第20回化学熱力学国際会議に出席して

8月4日から8日までワルシャワで開かれた ICCT 2008(第20回化学熱力学国際会議)に出席してきました. 2002年のロストックの会議以来6年ぶりの参加になります. 長野は最近熱測定では専ら生き物を扱っているので,この会議に出席することはもう滅多にないだろうと思っていたのですが,環境熱力学 (Environmental Thermodynamics) という怪しいタイトルのワークショップでの発表を引き受けましたので,参加することになりました.

記念すべき第20回を飾る Rossini Lecture は,化学工学分野で広く使われている UNIFAC と Dortmund Data Base の開発に貢献した J. Gmehling 教授の講演でした. 全体講演は,この他に2つの Opening Lecture と9つの Plenary Lecture がありました. 日本からは,斉藤一弥さん(筑波大学)が Plenary Lecture を行いました. イオン液体に関する Plenary Lecture では,講演者が冒頭この分野の研究が終了したことを宣言しました. そもそもイオン液体は,昔からよく知られた溶融塩の存在温度域が大きな有機分子イオンの導入によって室温まで下がり,溶解する物質群も広がったので,主として応用面から注目されていたものです. 気相ではイオン対をなし,多量体をつくらないのはちょっと面白いですが,化学熱力学は,どのような物質であれ,その性質が化学熱力学的に当然であることを示すのが役割であるので,イオン液体についても化学熱力学としては決着したということでしょう.

今回の会議で,全体講演を含めてよく耳にしたのは,地球温暖化問題との関連で発電・化学工業プロセスにおける二酸化炭素の補足の採算性,エネルギー効率を上げる課題です. しかし,結論的にはむしろ逆に,気化した二酸化炭素を捕捉,固定しつつ,効率を上げることは熱力学的にも容易でないだろうという印象を深めました.

全体としてこぢんまりとした静かな会議であったと思います. とかく目新しいことに飛びつき,大騒ぎする風潮が強い中で,それらを鎮める役割を果たすべき化学熱力学の国際会議にふさわしい雰囲気であったと思います. 全体講演,招待講演の論文は Pure and Applied Chemistry 誌に掲載されます.

(長野 八久)

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ワルシャワの主要な公共交通機関は路線バスである. その系統の複雑さは京都市バスの比ではないだろう. 朝の通勤ラッシュの時間にも関わらず,ドアが閉まらなくなり運転を取りやめたバスから降りて,次のバスを静かに待つ乗客. 目を三角にして突立っているのは,バスで通勤する兵士. 運転手はバスを蹴飛ばしていました.

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