理学研究科の平成16〜18年度にかかる外部評価が,本年11月29日と30日に行われた. 本センターは,化学専攻に含めて研究・教育活動に関する評価を受けた. 化学専攻は,物質を対象とした基礎科学との観点から新物質の設計・新物性の開発・新概念の構築により新物質観の創成を目指しており,その重点的研究領域の一つとして「分子熱力学研究センターにおける精密熱物性研究」が位置づけられている. 評価の結果はまだ発表されていないが,評価委員との質疑応答や懇談の席で全体として受けた印象は以下のようなものである.
研究科の全専攻が21世紀COEプログラムに参画し,低学年教育改革の特色GPや学部専門教育改革の理数オナープログラム,最近では大学院教育改革のBMCプログラムなど次々と教育改革プログラムが採択されている. 若手研究者を含むJSPS International Training Program (ITP) も走り始めた. このような状況で,改革の名のもとにいろいろな経済的支援を受けることは結構なことであるが,いみじくも評価委員の一人が問いかけたように「大学院生や若手研究者が経済的に恵まれ,外国にも簡単に行けるようになった. それでよいのでしょうか?」とは,われわれ自身も痛切に感じ自問しているところである. これらプログラムの獲得と実施には,当然のことながら大変なエネルギーと時間を費やす. しかし,理学研究科としては最終的に「真に理学的な研究が行われたか」が問われる. 外部資金の獲得状況や論文数など,数値で評価できるものは直接的で簡単だが,往々にして間違いを犯しやすい. その先にある「よい研究が行われたか」を評価するのは難しいが,それを実現するのはもっと難しい. 他にエネルギーを割かねばならない多忙を極める昨今の状況は,事態を悪くすることはあっても良くすることはない. 非常に厳しい状況にあると言えるだろう. じっくり腰を落ち着けて研究を行いたいものである. 来年は大学の暫定評価が予定されている.
さて,本センターは2009年3月に時限を迎える. 1979年に発足した化学熱学実験施設の10年,ミクロ熱研究センターとしての10年,そして分子熱力学研究センターの10年が近づきつつあるわけである. プロジェクト研究を志向する様々なセンターがある中で,本センターはその学問的な性格もあり地道に着実に歩んできたところである. 国内だけでなく国際的な研究拠点として,研究科附属の小規模なセンターとはいえ,果たしてきた役割は決して少なくないと自負している. そのユニークな存在を生かすべく今後を模索したいと考えている.
以下に現況を報告する. なお,「阪大化学熱学レポート」のバックナンバーはホームページ (http://www.chem.sci.osaka-u.ac.jp/lab/micro/index.html.ja) にも掲載しているのでご覧いただきたい.
教 授 | 稲葉 章 | 分子熱力学研究センター(センター長) |
教 授 | 笠井俊夫 | 化学専攻:物理化学講座 |
教 授 | 佐藤尚弘 | 高分子科学専攻:高分子凝集系科学講座 |
教 授 | 中澤康浩 | 化学専攻:物理化学講座 |
教 授 | 深瀬浩一 | 化学専攻:学際化学講座 |
教 授 | 渡會 仁 | 化学専攻:無機化学講座 |
センター長(兼) 教 授 |
稲葉 章 | inaba(注) |
教 授(兼) | 中澤康浩 | nakazawa |
准教授(兼) | 竹谷純一 | takeya |
講 師 | 長野八久 | nagano |
講 師 | 宮崎裕司 | miyazaki |
助 教 | 高城大輔 | takajo |
特任研究員 | 藍 孝征 | lanxzh |
外国人研究員 | 古賀精方 | |
事務員(兼) | 神林江里子 | eriko |
21世紀COEの後継としてグローバルCOEが設定され,化学・材料科学分野において「生命環境化学グローバル教育研究拠点」が採択された. 理学研究科・工学研究科・基礎工学研究科の化学系の枠組みは21世紀COE「自然共生化学の創成」と変わらないが,分子熱力学研究センターとして稲葉が新たにコアメンバーに加わった. その5研究グループのうち「分子情報化学」に属している. 5年間のプログラムである.
科学研究費補助金により平成16〜18年度に実施した基盤研究(A)「界面特異な新奇凝縮相における秩序と乱れ」が終了した. 「乱れ」の指標「エントロピー」を実験的に決める唯一の手法である熱測定を軸とし,構造の乱れを逆格子空間(回折実験)で調べるだけでなく,実空間(STMやAFMによる顕微鏡法)で観察するという構造熱科学研究を展開した. 研究はやっと緒に就いたところであり,今後の展開が大いに期待できる.
今年も各種の国際会議ならびに国内学会で講演発表を活発に行った. 一般講演発表を含むリストを本号に掲載してある. 国際会議報告については,本号レポート記事を参照していただきたい.
奈良女子大学大学院において,稲葉は11月14〜15日に集中講義「物性物理化学特論」(凝縮系物理化学)を行った. 学内の教育活動としては,それぞれ講義・セミナー・学生実験などを担当している. 今年度の担当は以下の通りである.
基礎セミナー(化学フロンティア):稲葉,中澤,竹谷,宮崎,高城/化学概論:竹谷,宮崎/基礎化学1:中澤/人間教育科目(平和の探求):長野/化学熱力学:長野
基礎セミナー(現代科学の課題):長野/化学入門セミナー2:稲葉/共通教育化学実験:長野/自然化学実験1:宮崎
化学熱力学1:稲葉
化学熱力学2:稲葉/基礎化学実験:長野,高城
統計力学概論:稲葉/化学実験1:竹谷,長野,宮崎,高城
統計熱力学演習:竹谷,宮崎
物性化学:中澤/化学熱力学3:中澤
分子熱力学:稲葉,長野,宮崎
本センターが活動の場の中心としている「日本熱測定学会」の会長に稲葉が就任した. 本年10月から任期は2年である. この学会の創設(1973年)には関集三名誉教授が尽力され,歴代会長としても関先生をはじめ,菅宏名誉教授や徂徠道夫名誉教授(いずれも元センター長)が務められてきた. 関連する国際会議としては,1996年に大阪で開催されたICCT-96に続く日本での開催として,ICCT-2010(つくばで開催予定)の組織委員会が正式に発足した. 名誉組織委員長は関集三名誉教授,名誉副組織委員長は菅宏名誉教授,組織委員長は東工大の阿竹徹教授である. 関・菅記念シンポジウムが予定されている. 本センターからも運営委員ならびに各部会委員として参加することになった. 今年の各人の活動を以下に記す.
氏名 | 目的国 | 目的 | 期間 |
准教授(兼) 竹谷純一 |
米国 | Material Research Society, Spring Meeting に出席 (サンフランシスコ) |
自 2007.4.9 至 2007.4.13 |
教授 稲葉 章 |
ポーランド | The 25th Janik's Friends Meeting に出席 (ザコパネ) |
自 2007.7.14 至 2007.7.23 |
教授 稲葉 章 |
米国 | The 62nd Calorimetry Conference に出席 (ハワイ) |
自 2007.8.5 至 2007.8.11 |
博士前期課程学生 鈴木 晴 |
米国 | The 62nd Calorimetry Conference に出席 (ハワイ) |
自 2007.8.5 至 2007.8.11 |
教授(兼) 中澤康浩 |
米国 | The 62nd Calorimetry Conference に出席 (ハワイ) |
自 2007.8.6 至 2007.8.11 |
准教授(兼) 竹谷純一 |
中国 | China-Japan Joint Workshop on Electronic and Photo Transport of Organic Solids に出席 (北京) |
自 2007.10.25 至 2007.11.2 |
来訪者 (Visitor) |
所属 (Affiliation) |
訪問期間 (Visiting days) |
Dr. Jan Krawczyk | Institute of Nuclear Physics, Kraków, POLAND | January 5 – March 22, 2007 |
Prof. John Finney | University College London, U.K. | March 6 – 8, 2007 |
Prof. Qi Wang | Zhejiang University, CHINA | June 29 – August 31, 2007 |
Dr. Christoph Meingast | Forschungszentrum Karlsruhe, Institute für Festkörperphysik, GERMANY | September 18 – October 19, 2007 |
Dr. Yoshikata Koga | University of British Columbia, CANADA | November 1, 2007 – |