山本貴博士が2013年度
日本物理学会第7領域若手奨励賞を受賞

平成24年度の日本物理学会の若手研究者奨励賞に2013年3月までセンター兼任教員(物性物理化学研究室助教)として在籍されていた山本貴博士(現愛媛大学大学院理工学研究科准教授)が選出されました。 物理学会の若手奨励賞は、物理学をになう優秀な若手研究者を奨励し、学会の活性化をはかる目的で導入され今年で第7回になります。 領域ごとに概ね38才くらいまでの優秀な若手研究者の中で顕著な業績をあげた人が公募形式の中から選出されます。 化学と物理の境界領域である第7領域(分子性固体・有機導体)分野は、物理化学の研究者も主要なフィールドとして活発に活躍しており、化学系の人が選出されることがしばしばあり、化学と物理の分野融合が本当の意味で進んでいる領域となっています。 今回、山本氏は、第7領域の3名の中の1名に選出されました。山本氏の受賞の題目は、「分子性導体の電荷整列と電荷揺らぎに関する研究」です。得意とする、振動分光の手法と、様々に工夫をした圧力制御によって、分子性電荷移動塩の中でおこる電荷の不均衡や電荷分布の揺らぎの問題を追跡した業績に関するものです。振動分光のデータを多角的に検討し、ピークの同定の方法論を議論するところからスタートし、その温度変化などから分子内の電荷の情報がどのように変わるか、また結晶構造、分子配列によって電荷状態がどのように違うかを系統的に議論し、電子状態理解に関して先導的な役割を果たしてきました。このような解析のノウハウやそこから物理的な描像を構築してきた点で山本氏の分野に対する貢献は非常に大きく、そのことが高く評価されての受賞と思っています。また、延伸や弱圧領域を精密に制御できる圧力セルの作成も非常にユニークな仕事として併せて、高く評価されております。これらの技術は圧力制御下での熱測定にもつながるもので、今後の技術的な確立に大いに期待しています。

昨年度も本レポートで、分子科学研究奨励森野基金の表彰に選ばれたことを書きましたが、2年続けてのうれしい受賞になりました。山本氏が学生だった頃に、この電荷揺らぎや電荷秩序の研究が領域7でも一つのトピックスとして認識されてきました。山本氏の当時の発表を聞いて、振動分光法の熱とは相補的になる優れた特徴とその面白さを感じさせてもらったことを思い出します。以降、分子性の電荷移動錯体では、オンサイトのクーロン斥力だけでなく、隣接サイト間のクーロン斥力が非常に大きく効いており、分子性の結晶ならではの特徴ある劇的な電荷秩序や量子性をともなう電荷揺らぎ状態がつくられることが広く認識されてきました。そのような分野の開拓と確立に、山本氏の研究が大きく貢献してきたのは間違いないと思います。

受賞決定後、愛媛大学への准教授としての異動も決定し、おめでたいことが連続しました。物理学会の若手奨励賞は、比較的歴史は新しいのですが、受賞している人は皆、オリジナリティーのある高いレベルの仕事をしています。 その中に山本氏が選ばれたことは、センターとしてもうれしい限りです。3月に広島大学で行われた物理学会年会の最終日に記念講演が行われ、領域代表の東工大の榎敏明先生から表彰を受けました。写真はそのときのものです。 丁度、松山への引っ越しの時期と重なってしまい体力的にも大変だったと思いますが迫力のある受賞講演をされました。山本氏のこの研究が今後,益々発展することと、愛媛大学での活躍を期待しています.

(中澤康浩)


Dr. Takashi Yamamoto

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