Fig. 1. Repeat unit of PEVE.
Fig. 2. Heat capacities per mole of repeat unit of PEVE.
Fig. 3. Temperature variations of spontaneous temperature drifts in 20 minutes after energy input
for samples quenched (open circles) and annealed around 195 K (filled circles).
Fig. 4. Arrhenius plot of relaxation times derived from exothermic temperature drifts of PEVE.
近年のリビング重合やデンドリマー合成など,高分子合成技術のめざましい進歩により, 新しい構造や機能をもつ高分子が数多く合成されるようになってきました。 標題の高分子(PEVE)は Fig. 1 に示すような繰り返し単位からなる両親媒性の合成高分子で, 室温で液体として存在します.これまでの研究から, 水溶液では 41 °C 以上で相分離を引き起こすことが,曇点測定や DSC 測定からわかっています. それで, この性質を利用して類似化合物とのブロック共重合体を合成して温度変化により粘度などの物性を制御する, いわゆる「感熱応答性高分子」の開発が進められています (杉原伸治,青島貞人,高分子論文集 58, 304 (2001)).
最近,相分離温度以下での超遠心沈降平衡測定において, 温度上昇につれて円柱状のハードコアと見なした高分子の太さが小さくなり, 高分子間の引力が急激に増加するという興味深い現象が見出されました. 今回,本学理学研究科の佐藤尚弘教授および青島貞人教授との共同研究により, PEVE 水溶液の相分離温度近傍の挙動を熱力学的立場から調べる目的で, まず PEVE そのものの熱容量測定を行いましたので紹介します.
PEVE は, まず2-(2-ヒドロキシ)エトキシエチルビニルエーテルを水素化ナトリウムとヨウ化エチルと反応させて単量体2-(2-エトキシ)エトキシエチルビニルエーテルを合成し, 次いで1-イソブトキシエチルアセテートを開始剤としてリビングカチオン重合させることによって得られました. サイズ排除クロマトグラフィー測定から数平均分子量と分子量分布が, それぞれ Mn = 2.68×104, Mw/Mn = 1.26 と求められました.また,超遠心沈降平衡測定から重量平均分子量と分子量分布が, それぞれ Mw = 3.04×104, Mz/Mw = 1.30 と求められました. 重量平均分子量の値から計算した繰り返し単位の数は n = 190 です. 熱容量測定は研究室既設の微少試料用断熱型熱量計を用いて,7~330 K の温度範囲で行いました. 測定試料量は 0.21522 g でした.
Fig. 2 に繰り返し単位 1 mol 当たりの PEVE の熱容量を示します. 330 K から最大5 K min−1 の冷却速度で冷却した急冷試料では, 200 K 付近に大きな熱容量ジャンプを伴うガラス転移が観測されました.
Fig. 3 はガラス転移温度付近の PEVE の熱容量とエネルギー入力後20分後の自発的温度ドリフトの温度変化です. 急冷試料では,150 K 付近からガラス転移の発熱緩和による正の温度ドリフトが見られ, 195 K で最大となり,ガラス転移温度をはさんで温度ドリフトが正から負へと変化しました. この温度ドリフトの温度変化から, PEVE のガラス転移温度を Tg = 198.6 K と決定しました. 正の温度ドリフトが最大の 195 K 付近で発熱がなくなるまでアニールして再び熱容量測定を行うと, 195 K 以下では発熱温度ドリフトが急冷試料と比べて小さくなり, 195 K 以上では非常に大きな吸熱温度ドリフトが観測されました. また,ガラス転移による熱容量ジャンプの立ち上がりも高温側にシフトしました.
観測された発熱温度ドリフトから,緩和時間を求めました. Fig. 4 に緩和時間のアレニウスプロットを示します.このプロットから, ガラス転移における活性化エンタルピーを 33.8 kJ mol−1 と見積もりました. また,図には示しませんが,温度ドリフトを詳細に解析したところ, 非デバイ型の緩和であることがわかりました.これは液体急冷ガラスに典型的に見られる現象の1つです.
今回は狭い温度範囲でしかガラス転移における緩和挙動を調べることができませんでしたので, 液体急冷ガラスに典型的に見られるもう1つの現象である非アレニウス型の緩和時間の温度依存性は見られませんでした. 誘電測定など行えば,おそらくこの現象についても観測できるでしょう. 現在いくつかの濃度での PEVE 水溶液の熱容量測定を行っています.
宮崎裕司,松田靖弘,佐藤尚弘,齋藤一弥,杉原伸治,青島貞人,第39回熱測定討論会(広島),1C0950 (2004).
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