配位原子への水素結合による金属錯体の反応性制御

 
 
酵素や金属蛋白質などの生体高分子は、非常に複雑で特異的な反応を常温、常圧で効率よく行っています。行う反応は1)電子伝達,2)酸化還元,3)酸素運搬,4)加水分解,5)金属イオンの感受と量の制御など様々です。例えばヘモグロビンとパーオキシダーゼは同じヘム蛋白質で、構造は非常によく似ていますが、前者は酸素を運搬し、後者は結合した酸素で基質の酸化を行います。このような反応性の違いはペプチド配位子に制御されていると考えられます。当研究室では配位原子への水素結合に着目し、これまで水素結合能を持つ有機配位子、ペプチド配位子を用い、水素結合が1)中心金属の酸化還元電位を正側にシフトさせる。2)金属−配位子結合(M-L)の結合性を制御する。3)配位子アニオンの塩基性度を低下させ(pKaの低下)ほとんどの場合M-Lの結合を強くし、加水分解による開裂を防ぐ。4)配位子のトランス位にあるオキソ配位子の反応性を制御する。など反応性制御メカニズムを明らかとし、これまで不安定で合成不可能と考えられていた錯体の単離にも成功しています。これらは当初,-pπ相互作用の大きい硫黄配位子で見出されましたが,イオン結合性が高いと考えられてきた酸素配位子であるカルボキシラート,フェノラート,ホスホラートのM-O結合の安定化にも寄与していることがわかりました。
 真珠の主成分は方解石と同じ炭酸カルシウムです。この見た目の違いは炭酸イオンとカルシウムイオンの並び方(結晶形)によります。通常,炭酸カルシウムは方解石と同じ結晶形(カルサイト)になります。最近の研究から,真珠になるためにはカルボキシル基を持つ少量の蛋白質またはペプチドが関与していることが明らかになってきました。これまで真珠は炭酸カルシウムの小さな結晶の集まりだと考えられてきましたが,私たちが真珠を詳しく調べたところ,炭酸カルシウムの結晶と考えられていた部分にもペプチドが存在していることを見出しました。つまり,結晶が成長する段階でペプチド解離せずに配位し続けているということです。ポリアクリル酸上で炭酸カルシウムを結晶化しても水洗などで簡単に外れてしまうことから,外れないための仕組みがあると考えられます。私たちはカルボン酸配位子への水素結合が金属−酸素結合を安定化していると考え、高分子を用いモデル化しました。実際,水素結合により強く結合した高分子―炭酸カルシウム結晶複合体の合成を行い結晶系が制御されることを明らかにしました。
 現在では,この原理を基にした有機無機複合体の開発,水素結合による脱プロトン化・アニオンの求核反応性制御,水素結合の温度依存性を利用した金属イオンの捕集と脱着などに応用されつつあります。

バイオミネラル(生体無機結晶)の構築機構の解明




バイオミネラルは、生体高分子が無機結晶に強く結合することにより構築されている。
NH-O水素結合を形成する合成高分子配位子を用いて炭酸カルシウム結晶複合体の合成

      
炭酸カルシウム構造体の構築機構の解明

その他のテーマ

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