Fig. 1. [MnIIFeIII(ox)3]– network structure.
Fig. 2. Heat capacities of NPe4[MnIIFeIII(ox)3] over the whole temperature region (a) and at low
temperatures (b). Antiferromagnetic and structural phase transitions
were observed at TN=27.1 K and Ttrs=226 K, respecitively.
Fig. 3. Excess heat capacities at low (a) and high (b) temperatures.
Excess heat capacities below TN=27.1 K are proportional to T3
(solid curve), indicating three-dimensional antiferromagnet below
TN.
Excess heat capacities above TN are well represented by
high-temperature expansion of S=5/2 two-dimensional
antiferromagnetic Heisenberg model of a honeycomb lattice with an
intralayer exchange interaction J/kB=–3.3 K
(broken curve).
無機化合物の元素の多様性と有機化合物の優れた分子性・設計性の両方を兼ね備える金属錯体をさらに高次に集積されて作られる,いわゆる「集積型金属錯体」は,通常の金属錯体のみでは発現しないような特異な空間構造・電子構造を生み出す可能性を秘めているため,近年盛んに合成・研究されています. その中でA[M1IIM2III(ox)3](A: 1価の陽イオン, M1II, M2III: 2および3価の遷移金属イオン, ox2–: シュウ酸イオン)の型の集積型金属錯体は,高い強磁性相転移温度を示す錯体として九州大学の大川尚士教授によって初めて合成されました((H. Tamaki et al., J. Am. Chem. Soc. 114, 6974 (1992)). 最近では負の磁化やスピングラス的挙動などの興味深い現象を示すものも発見されています.
標題の集積型金属錯体NPe4[MnIIFeIII(ox)3](Pe=n-C5H11)はFig. 1に示すように,MnIIイオン(スピン量子数 S = 5/2)とFeIIIイオン(S = 5/2)がシュウ酸イオン配位子を介して2次元ハニカム格子を形成し,それらの2次元層間にNPe4+イオンが入り込んでいる構造をしています. 磁気測定が行われており,反強磁性相転移がTN = 27 Kに見出されています. 55 K付近に2次元磁性体に特有な磁化率のブロードな山が観測され,それより高温ではキュリー・ワイス則(キュリー・ワイス定数 θ=–124 K)に従う温度依存性を示します. また,興味深いことに,TNより低温ではスピンの磁気モーメントが完全に打ち消し合わないことによる磁化率の急激な立ち上がりが生じます. 今回は熱容量測定結果について紹介します.
熱容量測定は 1.4377 mgのペレット試料をQuantum Design社製の緩和型熱量計を用いて行いました. Fig. 2に熱容量を示します. 27.1 Kに反強磁性相転移によるブロードな熱異常が見られます. また,226 Kには別の相転移による熱容量ピークが観測されました. これらの熱異常を取り出すため,正常熱容量を Fig. 2中の実線に示すように決定し,過剰熱容量を計算しました(Fig. 3). 27.1 Kの反強磁性相転移の高温側で低次元磁性体に特有なスピンの短距離秩序による熱容量の裾が顕著に見られます. また,興味深いことに,反強磁性相転移温度以下の23 K付近に熱容量のこぶが見出されました. これらの相転移の転移エンタルピー・エントロピーを求めたところ,27.1 Kの磁気相転移による転移エンタルピー・エントロピーはそれぞれ,ΔH=1.11 kJ mol–1,ΔS=33.2 J K–1 mol–1, 226 Kの相転移による転移エンタルピー・エントロピーはそれぞれ, ΔH=2.90 kJ mol–1, ΔS=13.1 J K–1 mol–1となりました.
27.1 Kの磁気相転移による転移エントロピーの値はS=5/2のMnIIイオンとFeIIIイオンのスピンの秩序化によるエントロピー変化の予想値Rln(6×6)=29.8 J K–1 mol–1とほぼ一致しました. さらに,磁気相転移温度の高温側の磁気熱容量をS=5/2のハイゼンベルグモデルの高温展開に合わせてみたところ,面内交換相互作用J/kB=–3.3 Kの2次元ハニカム格子(kBはボルツマン定数)とよく合いました(Fig. 3(a) 中の破線). また,磁気相転移温度の低温側はT3に比例していることがわかりました(Fig. 3(a) 中の実線). このことは磁気相転移温度以下で3次元反強磁性体であることを如実に示しています. 23 K付近の磁気熱容量のこぶの起源については今のところよくわかっていませんが,磁気測定から見出された磁気相転移温度以下でスピンの磁気モーメントが完全に打ち消し合わないという事実に関係しているように思われます.
226 Kの相転移は,転移エントロピーの大きさから,秩序−無秩序型の構造相転移であると考えられます. 他のいくつかの類似化合物でも似たような相転移温度・転移エントロピーが観測されたことから,この相転移は NPe4+イオン中のアルキル基のコンフォメーション変化の秩序化によるものでしょう.
A. Bhattacharjee, Y. Miyazaki, and M. Sorai, J. Magn. Magn. Mater. 280, 1 (2004).
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