第15回ロシア化学熱力学国際会議
(RCCT-2005)で全体講演

Russian XV International Conference on Chemical Thermodynamics(RCCT-2005)が2005年6月27日〜7月2日の期間,モスクワ州立大学で開催された. 筆者は幸運にもこれに招待され,しかも全体講演をする機会が与えられたので会議の様子を交えてここに報告しておきたい.

会場となったモスクワ州立大学であるが,Luiginin教授がここに熱化学研究室を創設したのが1891年というから,その歴史は大変なものである. そもそもこの会議は,北米のカロリメトリー会議(CALCON)に対抗し旧ソ連で1961年に組織された第1回全連邦熱測定会議が始まりである. その後2〜3年毎に開催され,第8回には「全連邦熱測定および化学熱力学会議」となり,さらに前回からは国際顧問を導入して現在の名称となっている. 日本からは元センター長の徂徠道夫名誉教授が国際顧問を務めている.

開会式は,開学250周年を記念して建設され1月に披露されたばかりの大変立派な新図書館(写真)で行われた. 前回の組織委員長であり今回も組織委員の一員であったサンクトペテルブルグ州立大学のNatalia A. Smirnova教授による司会で,モスクワ州立大学副学長のV.A. Tartakovsky教授の挨拶から始まった. 続いて,今回の組織委員長であるモスクワ州立大学のYu.D. Tretyakov教授が最初の全体講演を行った.

会議参加者は440名,うちロシア(ウクライナ,ベラルーシ,カザフスタンを含む)から371名,それ以外の外国人は69名であった. 日本からは山口敏男教授(福岡大学)と筆者の2名の参加であった. 全体講演は毎日の午前中に行われ,合計15件の内訳はロシア(6),アメリカ(2),オーストリア,オランダ,韓国,中国,ドイツ,日本,フランス(各1)であった. 筆者の講演題目は,「Quasicrystals and the Related Crystals – Their Lattice Vibration and Phase Transition –」であった.

一般の口頭発表は化学棟の5会場で平行して行われ(152件),ポスター発表と あわせて640件というから,かなりの規模の国際会議であった.セッションは1:general topics of chemical thermodynamics,2:industrial substances,3:solutions and melts,4:heterogeneous systems,5:complex thermodynamic systemsに分かれた. この他にround tableが企画され,1:the thermodynamical school in Moscow State Universityおよび2:nanothermodynamicsが行われた. 会議の公用語は英語とロシア語の2本立てで行われたが,round table 2 に筆者が出席した折りには,約50名の参加者で非ロシア語圏からは1人であったにもかかわらず発表や議論を英語で行う心遣いようで,ロシア語で発言があったときには座長が翻訳してくれた. 一方,ポスター発表の多くはロシア語で行われ,正直なところ馴染めないところもあった.

今回の会議では,IUPACの他にも20社におよぶ企業からの寄付を募り,特に若い研究者や学生に多数の(10数名におよぶ)賞を与えていた. 聞くところによれば,アカデミックポジションはもちろんのこと,ロシアでの就職難は深刻であり,若者の頭脳流出をくい止めるために必死のようである. 日本でもポスドクの就職で深刻な問題を抱えており,考えさせられるものがあった.

閉会式に続いて反省会が行われ,参加者の意見が聞かれた. ほとんどが「すばらしい会議であった」という社交辞令の中,進行役である組織副委員長のA.Ya. Borshehevsky教授が笑いを込めて「そんなはずはない」としたところ,ロシアの若い参加者から「“international”を標榜する限りロシア語は排除すべきである」との強い意見があった. これに対し外国人参加者からは,「少なくとも英語講演とロシア語講演を明示してほしい」との希望が出された. 全体講演の一つがロシア語での発表であり,その座長をする羽目になった筆者は,講演内容が興味深いものであるにもかかわらず理解できず歯がゆい思いをした. やはり,国際化に際して言語の問題がまだまだ悩みであるとの印象を受けた.

こうして全日程が終了後,キャンパスに隣接したレストランでconference dinnerが催された. 肌寒い雨中にもかかわらず野外に設定されたが,ダンスに興じる多数の参加者がいて,再会を約束し合った. 多くの日本人が抱くロシア人の硬いイメージは,親しくなるにつれ(ウオッカが回るにつれ)一気に解きほぐされる.そんな気がしたものである. この会議で初めて出会ったサンクトペテルブルグ州立大学のAndrey Yu. Vlasov博士が翌月,早速センターを訪問し講演したのも楽しい思い出になりそうである.

次回は2007年にモスクワ郊外のスズダリ(Suzdal)で開催される. 世話役は再びモスクワ州立大学とのことであるが,開催地が首都から閑静な地方に移ることで雰囲気も随分変わるかもしれない.

(稲葉章)

Report 1

The New Library of Moscow State University where the plenary lectures were given.

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