第40回IUPAC会議で招待講演

第40回IUPAC会議(40th IUPAC Congress)が,2005年8月14日から19日までの日程で北京の国際会議センターで開催された. これを含む日程で(13日〜21日)43rd IUPAC General Assemblyも同じ場所で開催された. 2008年夏に開催予定のオリンピックの会場近くである. 参加者が1500名に及ぶ巨大な国際会議であった. 今回は「Innovation in Chemistry」としてプログラムが編成され,全体会議の他に以下の8つの分科会が設けられた. 1) Environmental Chemistry and Green Chemistry, 2) Chemistry in the Life Sciences and Chemical Biology, 3) Materials Chemistry, Supermolecular Chemistry, and Nanochemistry, 4) Information Technology in Chemistry and Computational Chemistry, 5) Innovation in Physical Chemistry and Biophysical Chemistry – Research Methods and Techniques –, 6) Innovation in Methodology, Techniques, and Instrumentation in Analytical Chemistry, 7) Innovation in Chemical Education and Teaching Methods, 8) Innovation in the Chemical and Petrochemical Industries and “Responsible Care” for Society.

全体講演として合計9件が予定され(内1件はキャンセル),ノーベル賞受賞者であるHeeger教授(2000年受賞),Wuthrich教授(2002年受賞),Lipscomb教授(1976年受賞)などによる講演を拝聴することができた. 日本からは藤嶋昭教授(神奈川科学技術アカデミー)が講演された. また,それぞれの分科で招待講演が各数件ずつあり,これに一般講演とポスター発表が加わったのであるから,膨大な研究発表が行われたことになる. とにかく化学全体の集まりであるから,カバーする領域はとんでもなく広く,それぞれの講演の細部を理解するのは不可能に近い. そんな中,参加者と話していると,自らは特に発表しないが何かよいアイデアはないかと会議に参加したという人が意外に多いことに気づいた. 特に,すでに中国に進出している企業やこれから進出予定の企業からの研究者が,何か突破口を開くために研究手法や研究テーマを模索し参加している例が多いように思えた. このように広い領域をカバーする会議を利用する一つの仕方として,賢明なやり方かもしれない.

レセプションや全体講演はメインホールで行われた. 2日目夕刻には,エンターテインメントとして京劇やアクロバット,種々の演奏などもここで行われた. 余裕をもって数百人を収容できる会場があるのは何ともすばらしい. いまの中国ならではの活気を感じさせた. 日本からの参加者はリストで見る限り20名近くいたようであるが,会議の規模があまりに大きいためか顔を合わせたのは数名であった. また,規模の大きな会議にありがちなプログラムの変更やキャンセルが特に後半に多く,残念であった.

8月の北京の天候は大阪とほとんど変わらず,最高気温は35 ℃に及び,しかも湿度は非常に高かった. また,毎日のように雷雨に見舞われるなど,戸外は必ずしも快適ではなかった. まして,戦後60周年記念として日本に風当たりの強い雰囲気は,われわれを心細くさせた. また,会議では経済的な事情によって,参加登録から宿泊,食事まで様々な局面で国内参加と外国参加の二重標準が採用された. 物価と収入の水準が違うから仕方のないことかもしれない. 一方,かなり洗練された学生アルバイトが大勢動員され,うまく運営されていると感じた.

筆者は,セッション5で「Structure and Phase Behavior of 2-D Solids Formed at Interfaces」と題する招待講演を行う機会を得た. 実質的にプログラム編成に携わった精華大学のZhiwu Yu教授の推薦があったようである. この講演は,同じ題目の招待論文としてIUPACの論文誌Pure and Applied Chemistryに掲載され, 来春に発行される予定である.

会議でとりわけ目立ったのは,中国の若い研究者が特に活発に発表していたことで,彼らは欧米(あるいは日本)に留学した後に本国に戻り,比較的若くしてポストを得た人達であった. 有名大学ではポストの空きが少ないためか,それ以外の大学で世代交代が急激に進んでいる様子も窺えた. 個人的には,これまで会う機会のなかったAtkins教授に初めて会えた.彼はセッション7で招待講演を行い,優秀な学生が化学を敬遠するのは世界的な現象との認識で,危機感をもって化学教育の手法を議論していた. 熱関係ではDella Gatta教授にも会えた.次回の第41回IUPAC Congressは,2007年にイタリアのトリノで開催されるが,その世話人の一人である. 本センターに2度にわたり滞在する経験をもつTan教授(写真)とも再会を果たした.

なお,会期中に開催されたカウンシル会議において,早稲田大学の松本和子教授が次期Vice President に選出された. その任期は2006年1月からの2年間で,その後の2年間はPresidentを務める. 1919年のIUPAC設立以来,女性研究者がPresidentに就任するのは初めてで,日本からの選出も初めてであるから大変な快挙である.

(稲葉章)

Report 3

The former visiting professor Zhi-cheng Tan (right) attended the 40th IUPAC Congress.

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