Photo 1. Flower found in the forest in Java Island.
野山を散策していると,思いもかけず花をつけている樹木や草に遭遇し,幸せな気分になったりするものですが,ふとこの花は何でこの大きさなのだろうと思ったりしませんか. 私たちの身の周りの植物の多くは,人間が手をかけた栽培植物になってしまっているので,そういう疑問もなかなか湧いてこない時代になってしまったかもしれません. しかし,注意深く観察すれば,高山のお花畑の植物や,里山の雑草にもそれぞれ固有の大きさがちゃんとあることに気づきます. 群落をなす草木の組織の形や大きさは,直接にはそれらが共有する遺伝子が制御していると考えられますが,遺伝子がそれらを決めているというのは答えになっていません. 遺伝子は単に発生の仕方をある様式に固定しているだけなので,その様式を作り出した要因は別に存在するはずだからです.
生態学では昔から,様々な因子の間のtrade-offという考え方が,説明に使われてきました. エネルギーの観点からは,支出と収入のバランスによる最適化がその考え方になります. 例えば,葉の面積を広げればそれだけ光合成の量が多くなるので収入が増えます. しかし同時に,大きな葉をつけるためには,葉とそれを支える丈夫な枝を作るコストを払わなくてはならないことになります. また,面積拡大によって増えた蒸散量に見合うだけの水を供給する根を張らねばなりません. もっともらしい説明ではありますが,実際のところ,この考え方が厳密に実証されたことはありません. 花の場合はもっと大変で,形や大きさが昆虫との共進化の産物でもあり,また次世代が親になり生存が引き継がれることが保障されるだけの数の種子を作り出さねばならないという条件もあります. さらに,はたして生物は本当に最適化の論理に支配されてしまっているのかと言う,より根本的な疑問も湧いてきます.
本研究は,これらの課題に取り組むため,植物の各組織の燃焼熱を厳密に測ることによって,それらの構成コストを定量的に評価することを目的にします. そのため,植物組織を燃焼させる燃焼熱量計を新たに製作しました. 我々は既に,純物質の化学熱力学のための高精度ミクロ燃焼熱量計を完成させており, この装置では基本的にその技術を転用しました. 操作性を重視する立場から,装置を大幅に簡略化しましたが,それでも海外の燃焼熱測定グループで使われているミクロ燃焼熱量計と同程度の性能を持っており,化学熱力学のための測定にも充分利用できます.
Fig. 1. Temperature variation of the micro-combustion calorimeter by
burning 28.2 mg of benzoic acid.
熱量計本体はアネロイド型で,真空容器に納められます. 測定中は,真空容器内の空気はロータリーポンプで排気され,対流による熱漏れを防ぎます. 燃焼熱の大きさは,燃焼容器を挿入するアルミ合金製のホルダーに埋め込まれたサーミスター(10 kΩ at 25 ℃)で,ホルダーの温度上昇として測ります. サーミスタの抵抗値はデジタルマルチメータで直接読みとられます. 読み取り精度は,温度目盛りに直して0.24 mKになります. 燃焼容器は,直径30 mm,容積20 cm3のステンレス製で,30気圧の高純度酸素を充填して試料を燃焼させます. 熱量計のエネルギー当量は約800 J/Kで,1 Kの温度上昇を与えるのに,安息香酸にして約30 mgを燃焼させることになります. この値はセンター既設の高精度ミクロ燃焼熱量計の10倍ですが,植物組織試料には適切な大きさとなっています.
測定の一例をFig. 1に示します. 試料として28.2 mgの安息香酸を燃焼させました. 測定開始後30分で,試料に点火します.燃焼熱によってホルダーの温度は速やかに上昇します. 点火後6分でホルダー内の温度は均一になり,その後温度は測定精度内で厳密にNewtonの冷却則に従って恒温槽の温度に向かって上昇し続けます. 温度ジャンプが無限に短い時間で達成されるとする理想的な断熱温度上昇への補正の大きさは,わずか20 mKです. 標準安息香酸による熱量計の校正実験(5回)の結果,熱量計のエネルギー当量の平均値と平均値の標準偏差はそれぞれ802.28 J/K,0.22 J/Kと決められました.
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