福岡脩平君が2013年度
Calorimetry ConferenceでGiauque賞を受賞

物性物理化学研究室の福岡脩平君(博士後期課程3年)が第68回カロリメトリーコンファレンスでWilliam F. Giauque Awardを受賞しました。この賞は、熱測定分野で活躍する若手研究者を育成する目的で、優秀な研究を行っている大学院学生にコンフェレンスの参加旅費を援助し会議で活発な議論をしてもらおうという趣旨のTravel Awardです。断熱消磁や残余エントロピーの研究で高名な、ノーベル賞学者であるGiauque先生の熱科学に関する貢献をたたえる意味で,その名前をついており、他の学会と比較しても若手賞と思えないくらいの格式を感じる賞です。センターでも過去に池内賢朗さん、山下智史さん、鈴木晴さんという優秀なOBが受賞しています。福岡君の受賞対象となった研究のタイトルは「Thermodynamic Study of π-d Interacting Molecular Compounds under a Precisely Controlled Magnetic Field」です。有機ドナー分子と、磁性アニオンの分離積層型電荷移動塩であるκ-BETS2FeX4 (X=Cl, Br)に対して、伝導性や低温での超伝導の発現に寄与するBETS分子起源のπ電子と、局在スピンとして磁性に寄与するd電子の熱力学的な振る舞いと、両者の相互作用によって構築されるπ-d電子系の様々な特徴を調べた研究です。単結晶を用いた少量試料による緩和型熱容量測定と、磁場を層状構造によってつくられる二次元面内、面間の様々な方向から印加し、 熱容量測定を行った成果を発表しました。d電子の寄与が大きなエントロピーをもちますがよく知られた層状の低次元磁性体とはならず、遍歴π電子を媒介した相互作用によって三次元秩序を作ります。しかし、磁場を面内に印加し層間の相互作用を弱めると隠れていた低次元性が顔を出します。その特徴を熱測定によって顕著に捉えることに成功しました。またπ電子の電子熱容量や超伝導にもd電子の影響が表れることも見出しました。電子が止まった系でのπ-dのハイブリッドシステムの研究例は沢山ありますが、このような伝導系での相互作用の特徴を捉えた仕事は初めてかと思います。 強磁場をかけると磁場誘起超伝導相が現れることもこの系の特徴で、そこまで熱で捉えられるのが今後の目標になります。30分の受賞講演を沢山のデータと自分自身の考えを紹介しながら、非常に丁寧にプレゼンテーションし、賞に値する内容でした。これまでも、阪大の中で行われたGCOEや卓越などのプロジェクトやISCOM, ICCTなど国際会議の経験も積んでいるため流暢な英語でのプレゼンテーションとなりました。

今年の会議は、アメリカ、ニュージャージー州のアトランティックシティ(写真は大西洋のビーチです)で行われました。この地は、第二回のカロリメトリーコンファレンスが開催された熱測定にとっては由緒のある街です。 最近では、日本との合同のハワイミーティングをはじめ、南米のブラジルでのICCTとの共同開催をするなどグローバルに展開しているコンファレンスがもう一度、歴史を回顧するという主旨で開催されたとのことです。福岡君の受賞を喜ぶとともに、彼が行っているような固体の物性研究で、転換期となってきた熱測定の様々な仕事のことを考えていました。超伝導のBCS理論の実証にも熱力学量の測定は必須であり、酸化物超伝導体、また各種のエキゾチックな磁性転移・誘電転移、Vortex転移や近藤効果、スピン液体などなど熱測定が必要とされる問題は過去と同様にどんどん広がってきています。これを機に、福岡君の研究対象もどんどん拡張し、あらたな時代への展開を開いてくれることを期待しています。写真2は、懇親会の様子で、コンファレンスの世話人であるDavid P. Remeta 先生(左から1人目)、Watoson Loh先生(右から1人目)から表彰を受けた時のものです。左から4人目が福岡君です。

(中澤康浩)


Beach


Dr. S. Fukuoka
Mr. S. Fukuoka has been accorded the William F. Giauque Award in 68 th Calorimetry Conference

Copyright © Research Center for Structural Thermodynamics, Graduate School of Science, Osaka University. All rights reserved.