Tokyo Workshop on Spin/Charge Liquids near Ordering に参加して

2012年の11月29,30日にTokyo workshop on spin/charge liquids near orderingが,東京大学本郷キャンパスにて開催されました.この会議は,同年12月に開催されたInternational Symposium Material Science Opened by Molecular Degree of Freedom(MDF2012)と同じく,MDFプログラムの一環である会議です.MDFプログラムでは,有機伝導体など分子性固体における電子物性などを対象とした研究が展開されています.本会議は,特に電子スピンや電荷が揺らいだ秩序構造を持たない,液体様の振る舞いをみせる電子系に関する集中的な議論が行われました.

物性物理化学研究室からは中澤康浩教授と山下智史助教が参加し,中澤教授がThermodynamics of Dimer Mott Systems with Spin Liquid Charactersというタイトルで講演を行いました. 会議の1日目は前述の講演を含め,主としてスピン液体状態に関する講演が行われました. スピン液体という状態が理論的な概念から実験的な研究対象に変化したのはここ10年程のことであり,近年その性質の理解を目指した多種多様な研究が展開されています. また,わずかな構造の違いから多種多様な現象が生み出される分子性導体においてスピン液体が実現するという事実は,スピン液体とその他の状態の関係性についての議論をさらに活発にしています. 会議では,中澤教授の熱容量測定研究のほか,分光・NMR測定や化学合成的な観点からの研究に関する講演が行われ,理論研究からの視点についての講演もありました. 分子性導体においてスピン液体状態が実現していることを最初に指摘した研究が日本で行われたということもあり,日本の研究者によるスピン液体状態に関する研究は大変盛んです. その一方で,スピン液体問題は固体物性における重要なテーマであるため,海外の研究者による注目度も高く,本会議でも海外の研究者による新しい視点からの講演がありました. 会議の2日目では,1日目に引き続きスピン液体に関する発表と電荷ゆらぎに関する発表が行われました. 最近になり,分子性導体の電子状態がいわゆる金属間化合物とは大きく異なるものであることが注目されていますが,本会議では,このような違いに関し,主として電荷揺らぎに注目した誘電緩和やTHz分光などの研究に関する講演が行われました.

本会議では2講演ごとの休憩があり,質問時間が多少伸びても会議の進行に影響があまりないため,質問時間には余裕があり活発な議論が常に続いていました.また,休憩時間においても講演者を交えた議論が続くことが多かった印象があります.これは,本会議が分野をかなり絞ったものであるということに加え,スピン液体状態と電荷液体状態の間には概念的な共通項が多く,双方の研究が密接に関係するため,会議に参加した研究者のバックグランドや重要な視点が大部分共有していたということが大きな効果であったと思います.私も電荷液体状態に関しては興味があり,いくつかの質問や休憩時間における有意義な議論を行うことができましたが,これもゆとりのある時間設定のおかげだと思います.日本化学会や日本物理学会の年次大会においても,研究領域を絞った議論がなされることもありますが,ここまで分野を絞った議論を2日間継続できる機会はあまり多くないと思います.多種多様な研究発表に触れることで視野を広げることも重要ですが,一部の研究分野に焦点をあて,その研究における問題点も含めて密な議論を行うこともやはり重要であるということを再確認できた会議でした.また,スピン液体分野における海外の研究者の講演を国内で聞くことができたことも大きな収穫でした.本会議で扱った問題には未だ多くの未解決点が存在するため,今後もこのような会議が開催されることを願っています.

(山下智史)

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