有機超伝導体でみられる残留状態密度に関する諸問題

Conceptual Phase Diagram of Electronic States Fig. 1. The conceptual phase diagram of electronic states of dimerized (BEDT-TTF)2X salt. The horizontal axis corresponding to the pressure, which effectively controls the U/W ratio. The behavior of the low-temperature heat-capacity coefficient (γ and γ*)of κ-(BEDT-TTF)2X type organic superconductors is also shown with the phase diagram. The increase of γ/γ* ratio at the metallic region demonstrates that normal electrons are coexisting in the superconducting phase.

Electronic Heat Capacity Fig. 2. The electronic heat capacity of κ-(BEDT-TTF)2X salts. The horizontal axis is divided by Tc. The shape of the CpT–1 peak is different between 10 K class salts and 4-5 K class salts.

研究紹介5で紹介されたようにBEDT-TTF分子からなる一連の有機電荷移動塩は,数多くの金属や興味ある絶縁体状態を示します. その中でもκ型という構造をもつ塩は,構成するドナー分子であるBEDT-TTFが強いダイマー性をもって2次元的に配列します. ダイマーを1ユニットと考えた場合のユニット上のU/Wの値を圧力によって制御することにより絶縁体と強相関金属との間を変化します. 強相関効果に由来するオンサイトクーロンUとバンド形成による安定化エネルギーWの競合によっていわゆるMott転移が生じると考えられています.

Mott転移近傍にある強相関金属状態にある超伝導相の内部では,正常状態電子熱容量係数など基本的な熱力学的な物性パラメタ−が大きく変化する可能性があります. 超伝導発現のミクロな機構と関係した“2次元強相関電子系での対形成機構”と,金属性を安定化させようとする“Fermi流体性の安定化の機構”などが競合しているためであり超伝導機構の解明に関係した基礎物性の問題として興味がもたれています.

私達は,代表的なκ-型2:1を中心に超伝導転移付近での熱容量の跳びやピークの形状,さらには磁場印加により超伝導を壊した場合に得られる電子状態密度に比例したγ項,また超伝導になりながらもその状態中に残る正常状態での電子の状態密度に比例するγ*項の振る舞いを系統的に調べでみました. 取り上げた試料は,BEDT-TTF分子を部分重水素化したドナーとCu[N(CN)2]Brとの塩,BEDT-TTFとBEDSe-TTFを混晶化したCu[N(CN)2]Brとの塩,κ-(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2塩,κ-(BEDT-TTF)2Ag(CN)2H2O塩,κ-(MDT-TTF)2AuI2塩などであります. BEDT-TTFの部分重水素化により,超伝導相の高いTcをもつ状態から絶縁体相へ変化する過程を化学圧力の変化として連続的に見ることができます. 一方,BEDSe-TTFとの混晶化することによって,2次元伝導面内の実効的なUを下げる方向に超伝導相内を変化させることができ,無置換の(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Br塩からBEDSe-TTFの添加とともに少なくとも低組成の置換では,金属を安定化する方向にずれると考えられます. Fig. 1の黒線で示したMott境界より左側にある超伝導相の中で,各物質は点線で示したような位置にあると考えることができます. ただし,BEDSe-TTFの置換については,乱れの効果や次元性の変化による別のファクターも同時に変化してしまう可能性も残っています. Fig. 1の電子状態図の下に示したのは,これらの塩での転移点近傍の熱容量の振る舞いと,γγ*の様子をU/Wの関数としてプロットしたものです. 図の黒い太線がMott境界であり,この線の左側が超伝導になる物質群が位置するところです. Tcが10 K級の場合と,4-5 K程度の場合でそのかたちが大きく変わっているのがわかります. また,全体の電子状態密度と超伝導中状態中に残る電子の状態密度の比に相当する低温のγ*γ–1を見てみると,Tcの低下とともにその比が徐々に大きくなってきます. BEDTSeに よる置換効果によるその比の増大は顕著ですが,先に述べた乱れの効果などがあり残留γ*が,付加的な要因で大きくなっていると思われます. しかしながら,構造的な乱れは全くない2:1の組成をもつ塩であるκ-(BEDT-TTF)2Ag(CN)2H2O,κ-(MDT-TTF)2AuI2などの結果と併せて考えても,Mott境界から離れるに従って,正常電子の成分が増大していく傾向は確かなようです. このことはこの超伝導相の中では,Fermi流体性と強相関の超伝導が本質的に競合し,同一相内で2流体的になっていることが示唆されます. Tcは落ちているとはいえ,磁化測定などからはバルクとしての性質が見えていることは間違いなく,超伝導の安定性の問題として非常に興味深い現象です. また酸化物超伝導などの強相関超伝導は,必ずこうした残留γ*を残し,その起源が長く議論の対象であることも同じ問題ではないかと考えられます.

また,Fig. 2には超伝導転移付近での電子熱容量の温度依存性を示してあります. 10 K級の超伝導を示す塩は,比較的シャープな大きなピークを示しますが,4-5 K級の超伝導になってくると熱容量の温度依存性が変わってきているように見えます. Tcの低下とともに正常電子の割合が増え,超伝導が壊されていることと合わせて興味深い結果です.

(中澤康浩)

発 表

Y. Nakazawa, T. Ishikawa, A. Kawamoto, M. Oguni, ISMC 2005(湘南)A23.

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