間にあることを示す。
  • Maiko Tsuda, Ken Terao*, Shinichi Kitamura, Takahiro Sato
    Biopolymers, Vol. 97, No. 12, 1010-1017 (2012). [10.1002/bip.22118] [OUKA free!]
  • Maiko Tsuda, Ken Terao*, Yasuko Nakamura, Yusuke Kita, Shinichi Kitamura, Takahiro Sato
    Macromolecules, Vol. 43, No. 13, 5779-5784 (2010). [10.1021/ma1006528] [AoR free!] [OUKA free!]
  • Ken Terao*
    J. Phys: Conf. Ser., Vol. 184, No. 1, 012006 (2009). [10.1088/1742-6596/184/1/012006] [OUKA free!]


アニュアルレポート2008(2009年6月発行)より

高密度櫛型高分子の剛直性に対する静電反発の効果
高密度櫛型高分子の側鎖に高分子電解質を選ぶと非常に高い電荷密度をもつ高分子(図中赤で示す)となる。過去の研究ではこのような分子は非常に高い電荷密度をもつことによる対イオン凝縮のため側鎖間の反発力は主鎖の剛直性には顕著な影響を与えないとされた。本研究では、以前研究した高密度櫛型高分子の側鎖を高分子電解質にすることによって電荷の有無の主鎖の剛直性に対する影響を直接比較した。様々な重量平均主鎖重合度Nwをもつ試料について0.05 M食塩水溶液中における平均二乗回転半径<S2>zをはじめとする物理量を詳細に解析し、鎖の堅さ(Kuhnの統計セグメント長)λ-1を120 nmと決定した。これは同じ側鎖長及び側鎖密度を持つ非電解質高分子の(9 nm: シクロヘキサン中、16 nm: トルエン中)に比べはるかに大きい、すなわち側鎖間の静電反発が主鎖の剛直性に強く影響することを明らかにした。

水溶液中におけるコラーゲンモデルペプチドの形態
下図に化学構造を示すコラーゲンモデルペプチドは水溶液中において3 重らせん―1本鎖の転移を示す。これら両方の水溶液中の形態を小角X 線散乱測定より決定し、3重らせんの散乱関数が結晶構造解析から得られた構造とほぼ等価の完全な棒状分子であるのに対し、1本鎖の散乱関数を解析して得たλ-1 が2 ± 1 nm であることから典型的な屈曲性高分子として振る舞うことがわかった。さらに1本鎖の<S2>zが同じ鎖長を持つ変性オリゴペプチドとほぼ等価であることからプロリン、ヒドロキシプロリンのようなイミノ酸はオリゴペプチド1本鎖の広がりに殆ど影響を与えないことがわかった。
  • Ken Terao*, Kazunori Mizuno, Maiko Murashima, Yusuke Kita, Chizuru Hongo, Kenji Okuyama, Takashi Norisuye, Hans Peter Bachinger*
    Macromolecules, Vol. 41, No. 19, 7203-7210 (2008). [10.1021/ma800790w] [OUKA free!]


アミロース誘導体類の溶液性状
α-1,4グルカンやβ-1,3グルカンはセルロースのα-1,4グルカンとは異なり、必ずしも主鎖が伸び切った構造が安定というわけではなく、内部回転角の比較的小さな違いが繰り返し単位当たりのピッチhに反映される。従って、それらの誘導体の側鎖に適切な極性基を配置した場合、高分子内及び、高分子―溶媒間の水素結合形成に伴う様々ならせん構造が見出されることが期待される。本研究ではアミローストリス(フェニルカルバメート) (ATPC)とアミローストリス(n-ブチルカルバメート) (ATBC)の希薄溶液物性を詳細に検討した。 1,4-ジオキサン(DIOX)と2-エトキシエタノール(2EE)中のATPCのhは約0.33 nmとなり、アミロースエステル類の結晶構造について知られる0.37 - 0.40 nmよりも短い。これらの高分子のλ-1が22 nm (DIOX中)及び16 nm (2EE中)であり、アミロースの4 nmと比べてかなり大きいことは、置換基のNH基とC=O基間の水素結合によると考えられる。この水素結合を切断すると考えられる酢酸メチル(MEA)、酢酸エチル(EA)、4-メチル-2-ペンタノン(MIBK)中でのhはそれぞれ0.37、0.39、0.42 nmとなり、アミロースエステル類の値に近くなる。一方でこれらの溶媒中におけるλ-1はそれぞれ15 nm (MEA中)、17 nm (EA中)、24 nm (MIBK中)であり、DIOX中や2EE中とあまり変わらない。さらにこれらの溶媒中で溶媒分子のカルボニル周りの嵩高さの増加と共にh、λ-1の値が増加することは、ATPCに水素結合した溶媒分子の嵩高さによってATPC分子の内部回転が束縛され、ATPC分子が伸長すると共に、剛直性にも反映するためであると考えられる。  これに対し、ATBCのλ-1は強く溶媒に依存し、メタノール中で11 nmであるのに対し、テトラヒドロフラン中では75 nmに達する。THF中でのhが0.26 nmとアミロースエステル類のそれと比べ3割以上短いことから、分子内水素結合によって安定化され、主鎖軸方向にかなり縮んだ剛直ならせん構造を形成していることを見出した。
  • Ken Terao*, Taichi Fujii, Maiko Tsuda, Shinichi Kitamura, Takashi Norisuye
    Polym. J., Vol. 41, No. 3, 201-207 (2009). [10.1295/polymj.PJ2008233] [OUKA free!]
  • Taichi Fujii, Ken Terao*, Maiko Tsuda, Shinichi Kitamura, Takashi Norisuye
    Biopolymers, Vol. 91, No. 9, 729-736 (2009). [10.1002/bip.21219] [OUKA free!]


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