単分子磁石ネットワーク系の磁気特性

Energy Diagram of the Mn4 Cluster Fig. 1. Energy diagram of the Mn4 cluster complexes with S=9.

2D-network system consisting of single-molecule magnets Fig. 2. 2D-network system consisting of single-molecule magnets.

Low-temperature heat capacity Fig. 3. Heat capacity of (1)[Mn4(hmp)6{N(CN)2}2](ClO4)2, (2)[Mn4(hmp)4Br2(OMe)2{N(CN)2}2]·2THF·0.5H2O, (3)[Mn4(hmp)4(pdm)2{N(CN)2}2](ClO4)2·1.75H2O·2Me(CN).

CpT^-1 vs T plot Fig. 4. CpT–1 vs. T plot for [Mn4(hmp)4Br2(OMe)2{N(CN)2}2]·2THF·0.5H2O. The origin of the peak broadening is considered as the blocking of spin-reversal observed in single-molecule magnet.

最近,Mn12-acなどの多核錯体クラスターがそれ自身,ナノスケールの磁石になることが見いだされ,Mn, Ni, Fe, Vなどの遷移金属元素を含むクラスター単分子磁石の研究が活発に行われています. こうした物質では,クラスター内部の複数の金属原子が比較的強い磁気的相互作用で結合し,ナノサイズのクラスター内にS=9, 10などの大きなスピンが存在します. また,遷移金属原子の強い異方性を反映してクラスターのスピンにも大きな異方性が生じ,各クラスター上のスピンのエネルギー準位はFig. 1に示したように上向きと下向きスピンの準位が2重の井戸型のポテンシャルをつくるように形成され,Sz=+mからSz=–mにスピン反転するには大きなポテンシャルの山を越えなければなりません. DSz2と比べて十分に低い温度ではスピン反転が凍結されブロッキング現象が生じ,ナノ磁石特有の性質として期待がもたれています.

一方で,こうしたクラスター間に磁気的な相互作用をもたせれば,ネットワーク磁性体として新しい側面も見えてくる可能性があります. 最近,4核のMn錯体のうちでMn2+(S=5/2)とMn3+(S=2)が強磁性的に結合しS=9のスピンをもつ単分子磁石クラスターを{N(CN)2}配位子を使って鎖状に接合したもの,もしくは2次元的,3次元的に配列させたネットワーク磁性体をつくる合成技術が開発されました. 置換基や結合の角度を変え,ユニット間の磁気的な相互作用を変えることで,熱的な側面からも期待がもたれています. 私達は,Fig. 2に示したような2次元の単分子磁石ネットワーク磁性体の単結晶試料による熱容量測定を行いました.

Fig. 3には,Mn4クラスターネットワーク物質(1)[Mn4(hmp)6{N(CN)2}2](ClO4)2, (2)Mn4(hmp)4Br2(OMe)2{N(CN)2}2]·2THF·0.5H2O, (3)[Mn4(hmp)4(pdm)2{N(CN)2}2](ClO4)2·1.75H2O·2Me(CN)の熱容量を示しています. この3つの物質は(1)→(3)に従って,クラスター間の磁気的相互作用が弱くなることが知られています. 磁気的相互作用が比較的強い(1)の物質では,ユニットである磁気クラスター間での反強磁性的な長距離秩序が4.2 Kという比較的高い温度で形成されています. ボーア磁子μBの15倍の磁気モーメントがこの温度で反強磁性方向に揃うという劇的な相転移が生じます. 磁気相互作用が少し弱い(2)の試料では転移温度が2.1 Kに低下していますが,同様に秩序形成がおこります. ただしこの場合にはピークが非常にブロードになっています. (3)では1 K付近からCpT–1が上昇し始めるのでさらに低温にシフトしていると考えられます. 多くの磁性体では磁気相関がショートレンジに発生し,温度低下とともに徐々に発達し相転移に至ります.一方,このネットワーク系物質ではクラスター内の巨大スピンが隣のクラスターとの磁気的相互作用によって反強磁性的に揃おうとしますが,磁気相関が発展していくはずの低温で逆にスピンの反転が起こりにくくなり,相関の発展が阻害される傾向が現れます. 特に(2),(3)の試料では相転移に関与するエネルギーレベルがSz=±9だけになり,ユニット上でのスピン反転の障害が大きくなると思われます. このことは,交流磁化率に顕著な周波数依存性が現れ,秩序形成でありながら非常にゆっくりとしたダイナミックスを伴う現象が起きていると考えられます. Fig. 4は(2)の熱容量の磁場依存性を示しています. ゼロ磁場下で,ほぼRln2のエントロピーをもちますが,図のように非常にブロードになってしまいます. 単分子磁石のスピン反転の阻害が磁気相関の発展を抑え,バルクの均一系でありながら微粒子,ナノクラスターのような本質的に幅の広いピークになっていると思われます.

(中澤康浩,藤崎達矢)

発 表

藤崎達矢,中澤康浩,中田一弥,宮坂等,山下正廣,小國正晴,第41回熱測定討論会(福岡)1B1550 (2005).
藤崎達矢,中澤康浩,中田一弥,宮坂等,山下正廣,小國正晴,分子構造討論会2005 (東京)1P009 (2005).

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