研究紹介 8

パルスインジェクション法を用いて
グラファイト表面に吸着させた
超分子メタロポリマーのAFM観察

Fig. 1
Fig. 1. Chemical structures of the twin bowl·13− and guest molecule [Ir(tpy)2]3+ (tpy =2,2':6',2"-terpyridine)·23+.

Fig. 2
Fig. 2. Photo of the equipment for the pulse injection.

Fig. 3
Fig. 3. AFM image of the supramolecular chains composed of the twin bowl·13- and guest molecule [Ir(tpy)2]3+·23+ at the step edges (black arrowheads) of HOPG surface obtained by applying the 2000 pulses. The extended supramolecular chains arise as bright lines (indicated by black lines) in the 2D domain (bundle).

真空蒸着法では,加熱分解が起こってしまうため,分子量の大きな高分子などの吸着層を得ることが難しい場合があります.一方,パルスインジェクション法では,このような材料について,加熱することなくかつ被覆率をサブモノレイヤーの精度で制御して,その吸着層を得ることができます.具体的には、真空中にセットした基板に,目的分子を含む溶液のサブミクロンサイズの粒径をもつミストを吹き付けることにより,目的分子の吸着層を得る方法です.本研究では,甲南大学の檀上博史准教授が開発したツインボウル型接合素子により連結された超分子メタロポリマー(Fig. 1)を甲南大学の檀上博史准教授,大阪大学産業科学研究所の須藤孝一准教授,京都大学化学研究所倉田博基教授,根本隆助教との共同研究でこのパルスインジェクション法を用いて基板上に配線することを目的としました.この超分子は,溶液中で球状錯体23+をゲスト分子としてツインボウル型分子13−により包接させることで自発的に得られます.その特徴は,溶液中の濃度を調整または混合する金属カチオン種を選択することで,鎖長を制御することが可能であることです.

ここでは,以下のような手順で超分子ポリマーをHOPG基板に吸着させました.ガラスノズルのキャピラリー内に供給された超分子メタロポリマーのクロロホルム溶液(0.23 mg/mL)を窒素ガスにより加圧し(350 kPa),ガラスチャンバー内にこれを噴射させることで,そのミスト(直径数百nm)を形成させました.つづいて,ガラスチャンバーと真空チャンバー(2.7 × 10−3 Pa)の間に設けたパルスバルブを2000回開閉させ(duration time 2 ms, delay time 500 ms),ガラスチャンバー内で発生させたミストをパルスバルブから13 cm離して真空チャンバー内にセットしたHOPG (0001)表面に吹き付けました(Fig. 2).

このサンプルを大気中に取り出し,AFM観察を行いました.その結果,Fig. 3のようなAFM像が得られました.この像から,超分子ポリマーが,HOPG表面上に2次元的な束を形成し,明るいドメインとなって現れることが分かります.また,伸長した超分子が,基板表面に対して同一の配向をもってドメインを形成した結果,黒い線で示した数nm間隔のストライプ模様がドメイン内に観察されています.さらに,HOPG表面のステップエッジにおいて優先的に核生成が起こるため,黒い矢頭で示したようなステップエッジに沿ってドメインが選択的に形成されていることが分かります.このことから,あらかじめパターニングした基板表面上に,超分子メタロポリマーをパルスインジェクション法により吸着させることで,高度に配向と位置が制御された配線の形成が可能となることが期待されます.今後は,パルスインジェクション法により得た基板上のこのような超分子メタロポリマーの鎖長の濃度依存性や化学的添加による構造変化の評価をAFM観察により行う予定です.

(高城大輔)

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