研究概要

大阪大学大学院理学研究科・教授
深瀬 浩一(ふかせ こういち)

本領域の目的

医農薬などの生物機能分子として、低分子と高分子の中間サイズである中分子領域の化合物(分子量400-4000程度)が注目されている。この領域の分子は、天然物、糖鎖、ペプチド、核酸医薬など様々な化合物を含んでおり、化学多様性に富んでいる。また中分子は、多点間相互作用に基づいた厳密で多様性のある分子認識が可能であることが大きな特徴である。中分子には、種々の標的タンパク質に対して、「鍵と鍵穴」の認識、タンパク質表面の認識、あるいはその両方を利用した認識など、様々な認識モードが存在しており、複数の標的に同時に作用することで、ダイナミックな生物機能の制御が可能である。この他にも、中分子は、経口投与、細胞膜、血液脳関門透過性を持たせることが可能であるなどの特徴から、中分子は高次生物機能分子として大きな可能性を有している。

一方、構造の複雑さから、中分子の合成はしばしば困難であり、さらに多段階を要することが中分子の利用の障害になっている。そこで本領域では反応集積化の高次化と革新的合成戦略により生物機能中分子の高効率合成を達成し、さらには高次機能中分子を創製することにより、生物機能分子開発の新たな分野を開くことを目的とする。

本領域の内容

本領域では、

  1. i) 天然由来生物機能中分子の合成
  2. ii) 複数分子の複合化による機能集積ハイブリッド中分子の合成

という二つの戦略に基づいて、高次生物機能中分子を創製する。また中分子の効率合成のために、反応集積化による合成の効率化に取り組む。

そのために、A01班では、糖鎖、核酸、ペプチド、脂質等の生物機能中分子の合成と、複合化による機能集積中分子創製、π電子系化合物を利用した新規生物機能分子創製など、高次機能中分子の創製に取り組む。A02班では、天然物等の生物機能中分子の高効率合成に取り組む。生細胞内合成、酵素合成との反応集積化など、新規な概念や手法に基づく高効率合成も対象とする。A03班では、マイクロフロー合成を利用した連続反応プロセスの開発と多段階合成を指向した実用的な反応開発を行う。反応連結に伴う諸問題の解決を目指し、様々な反応剤、触媒、および活性種を用いるフロー反応開発、触媒の固定化、官能基や位置選択的な合成反応開発、フロー反応装置開発について研究する。

中分子戦略:複数反応の連結による合成の効率化/中分子を用いた高次機能分子の創製

期待される成果と意義

本領域研究は、反応集積化による高効率プロセスを実現して、複雑構造の中分子の高効率合成を達成することを第一の目標にしている。中分子を実用的に合成可能な範疇とすることで、生物機能分子研究を飛躍的に進展させることができる。

さらには、世界を脅威にさらす感染症や重篤な疾患、あるいは農業生産を危機に陥れる病害虫害などの深刻な社会問題を解決するために、革新的な医薬や診断分子、農薬として、高次生物機能中分子が開発されるものと期待される。例えば、高機能免疫アジュバント、合成ワクチン、細胞選択的抗がん剤、病害虫特異的農薬、成長因子様中分子、分化誘導制御化合物、遺伝子制御中分子、細胞機能制御分子、生体分子高感度検出などであり、将来的には生体情報を検知して生物作用を示すような、インテリジェント生体制御分子の創製が期待される。