Fig. 1. Molar heat capacity of CuInP2Se6.
Fig. 2. Molar heat capacity of CuCrP2S6.
Table 1. Transition temperature and the entropy obtained for CuInP2S6, CuInP2Se6
and CuCrP2S6.
構成イオンとしてP2S64−やP2Se64−などの4価アニオン1個に対してSn2+やPb2+などの2価カチオン2個からなるイオン結晶には, 強誘電性や不整合構造をもつ興味深い一連のものがあります.それらについては熱容量測定を行い, 秩序−無秩序型の相転移を示す誘電体であることがすでに報告されています. また,カチオンの側を1価カチオンと3価カチオンの組み合わせにしても結晶構造は異なるものの, 誘電的に多様な振る舞いをするという性質は持ち続けることが分かっています. そこで,1価カチオンとしてCu+, 3価カチオンとしてIn3+およびCr3+とした標題のイオン結晶について熱容量を測定しました.
CuInP2Se6の結果をFig. 1に示します. 225.55 Kをピークとする高次転移が観測されました. 過剰熱容量は100 Kにおよぶ広い温度域で観測され, 転移エントロピーは13.5 J K−1 mol−1 にも及んでいます. 現時点で分かっている構造的な知見によれば,銅イオン1個に対して2つのサイトがあり, 高温相における乱れがそれによるとしたエントロピー値5.76 J K−1 mol−1 よりも実測値は遥かに大きいことが分かりました. 構造解析で予想される乱れよりもっと高度な無秩序構造が実現しているものと思われます.
これに対しCuInP2S6では, 309.35 Kおよび329.47 Kに熱容量のピークが観測され, 低温側の熱異常は潜熱を伴う一次転移であることが分かりました. 転移温度と転移エントロピーの値をTable 1にまとめておきます. 転移エントロピーの値からも, 高次転移を示したCuInP2Se6とは転移の機構が異なることが示唆されます. より高温での熱異常や転移の可能性もありますが,400 K以下での熱異常は見いだせませんでした.
CuCrP2S6では話がさらに複雑になります. それは,Crが導入されたことにより低温での磁気モーメントの整列が関与するからです. 熱容量測定の結果をFig. 2に示します. 高温側の転移は併せても9.1 J K−1 mol−1 しかないことが分かりました. また,30.95 Kの転移も,予想されるエントロピー R ln 4 (=11.5 J K−1 mol−1)にはほど遠く, 小さなエントロピー変化しか観測されませんでした.
構造研究で得られた知見,とりわけ乱れに関する予想が熱力学に反映されないという事実は, 何か別の原因やメカニズムが関与している証拠であり,今後の詳しい検討が必要になります.
本研究は,岐阜大学工学部の守屋慶一教授との共同研究であり, 試料はウクライナのウシュホロト大学のVysochanskii教授より提供されたものです.
守屋慶一,苅谷修良,I. Pritz,Y.M. Vysochanskii,稲葉章,松尾隆祐,第40回熱測定討論会(東京) 2B1440(2004)
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