1次元電荷秩序絶縁体での磁気相転移

Molecular Structure of DI-DCNQI Fig. 1. Molecular structure of DI-DCNQI (2,5-diiode-N,N'-dicyanoquinonediimine). In (DI-DCNQI)2Ag crystal, DI-DCNQI molecules they stack along the c-axis and form a 1D-column structure in this direction. The 1/4-filled LUMO band is established due to the electron transfer along this direction.


C_pT^-3 plot for (D2-DCNQI)2Ag salt: magnetic field applied
perpendicular to c-axis Fig. 2. Temperature dependence of CpT–3 of (DI-DCNQI)2Ag salt. The magnetic fields are applied perpendicular to the stacking direction. The peak temperature shift slightly to the upward direction with increasing magnetic fields, but the transition itself survives if we apply large magnetic fields of 8 T.


C_pT^-3 plot for (D2-DCNQI)2Ag salt: magnetic field applied parallel
to c-axis Fig. 3. Temperature dependence of CpT–3 of (DI-DCNQI)2Ag with the external fields applied parallel to the c-axis. The spin-flop fields are observed near 2 T, which is consistent with the results of other experiments such as EPR and NMR.

ドナー,アクセプターもしくはそれぞれの対イオンから形成される電荷移動塩では分子の形状によって積層する方向に固有の特徴ができ,1次元,2次元などの低次元構造を形成します. このような系では電子の運動や相互作用の異方性を反映した様々な物性が現れ,通常の3次元系とは異なった新しい性質を発現する可能性があります. 私たちは代表的なアクセプター分子である(DI-DCNQI)と一価の金属カチオンがつくる電荷移動塩に注目して研究を行っております. この分子は Fig. 1に示したような構造をもち平面的な分子が1次元的に積層し鎖状の構造をもちます. 金属カチオンとして+1価であるAgを用いると2:1の塩ができ,DI-DCNQIのLUMOに電子が0.5個入った電子構造になります. 1次元的に配列したDI-DCNQI間のトランスファーによってバンド状態が安定し,金属状態が期待されます. しかし,室温付近では比較的電気伝導があるにも関わらず低温領域では絶縁化してしまいます. 0.5個電子が入っているという状態は電子バンドで考えると1/4フィリングということになりますが,この状態で電子間でのクーロン反発効果が効いてくるとこの反発エネルギーが電子バンドの形成によって獲得するエネルギーにうち勝って絶縁化してしまいます. 特に1/4フィリングの場合,隣接する分子上の電子間に働くクーロン力Vが大きく効き,絶縁体状態になると1次元方向に電荷の濃淡が生じた電荷秩序状態が形成されます. この物質では,実際そのような電荷秩序が220 K付近で形成され隣接分子での電荷密度の比が0.8:0.2くらいの振幅をもつCDW状態になるといわれています.

こうした場合に,電荷が密に存在する分子サイト上でのスピンがどのように振舞うか,その基底状態でのスピン秩序はどうなっているか,相互作用の起源は何か,など興味がもたれます. 実際この系では6 K付近に磁気的な秩序形成が起こるという実験結果が報告されています. 私達は,以前この物質の熱測定を試みましたが,特に顕著な熱異常は見出せませんでした.測定を高精度化し,より良質な結晶を使って測定してみると,Fig. 2に示したように磁気相転移と思われる熱異常が観測されました. ピークのエントロピーは短距離秩序を与えるJ/kB=–250 Kの1次元的な相互作用とTNの大きさを比較して考えた場合よりもずっと小さく,(研究紹介5)のところで紹介されたMott絶縁体の場合と同様に量子的なゆらぎの効果が強く現れているものと考えられます. 磁場を印加していってもその依存性は非常に小さいですが,鎖方向に垂直方向と平行方向に磁場を入れた場合で熱容量ピークの振る舞いは少し変わります. 垂直方向に配置した場合,ピーク温度は僅かに高温領域に動きますが,平行の配置ではFig. 3に示したように初め弱磁場領域で僅かにピーク温度が下がった後,2 Tくらいから上昇し始めます. 2 Tの少し下でスピンフロップが起こっていることが示唆され磁気容易軸は積層方向に向いていると考えられます. これは,EPRやNMR測定などから報告されている値とほぼ対応しています. 3He冷凍機を用いて極低温領域まで測定をしていくと,磁気秩序を示した状態でも極低温に温度に比例する項が存在し,磁場の印加とともにそれが減少していくように見えます. この結果も,電荷秩序が形成されたもとでのスピンの振る舞いが通常の低次元的な磁性体とは異なっている可能性を示しております. 電荷秩序状態周辺を詳しく調べながら,カチオンサイトの置換効果などを利用して電荷秩序を抑制し,磁気特性がどのように変化していくかを系統だって調べたいと思っています.

低次元分子性導体を舞台にした強相関効果による電荷秩序形成の問題には,熱的にもスピン,電荷,格子の三つの自由度が絡んだ非常に多様な現象が現れてきます. 特に同じ強相関系の中でもMott絶縁体状態を形成する系と比較すると,格子との結合が極めて強くなる可能性があります. 電荷秩序状態の極低温での熱励起には格子振動とのカップリングが重要になってくるように思います. 他の2次元系,3次元系化合物と比較しながら,今後の熱測定を進めて行きたいと思います.

(中澤康浩,大熊一貴)

発 表

K. Okuma, Y. Nakazawa, K. Hiraki, T. Takahashi, M. Oguni, ISMC 2005(湘南)B16.

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