ICSM 2012に参加して

International Conference on Science and Technology of Synthetic Metals (ICSM 2012)は, 有機物・分子性物質・高分子を基にした伝導性・磁性デバイスに関する研究を討議する比較的規模の大きい隔年開催の国際会議です. 規模の大きな会議なので宿泊施設の手配に困らない大都市や観光地で行なうのが恒例でして,前回は京都国際会議場で行なわれました. 今回の会場は米国アトランタのハイアットリージェンシーホテルであり,ホストはジョージア工科大学でした. 筆者の知る限り,これまでのICSM史上,最もアクセスの良い会場です. 空港から電車で約15分,市内中心部の駅から外に出ることなく会場に到着できます. 国際会議はこうでなくては.アトランタは,ビジネス客や観光客が立ち寄るような場所がコンパクトにまとまっています. オリンピックに限らず,世界各地から人が集まるイベントを招致するには,極めて有利な土地であると言えます. 日本ではまず太刀打ちできません.

さて,私は分子性の超伝導体に関する発表を行ないました. 分子2個に電荷1個を形式的に割り振ったときの基底状態として,電荷が2分子の一方に留まる場合(電荷整列)と,2分子内でよく共鳴する場合が考えられます. 分子2個が強く結合している場合は,後者の考え方が適用され,ダイマーモット絶縁体などと呼ばれます. このダイマーモット絶縁体に僅かな歪みを与えるだけで超伝導に転移することは良く知られています. このような構造的特性を持つ圧力下超伝導体と常圧超伝導体に対して,その電荷の様相を調べるために,振動分光的手法による測定を行いました. その結果,電荷は片方の分子に長く滞在するという結果が得られました. これは,結晶中での要請(遠隔的なクーロン斥力や,4分子による結合形成)のため起こる現象であると考えられます. ところで,ダイマーモット絶縁体とは全く異なる結晶構造を持つ,β″-型ET塩と呼ばれる超伝導体では,特定の分子に電荷が長く滞在する現象が遍く観測されます. 従って,この現象の中に分子性物質の超伝導機構に関するヒントがあることが示唆されます.同様の現象に興味を持っている欧米の研究者と,活発な議論をすることができました. 特に,この現象を説明するための理論を構築している研究者たちとは,数時間以上にわたって有意義な意見交換を行ないました. 次回は,2014年にフィンランドで開催される予定です.

山本 貴

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