P型正20面体準結晶Zn-Mg-Hoの6次元電子密度

2D cut of 6D electron densities containing a 5-fold axis Fig. 1. 2D cut of reconstructed 6D electron densities containing a five-fold axis in both the physical (r) and complementary (r) space directions. The inner rectangle with thick lines indicates the unit cell. The V: (0,0,0,0,0,0), B:(1,1,1,1,1,1)/2, and E(1,0,0,0,0,0)/2 indicate the special points in the unit cell. Successive icosahedral shells can be found from the positions indicated by the letters inside circles (a), (b), (c).

2D cut of 6D electron densities containing a 3-fold axis Fig. 2. 2D cut of reconstructed 6D electron densities containing a threefold axis in both the physical (r) and complementary (r) space directions. Successive dodecahedral shells can be found from the positions indicated by the letters inside circles (d), (e). The meaning of the other symbols is the same as in Fig. 1.

Successive Atom Shells Fig. 3. Successive atom shells in ascending order that found by the analysis of the reconstructed 6D electron densities of the p-Zn-Mg-Ho. Atom species and atom numbers forming each atom shell together with the radius of the shell are given underneath each shell.

原子の準周期的な配列の結果として,古典的な結晶学では許されない5,8,10,12回対称などの回折パターンを示す準結晶のような物質が実際に存在しうることは自然の不思議です. われわれは,準結晶の構造安定化の起源に迫りたいと考え,その詳細な原子構造と熱的性質を研究しています.

ここで紹介するP型正20面体準結晶Zn-Mg-Ho(p-Zn-Mg-Ho)は,2002年に発見された一連の良質な準結晶のひとつです. Ho原子の4f電子による局在磁気モーメントを構造中に含むため,構造だけでなく磁性の観点からも興味がもたれています. P型正20面体準結晶は,通常の結晶におけるprimitive格子と同様に,回折図形が格子による消滅則を示しません. ここでは異なる組成比をもち,結晶でのfccに対応する消滅則を示すF型と区別するために,P型と記します. 正20面体準結晶は,回折図形が6次元立方格子の逆格子と一対一対応することから,6次元結晶と考えることができます. この6次元結晶構造を決定することができれば,その3次元物理空間での断面を考えることにより,準周期な原子配列をもつ準結晶の構造を得ることができます.

今回p-Zn-Mg-Hoの6次元結晶構造解析のための回折強度データー収集をSPring-8 BL02B2に設置されているイメージングプレート・ワイセンベルクカメラを用いて室温にて行いました. 6次元結晶構造の精密化には,通常の結晶同様なんらかの初期構造モデルが必要です. すなわち,位相問題を解決する必要があります. この目的のために実空間直接法の一種である低密度消去法を適用しました. これにより,p-Zn-Mg-Hoの6次元結晶の電子密度分布を回折強度データーから直接得ることができます. 電子密度分布を解析することにより,6次元結晶構造モデルを構築するのに重要な,占有領域(occupation domain,以下ODと略す)の6次元単位胞内での配置,大きさ,形,および原子種の分布についての情報を得ることができます. ここでODは,通常の結晶における原子に対応するもので,3次元物理空間に対する直交補空間(3次元空間)方向に広がっています.

Fig. 1およびFig. 2に,得られた6次元電子密度分布の2次元断面を示しました. 単位胞の特殊点V:(0,0,0,0,0,0),B:(1,1,1,1,1,1)/2およびE:(1,0,0,0,0,0)/2を中心に,ODに対応した電子密度が直交補空間方向(r)に伸びていることがわかります. p-Zn-Mg-Hoを特徴づける正20面体対称の原子クラスター(正20面体クラスター)構造は,Vを通る断面を考えることにより知ることができます. 例えば,Fig. 1の5回対称軸を含む断面からは,原子によるicosahedronの形をしたshell構造の存在がわかります. また,Fig. 2の3回対称軸を含む断面からはdodecahedronの形をしたshell構造の存在がわかります. さらに,B点にあるODの大きな電子密度は原子番号の大きいHo原子がこのODに含まれること,そしてそれは直交補空間内の3回対称軸方向に集中していること,などがわかります. このようにして6次元電子密度分布を解析することにより,Fig. 3に示したようなBergmanタイプの正20面体クラスターがp-Zn-Mg-Hoの構造中に含まれることが,曖昧さ無しに導かれます.

これまで,準結晶と局所構造が類似していると考えられる、近似結晶中に見られる正20面体クラスターに基づいて準結晶の構造タイプが分類されてきました. しかし,p-Zn-Mg-Hoでは対応する近似結晶が見つかっておらず,その構造タイプは推測の域を出ませんでした. 今回の結果によりp-Zn-Mg-HoはBergmanタイプの正20面体クラスターからなる準結晶であることが確定しました. 現在,この6次元電子密度分布にもとづいたp-Zn-Mg-Ho準結晶の構造モデル構築とその精密化に取り組んでいます.

(高倉洋礼)

発 表

H. Takakura, A. Yamamoto, T. J. Sato, A. P. Tsai, Y. Ozawa, N. Yasuda, K. Toriumi, Phil. Mag. (2005), in press.

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