Fig. 1. Molecular structure of [Rh(3,6-DBSQ-4-NO2)(CO)2].
Fig. 2. (Color online) Heat capacity of [Rh(3,6-DBSQ-4-NO2)(CO)2]. First-order phase transition was observed at 176.3 K.
Fig. 3. (Color online) Excess heat capacity of [Rh(3,6-DBSQ-4-NO2)(CO)2]. Transition enthalpy and entropy were estimated to be 580 ± 16 J mol−1 and 3.39 ± 0.11 J K−1 mol−1, respectively.
Fig. 4. (Color Online) IR spectra of [Rh(3,6-DBSQ-4-NO2)(CO)2].
K2Pt(CN)4·3H2Oに代表される金属錯体は,その金属原子の 軌道に大きな重なりを生じ,一次元錯体として存在しています.このような金属錯体にBrなどの電子吸引基をドープした部分酸化型錯体では,金属から配位子へ電荷移動が生じて一次元的な高い電気伝導性が観測されます.以前,本レポートNo. 31で,この型の一次元錯体である[Rh(3,6-DBSQ-4,5-(MeO)2)(CO)2]について紹介しました.今回,私たちは,共同研究者である兵庫県立大学の鳥海幸四郎教授・満身稔博士のグループによって,MeOの代わりにNO2を導入・合成された[Rh(3,6-DBSQ-4-NO2)(CO)2](Fig. 1)の熱容量測定を行い,その熱物性について調べました.先行研究では,磁化率測定から,180 K付近に構造相転移に伴う磁化率の変化が観測され,相転移温度以下で鎖内の強い反強磁性相互作用による磁化率の温度依存性が見出されています.また,単結晶X線結晶構造解析から,相転移温度で格子定数の温度依存性に不連続性が見られたことから,この相転移が一次相転移であること,さらに,電気抵抗率測定から,低温で大きなエネルギーギャップを伴う半導体的な挙動が,相転移によってエネルギーギャップが小さくなり,比較的高い電気伝導性を示すことがわかっています.
熱容量測定は微少試料用断熱型熱量計を用いて行いました.Fig. 2に測定結果を示します.176.3 Kに一次相転移による熱容量ピークが観測されました.また,この相転移はほとんどヒステリシスを示しませんでした.Fig. 2中の曲線のようにベースラインを決めて過剰熱容量を求め(Fig. 3),転移エンタルピー・エントロピーを計算したところ,それぞれ580 ± 16 J mol−1 と 3.39 ± 0.11 J K−1 mol−1となりました.この転移エントロピーの値は[Rh(3,6-DBSQ-4,5-(MeO)2)(CO)2]の値(19.42 J K−1 mol−1)と比べるとはるかに小さく,典型的な変位型相転移であると考えられます.また,相転移による磁化率の変化を見たところ,相転移による磁気エントロピーの変化もほとんどなさそうです.したがって,この相転移によるエントロピー変化は格子振動や分子内振動の変化から生じたものといえます.このことを調べるために,赤外吸収・ラマン散乱スペクトル測定を行いましたが,Fig. 4からもわかるように,相転移による顕著な振動モードの変化は特に見られませんでした.私たちは今のところ,相転移による電気伝導性の大きな変化から類推されるように,分光測定で観測されなかったRh−Rhの一次元的な結合による低振動モードが相転移によって大きく変化することによって,今回のようなエントロピー変化が生じたと考えています.
小松裕貴,橋本将大,満身 稔,鳥海幸四郎,圷 広樹,山田順一,中辻愼一,東 信晃,宮崎裕司,平成25年度日本結晶学会年会(熊本),12-OB-01(12-P2B-07)(2013).
小松裕貴,橋本将大,満身 稔,鳥海幸四郎,圷 広樹,山田順一,中辻愼一,東 信晃,宮崎裕司,錯体化学会第63回討論会(沖縄),1Ba-02(2013).