分子熱力学研究センターの現況報告

分子熱力学研究センター長  稲葉 章

理学研究科附属としての分子熱力学研究センターは,大阪大学の中でも規模の小さな組織であるが,国内のみならず国際的にも認知され,その存在意義が広く認められてきたのではないかと感じている. それは間違いなく先達の地道な努力と着実な成果の賜物なのだが,一朝一夕で構築できないこのような貴重な財産を単に持ち続けるだけでなく,学問の新しい一局面が切り拓けないかと常に自問しながら伝統を生かした研究,良き伝統が生きる研究を目指している.

国際的には,われわれが志向している構造熱科学的な研究がとりわけ注目されており,センターに認められた外国人特別研究員のポストを最大限有効に生かして共同研究を推進している. また,来年4月から国費留学生(大使館推薦)1名を受け入れる予定であるが,教育面での国際的な貢献もわれわれの望むところである. 一方で,博士研究員としての受入希望も少なからず聞かれるが,満足に対応できていないのが現状である.実は,これら次世代を担う若者の育成が今こそ必要なのだが,結果を急がせる時流はなかなか思い通りにはさせてくれない. 基礎研究とそれに関わる教育には,効果が現れるまでの相当な時間の遅れを覚悟したそれなりの忍耐が必要なのであろう.

理学研究科のとりわけ化学専攻・高分子科学専攻の協力を得ながら,今年も着実な研究・教育活動ができたのではないかと考えている.以下に現況を報告する.

1.人事

【運営委員会委員】(2005年11月7日現在)

教 授 稲葉  章 分子熱力学研究センター(センター長)
教 授 笠井 俊夫 化学専攻:物理化学講座
教 授 佐藤 尚弘 高分子科学専攻:高分子凝集系科学講座
教 授 中澤 康浩 化学専攻:物理化学講座
教 授 深瀬 浩一 化学専攻:学際化学講座
教 授 山口  兆 化学専攻:物理化学講座
教 授 渡會  仁 化学専攻:無機化学講座

【教職員の構成】(2005年11月7日現在)

センター長(兼)
教 授
稲葉  章 inaba(注)
教 授(兼) 中澤 康浩 nakazawa
講 師 長野 八久 nagano
講 師 高倉 洋礼 takakura
助 手 宮崎 裕司 miyazaki
特任研究員 崎里 直己 sakisato
外国人特別研究員 Jan Krawczyk
事務員(兼) 細川 裕子 yhoso
(注)電子メールアドレス @chem.sci.osaka-u.ac.jp の前に付ける名称

【学生】(2005年11月7日現在)

【就職・進学】

2.研究・教育活動

(1) 国際会議および国内学会

第15回ロシア化学熱力学国際会議(RCCT-2005)が6月にモスクワ州立大学で開催され,これに招待された稲葉が“Quasicrystals and the Related Crystals – Their Lattice Vibration and Phase Transition –”と題する全体講演を行った. また,第40回IUPAC会議が8月に北京で開催され,稲葉がセッションの招待講演“Structure and Phase Behavior of 2-D Solids Formed at Interfaces”を行った. 同じ題目の招待論文が,IUPACの論文誌Pure and Applied Chemistryに掲載される予定である. 第60回カロリメトリー会議は6月にワシントンD.C.のNISTで開催され,宮崎がシンポジウムの招待講演“Heat Capacity Studies on Molecule-Based Magnets”を行った. これら会議の詳細については,本号レポート記事を参照していただきたい.

国内学会では,第41回熱測定討論会が10月に九州大学で開催され,稲葉が「精密熱測定による構造熱科学研究」と題する特別講演を行った. 一般講演発表を含むリストは,国際学会,国内学会それぞれについて本号に掲載してある.

(2) 科学研究費補助金

今年度は新規採択のものはなく,以下の継続課題(3件)のみであった.

(3) 講義などの担当

学内の教育活動として各人それぞれ講義・セミナー・学生実験などを担当している. 以下は今年度の担当である. 新カリキュラムの1年目であった「化学実験1」の世話役には稲葉・宮崎があたった.

<第1セメスター>

基礎セミナー(化学フロンティア):稲葉,中澤,高倉,宮崎,崎里/化学概論:中澤/基礎化学1:中澤/平和の探求:長野/化学熱力学:長野/化学入門セミナー1:中澤,高倉

<第2セメスター>

基礎セミナー(現代科学の課題):長野/化学入門セミナー2:中澤/共通教育化学実験(無機化学):長野

<第3セメスター>

化学熱力学1:稲葉

<第4セメスター>

化学熱力学2:稲葉/基礎化学実験:長野

<第5セメスター>

統計力学概論:稲葉/化学実験1:稲葉,長野,高倉,宮崎

<第6セメスター>

統計熱力学演習:高倉,宮崎

<第7セメスター>

物性化学:高倉

<大学院講義>

分子熱力学:稲葉,長野,高倉

3.学位論文

この一年間に博士(理学)が1名誕生した.

【博士(理学)】(2005年3月)

4.社会的活動

(1) テレビ番組に出演

子供向けサイエンス番組「Qっと!サイエンス」への出演依頼を受け,稲葉が「No. 268:つめた〜い氷の世界」に出演した(テレビ大阪:2005年7月30日(土)午前9:30〜9:45放映,テレビ和歌山・びわ湖放送・奈良テレビ・福井テレビでも放映). 実は,昨年も同じ時期に氷をテーマとした番組「No.217:夏だ!ひんやりかき氷」に依頼を受け,その監修を務めた経緯がある. いずれも水や氷に関わる種々の疑問に答えるかたちのものであった.

今回は,液体窒素やドライアイスを使ったデモンストレーション,氷の結晶構造模型を示しての説明などを行った. 内容は,水と氷の密度の違いや凝固点降下・表面融解の現象,共融混合物の性質などに関わるものであったが,小学生でも分かる説明というのは非常に難しいと実感した. 例えば,「かき氷とアイスクリーム.ほんとうに冷たいのはどちら?」という問いである. かき氷の温度は0 ℃,アイスクリームは零下(自販機では–25 ℃)である. にもかかわらず,口に入れたとき冷たく感じるのはかき氷であり,食べた後の体温をサーモグラフィで測っても,かき氷の方が身体をよく冷やしているという訳である. これには「熱」と「温度」の違いという重要な事項が関与しているのだが,短時間できちんと説明するのはなかなか難しい. これと関連して調べているうちに,氷の融解エンタルピーが0 ℃の氷のエンタルピー(絶対零度を基準としたエンタルピー)より大きいことに気が付き,水の異常さに改めて驚かされたものである. このような社会活動で啓発されることは(自分自身も含めて)往々にしてあるものだと痛感した.

(2) 学会等での活動

日本熱測定学会が主催する2006年の熱測定討論会は,日本熱物性学会が主催する熱物性シンポジウムとのジョイントで開催することが決まり,熱測定学会側の実行委員長を稲葉が務めることになった. 京都大学(吉田キャンパス)を会場として,2006年10月7〜9日に開催予定である. 構成員全員が協力し円滑な運営にあたるつもりである.今年の各人の活動を以下に示す.

稲葉章:

中澤康浩:

長野八久:

高倉洋礼:

崎里直己:

5.海外出張

氏名 目的国 目的 期間
高倉洋礼(講師) 米国 第9回準結晶国際会議に出席(アメス) 2005.5.21 - 2005.5.28
宮崎裕司(助手) 米国 第60回カロリメトリー会議に出席(ワシントンD. C.) 2005.6.25 - 2005.7.3
稲葉 章(教授) ロシア 第15回ロシア化学熱力学国際会議に出席(モスクワ) 2005.6.26 - 2005.7.3
稲葉 章(教授) 中国 第40回IUPAC会議に出席(北京) 2005.8.14 - 2005.8.19
高倉洋礼(講師) イタリア 第20回国際結晶学会議に出席(フィレンツェ) 2005.8.24 - 2005.8.29
高倉洋礼(講師) フランス CNRS訪問(グルノーブル) 2005.8.29 - 2005.9.6

6.外国人来訪者リスト(List of visitors from foreign countries)

(2004年11月9日〜2005年11月7日)
来訪者(Visitor) 所属(Affiliation) 訪問期間(Visiting days)
Dr. Ove Andersson Department of Physics, Umeå University, SWEDEN September 10 - November 11, 2004
Prof. Christoph Schick Institute of Physics, University of Rostock, GERMANY January 18 - February 28, 2005
Dr. Cesar P. Gómez Division of Inorganic Chemistry, Stockholm University, SWEDEN February 28, 2005
Dr. Christoph Meingast Forschungszentrum Karlsruhe, Institute für Festkörperphysik, GERMANY May 6 - June 10, 2005
Dr. Andrey Yu. Vlasov Department of Chemistry, St. Petersburg State University, RUSSIA July 25, 2005
Dr. Jan Krawczyk Institute of Nuclear Physics, Kraków, POLAND September 6, 2005 -
Prof. Zhiwu Yu Department of Chemistry, Tsinghua University, CHINA October 8, 2005

Title of lecture at seminars

  1. Prof. Christoph Schick (Institute of Physics, University of Rostock, GERMANY) “Fast Scanning Calorimetry (10,000 K/s) Applied to Semicrystalline Polymers” [January 25, 2005]
  2. Dr. Christoph Meingast (Forschungszentrum Karlsruhe, Institute für Festkörperphysik, GERMANY) “High-Resolution Thermal Expansion of YBa2Cu3Ox Untwinned Single Crystals: Glass Transition due to Oxygen-Ordering” [May 16, 2005]
  3. Dr. Andrey Yu. Vlasov (St. Petersburg State University, RUSSIA) “Binary Mixture Containing Nematogen: Off-Lattice Model of Rectangular Slabs with Restricted Orientations” [July 25, 2005]
  4. Dr. Jan Krawczyk (H. Niewodniczański Institute of Nuclear Physics, Kraków, POLAND) “Quasi-elastic Neutron Scattering Study of HMB-TCNQ Complex” [September 26, 2005]
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