第8回日ロ・CIS・バルト諸国
強誘電体シンポジウム(RCBJSF-8)

表題の学会が2006年5月15日−19日にかけて筑波大学で行われた. この学会は第一回が日ソ強誘電体シンポジウムとして1976年にノヴォシビルスクで行われ,4年ごとに開催されてきた. 体制の変革にしたがって現在の名前に変わった. 今回は筑波大学数理物質科学研究科小島誠治教授が中心となって運営され,参加者は131名であった.

強誘電性の周囲には多くの関連概念があり,それらを取り込んで多面的な物性の研究行われている. そこで主題を表すべきセッション名にも物質,現象,方法が並立することになり,ペロヴスカイトI-V,構造相転移I-III,リラクサーI-II,応用,フェロイックス,分光学的研究I-II,薄膜とドメインI-II,固体物性であった. しかし基本的にはペロヴスカイトの研究が活発で,誘電性,伝導性,混晶,磁性誘電体,薄膜などが報告された. 二つの全体講演もともにペロヴスカイト系の研究であった.

今回の招待講演者の一人ヴィソチャンスキー教授は,ウクライナのそのまた西端ウジュゴロド(Uzhgorod)の大学におられる物理学者である. 彼はSn2P2S6やそれと同形結晶の相転移,誘電性,自発分極,光学的性質,中性子散乱などの研究を活発にしている. 阪大でも稲葉さんの世話でセミナーをされた. 関集三先生のもとで学んだ岐阜大学工学部守屋慶一教授がヴィソチャンスキーさんと親しく,今回,彼が招待講演者として来日するに当たり守屋さんがホストを務められた. Sn2P2S6とその関連物質は光伝導性,自発分極,不整合相が現れるなどのたいへん面白い性質を持っている. エントロピーの面から相転移はどのように見えるだろうかという興味からウジュゴロド・岐阜・大阪の協力が続いている. 熱測定で見ると転移エントロピーたいへん大きく,スズイオンが無秩序状態にあると考えるのが妥当であるように思われる. ヴィソチャンスキーさんはMD計算もされて,スズイオンにあるローンペアが大事な働きをするらしいとのことであった. 熱測定の結果は守屋さんがまとめて発表された. 私はこのほかに水素結合系のトンネル準位の解析(東邦大学持田智行博士,東京大学菅原正教授らとの共同研究)と亜クロム酸(H, D)の振動スペクトルと相転移(北海道大学市川瑞彦博士,土田猛博士,前川知文さんらとの共同研究)を報告した.

この学会でフレーロフさんに再会した. 彼はクラスノヤルスクで低温熱測定をやっている研究者で,1989年にザールブリュッケンの国際強誘電体学会(IMF-7)以来の再会であった. 彼のグループではエルパソライト構造の結晶を研究していて,今回もその関連の発表((NH4)3WO3F3など)をされた. 守屋さんも以前にアンモニウム氷晶石の研究をしたが,フレーロフさんはBCSJにでた守屋さんの研究((NH4)3AlF6と(NH4)3FeF6)をよく知っていて,この分野の一つの重要なランドマークと考えているとのことであった. このたびの学会では彼のグループのフォーキナさんが若手研究者賞を受けた. 私が座長をしたセッションの発表でもあったので,同じ熱測定分野の研究者として誇らしい思いであった.

次回はリトワニアの首都ヴィルニウスで2008年に行われる. リトワニアは長い歴史と,下に示す人名に見える通りの複雑な言語をもつ小国で,文化的にも研究の点でもユニークな国である. この学会で会ったリトワニアの研究者(次回責任者グリガスさん,サムリオニスさん,バニースさん,ソビエスティアンスカスさん)は愉快な人たちで「ぜひともヴィルニウスへ!」とのことであった.

(松尾隆祐)

Picture of RCBJSF-8

懇親会にて.左からユリアン・ヴィソチャンスキー,石橋善弘,ヴィタウタス・サムリオニスの各氏と松尾.

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