装置の整備 3

トップローディング型簡易希釈冷凍機を用いた緩和型熱容量測定装置

熱容量測定を低温で行うことの意義は前の記事で紹介しました.1 K以下でも劇的なかたちで現れる電子相や磁性相の性質を明らかにしたり,量子効果によって出現する新奇現象を解明するためには低温熱容量は非常に有効な手段です.できる限り低温まで測定を進めるためには,冷却能力の高い希釈冷凍機を用いることが有効ですが,一方で冷凍機が大型になると最低温度の到達に時間がかかってしまいます.試料の組成依存性の測定や,試料の設置条件をいろいろ変更しながら実験を行う必要がある場合は,室温から最低温度まで早く冷却することができ,実験終了後すぐに装置を室温に戻し,サンプルの交換を行うことは熱測定でも有効です.

Fig. 1 Fig. 1. Schematic drawing of the top-loading type dilution refrigerator available in the 30 mm φ variable temperature insert.

Photo. 1 Photo. 1.

我々は,そのような目的でトップローディングタイプの3Heインサートに緩和型セルを取り付けた装置を用いています.超伝導磁石を組みこんだ温度可変インサート(variable temperature insert, VTI)に挿入可能であり,試料セットから半日程度で最低温度にさがり効率良く実験をすることが可能です.希釈冷凍機を用いた100 mK程度の温度から3He冷凍機と同様な手軽さで熱測定が可能であれば, 実験効率が非常に良くなります.

そのような背景を受けて, 今回,我々はVTIに入れて100 mKから室温付近まで温度コントロールが可能な簡易型のトップローディングタイプの希釈冷凍機に熱容量測定セルを装着した装置を作成しました.冷凍機は太陽日酸社製の簡易型希釈冷凍機(μ–Dilution)です.希釈冷凍機の断熱管の外径は28 mmになっています.断熱管の中に1 Kポットをもたず, 導入された3He–4He混合ガスはVTI中を流れる1.8 K程度の4Heガスと熱交換して凝縮します.20 mm φ 程度のstillを通り, 筒状の構造をとる混合器の底に液体がたまることになります.通常のタイプと比べて系が細いため断熱槽が薄くなっていますが,リード線を通るラインや真空排気のラインを思いきって細くすることでこの径に収まるようになっています.

実際の運転の際には,図のような断熱カンをかぶせ, リークを生じないように半田によってシールします.現在,この部分をより簡単に着脱が可能なウッドメタルに変更するように考えています.リークがないことを確認した後,断熱槽を高真空に排気し,VTIの中にセットします.VTIを2 K 以下まで温度を下げておけば,半日程度で全体が低温まで下がります.低温で再度,高真空に保ったまま3He–4He混合気体を導入すると約3-4時間で最低温度まで到達します.最低温度は通常のガスを循環した状態で65 mK,ワンショットの状態で47 mKまで下がることを確認しました.実際には100 mKの冷却能力が25 μW程度と大きくないため,熱容量測定の最低到達温度は90 mK程度になります.

熱容量の測定は,基本的には3He冷凍機と同様のセルを用いることが可能です.温度較正範囲を拡張し,計測にはリニアリサーチ社の高感度交流ブリッジLR-700を用い,熱浴部のコントロールはLakeShore社の340コントローラを使用します.このような小型の希釈冷凍機システムの場合, 混合器の熱容量が小さいため,混合器と試料ステージの熱浴部の熱的な繋がりを一時的に遮断し,細い銅線数本を使って,比較的に弱い熱的なリンクをつくることによって最低温度から連続的に熱浴の温度を可変させ, 数K程度まで測定が可能になります.また,この装置は混合器の内部に試料をヘリウム気体につけるかたちで測定をすることが可能です.そこに電気抵抗を測定したい試料を入れて同時に測定することが可能です.最低到達温度は少し悪くなりますが,コンパクトな冷凍機であるため, 様々な試料を連続的に測定する際に便利な装置です.

(中澤康浩,吉元 諒)

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