全フッ素置換鎖を有するポリカテナーメソゲン14PCFの相挙動と熱容量

Molecular structure Fig. 1. Molecular structure of 14PCF, consisting of three alkyl chains, rigid core, flexible spacer, and a perfluorinated alkyl moiety. Its characteristic shape and amphiphilic property are thought to have produced rich variety of liquid crystalline states.

Heat capacities Fig. 2. Measured heat capacities of 14PCF in the whole temperature range.

Phase transitions Fig. 3. Col - SmAd and SmAd - IL phase transitions of 14PCF. An anomalous increase in heat capacity is observed from a few Kelvin below the SmAd - IL phase transition.

サーモトロピック液晶は,基本的には構成分子の形状異方性に由来する異方性を持った液体といえます. 実際,最近では計算機シミュレーションによって分子の異方性と発現する相の間の関係が詳細に検討されるよ うになっています. 実験的には,単純なロッドやディスクとは異なる様々な形状の液晶性分子が活発な研究の対象となっています. その一方で,分子に両親媒性を持たせることによりリオトロピック系にみられるミクロ相分離に基づく多彩な 構造を発現させる試みも活発になっています. ここで取り上げる物質14PCFは,特徴的な形状と両親媒性の両者を併せ持つ分子構造を持ちます(Fig. 1). これまでに顕微鏡観察,DSC,X線回折実験が行われています(E. Nishikawa, et al, J. Mater. Chem. 13, 1887 (2003)). 興味深いことは,相系列の中に私たちがこの間集中的に取り組んできた等方性液晶相が現れるとされていること, および,SmA−等方性液体相転移が非常に小さな潜熱は伴うものの,層間隔やその層間長が連続的に変化しているとされていることです.

これまでには「結晶− 52.6 °C −キュービック相(Cub)− 65.3 °C −カラムナー相(Col)− 94.2 °C −SmAd相− 115 °C − 等方性液体(IL)」という可逆な相系列が報告されていましたが, 断熱型熱量計を用いた実験では,この相系列はカラムナー相以上の高温部でしか再現されませんでした. 全温度領域における測定結果をFig. 2に示します. 合成された試料(結晶1)は53 ℃付近で相転移を起こしますが,転移後のCub相と思われる相は準安定で, 別の結晶相(結晶2)へと再結晶化してしまいました. つまり,興味の一つであった等方性液晶相の熱容量は測定できなかったことになります. 結晶2は昇温すると,336.94 Kで融解してCol相になり, また,結晶2は冷却すると269.0 Kで別の低温結晶相(結晶3)に移りました. Col相−SmAd相転移K,SmAd−IL相転移の温度はこれまでの報告と一致しました. 興味深いことに,Col相,SmAd相を冷却しても結晶2しか得られませんでしたが, ILを冷却すると結晶1が得られました. 結晶1の熱容量には200 K以上に盛り上がりが認められますがその原因は現段階では不明です.

お目当ての等方性液晶相は手にすることができなかったのですが, IL相転移などについては実験をすることができました. この領域の熱容量をFig. 3に示します. 先に報告されたとおりCol相−SmAd相転移, SmAd−IL相転移とも確かに一次相転移ですが, その潜熱は大変小さいものでした((55 ± 5) J mol−1および(249 ± 3) J mol−1). また,いずれの相転移でも転移点において実験誤差内で熱容量の跳びは観測されませんでした.

さて,問題のSmAd相−IL相転移はどうでしょう. Col相の熱容量は,ほぼ温度に対して直線的に変化していることがわかります. SmAd相でも380 K付近まではCol相の熱容量直線の延長上にありますが, 385 K以上では明らかに異常な増大があるようにみえます. 直線からはずれ始める温度は, SmAd相の層間距離が変化し始めると報告されている温度に近く, 巨視的には(潜熱は小さいものの)明瞭な一次相転移でありながら微視的には連続的に見えるSmAd−IL転移の特徴をとらえているものと考えられます.

この研究はJST横山液晶微界面プロジェクトの西川悦史,山本 潤,横山 浩の各氏との共同研究です.

(齋藤一弥)

発 表

K. Saito, D. Kanki, S. Ikeuchi, A. Inaba, E. Nishikawa, J. Yamamoto and H. Yokoyama, 20th International Liquid Crystal Conference, MAC-P007 (2004, Ljubljana, Slovenia)
齋藤一弥,神吉大輔,池内賢朗,稲葉章,西川悦史,山本潤,横山浩,2004年日本液晶学会討論会,3A05 (2004,名古屋)

Copyright © Research Center for Structural Thermodynamics, Graduate School of Science, Osaka University. All rights reserved.