研究紹介 17

ゴムの力学・熱量効果の直接測定

fig 1
Fig. 1. Thermocouple output signal from natural rubber (I) undergoing small elongation and contraction.

Fig. 2
Fig. 2. Thermal response of natural rubber (I) vs. elongation ratio λ showing a small systematic difference for elongation and contraction.

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Photo 1. (Color online) The silicone rubber sample under the mechano-caloric measurement. The length scale is shown by the centimeter ruler.

Fig. 3
Fig. 3. Entropy of elongation of natural rubber (I) and (II) showing the reproducibility of the measurement. The best-fit functions eq. (6) are also shown.

ゴムは,我々の日常生活になくてはならない材料である.歴史的には,コロンブスが天然ゴムをアメリカ大陸からヨーロッパに持ち帰ったのが西洋でのゴムの利用の最初とされているが,1839年にグッドイヤーが天然ゴムの加硫法を発見して,現在の弾力性に富む材料として利用されるようになった.学術的には,有名なジュールが,ゴムを伸長すると熱が生じる力学・熱量効果(別名グー・ジュール効果)を研究し,ゴムの熱力学的性質が明らかとなり,エントロピー弾性という概念が生み出された. 本研究では,ゴムの力学・熱量効果を簡便に測定する装置を試作し,種類の異なるゴムを様々な条件下で変形させた時の温度変化を測定し,ゴム弾性理論との比較を行った.

細長いストリップ状のゴム試料を2枚(あるいはそれ以上)重ね,2つのクリップで両端を挟み,伸長・収縮が可能な治具に装てんした(Photo1).ゴム試料の温度は,2枚のゴム試料の間に挟んだ微小のクロメル・コンスタンタン熱電対により測定した.Fig. 1には,輪ゴムの原料である加硫天然ゴムを伸長比λ(=変形後のゴムの長さ/自然長のゴムの長さ)が1.97になるように引き伸ばし,元に収縮させたときの熱電対の出力変化を示す.伸長直後に,0.2 Kほどの温度上昇がみられ,周りへの放熱によりゆっくりと冷却され,その後元の長さに収縮させると,ほとんど伸長前の温度に戻っている.同様の実験を異なる伸長比について行った.

Fig. 2には,輪ゴムの伸長に伴う熱電対の出力変化 ΔE1(○)と収縮に伴う出力変化 ΔE2(□)の伸長比依存性を示す.伸長比が3より小さいときには, ΔE1 > ΔE2,逆に伸長比が3.5より大きいときには, ΔE1 < ΔE2となっている.この伸長・収縮にともなう温度変化の違いは,変形に伴うゴムの内部エネルギー変化が関わっていると考えられる.

実験で得られた ΔE1から,次の式によってゴムの伸長にともなうエントロピー変化 Sを見積もった. ここで,Clは長さ一定の条件下でのゴムの熱容量,Tは実験が行われたときの温度,そしてkは熱電対の出力と温度の比例係数である.天然ゴム(ポリイソプレン)に対するClは文献値が利用できる. 輪ゴムの素材である天然ゴムに対して2回独立に測定した結果を利用して見積もられたエントロピー変化の伸長比依存性をFig. 3に,○と×で示す.また同様の実験をゴム風船の素材である加硫天然ゴムについても独立に2回行い,得られたエントロピー変化の伸長比依存性もFig. 3に合わせて□と+で示す.両試料とも.再現性良くエントロピー変化が求められている.また,同じ伸長比において,輪ゴムの方がゴム風船よりも伸長に伴うエントロピー変化が大きい.これは,天然ゴムの架橋密度の違いに起因する. ゴム弾性の理論によれば,伸長に伴うゴムのエントロピー変化は,構成している高分子鎖の形態エントロピーの変化に帰着される.WangとGuthのゴム弾性理論に従って計算したΔSをFig. 3に実線で示す.ただし,理論式中に含まれる架橋点間の平均モノマー単位数を輪ゴムでは94,ゴム風船では172と選んだ.伸長比が大きくなると,いわゆる高分子鎖の伸び切り効果が重要となってくるので,理論線は実験データ点からずれてくるが,低伸長比領域では,どちらの試料についても実験結果をよく再現している.同様な実験は,シリコーンゴムについても行った.

(松尾隆佑,佐藤尚弘)

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