Fig. 1. Schematic drawing of the sample cell.
Fig. 2. Variation of sample temperature during the heat capacity measurement.
Fig. 3. Deviation plot for the measured heat capacity of addenda from the fitted value.
熱容量の絶対値を正確に決定する目的に,ふつうは断熱型熱量計を使います. しかし,極微量しか入手できない試料や,磁場中で熱容量を決定したい場合など, 条件によっては絶対精度について少し妥協せざるを得ない場合があります. このとき適用できる手法の一つに緩和法があり, 最適化すれば1 mg 程度の試料でもある程度の正確さで熱容量決定が可能となっています. 種々のタイプの交流法もまた,独自の情報が得られるという点で魅力的です. すなわち,目的や試料の条件によって手法を選択し使い分け,あるいは棲み分けをする必要があります. このような状況の中で,われわれは準断熱法の(isoperibol)熱量計を整備しています.
基本的には,厳密な断熱制御を行う“断熱法”の原型を見直したシステムで, しばらく研究室の片隅で眠っていたオックスフォード社製のクライオスタットとスティック型熱容量プローブを使用しました. 熱量計の中心部の概念図をFig. 1に示します. 試料装着部(アデンダ)は直径 20 mm,厚さ1 mmのサファイアディスクと, これに取り付けたレイクショア社製の温度計(Cernox)および抵抗体ヒーター(10 k)から構成されており, ナイロン糸により4点で支持されています.これを取り巻く周囲は熱浴としての役目を果たしますが, その真空容器内部は10−1Paより良い真空に保たれます. ここで,ソレノイドで駆動できる機械的熱スイッチのON/OFFにより, 試料部と熱浴とは等温/断熱の条件設定が自由にできます.
Fig. 2は,測定時の試料部の温度変化を模式的に示したものです. まず,熱スイッチONで試料部を熱浴と同じ(望みの)温度に保ちます. 次に,熱スイッチOFFとし試料部を断熱状態に置き, t1からt2の時間に矩形状のヒーター出力により熱量Qを加えます. ここで熱浴の温度を積極的に制御しない限り,昇温後は断熱条件が崩れているため, 試料部の温度は次第に降下します.しかし,加熱後の短い時間では直線的な温度変化で近似できます. ただし,そのためには試料部全体の内部平衡が十分速く達成されていなければなりません. こうして,外挿により温度上昇ΔTを求め,加えた熱量QとΔTから熱容量を求めます. ここで熱浴の設定温度を変更し,熱スイッチのON/OFFを繰り返します. そうすれば一連の温度域で熱容量データが次々に得られるというわけです.
システムを構成している加熱系や温度測定系の計測機器は全てGPIBでパソコンと接続されており, 熱スイッチもパソコンとシリアル接続されたソレノイドで駆動されます. また,パソコン上での制御は,テストポイントを用い新たに作成したアプリケーションプログラムにより, 全てが自動で行われます.
Fig. 3は,アデンダ(空セル)の熱容量測定の結果を示したものです. 熱容量の実測値を温度の9次以下の奇数次多項式でフィッティングし, それからの実測値のズレを示したものです.この温度域でバラツキは±0.5%程度に収まっています. この空セルは80 Kで約0.1 J K−1の熱容量をもちますが, まだまだ軽量化は可能です.サファイアは低温で熱容量が比較的小さいため, 測定は低温でより有利となりますが,このシステムでは2 K〜300 Kでの熱容量測定を考えています. 標準物質として銅片(約60 mg)を用い,システム全体の最適化を検討しているところです.
通常の断熱法で要求されるよりも少量(数10 mg程度)の試料を対象に, 絶対値の信頼性という点では断熱法に近い高精度で, しかも操作性の良いシステムの構築を目指しています. 熱浴の温度を積極的に制御すれば断熱熱量計として使用することも可能です. あるいは,場合によっては緩和法に近い使用法も有効かもしれません. 本装置が最適化され定常的に稼働すれば, 従来の断熱法と緩和法を補完するかたちの使用が可能になると期待しています. 本装置を使って,当面は準結晶関連物質の熱容量測定を予定しています.
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