Fig. 1. Molar heat capacity of CuCrP2S6.
Table 1. Phase transition temperature, enthalpy and entropy obtained
for CuCrP2S6.
Fig. 2. The entropy of the magnetic phase transition of CuCrP2S6.
P2S64–やP2Se64–などの4価のアニオン1個とSn2+などの2価のカチオン2個からなるイオン結晶,SnP2S6およびSnP2Se6は強誘電性を示すことがわかっています. ラマンスペクトルの測定によってソフトモードが見いだされたため,これらはいずれも変位型の強誘電体であるといわれてきました. ところが熱容量測定を行った結果,秩序−無秩序型の相転移を示す強誘電体であることが分かったのでした(K. Moriya and T. Matsuo et al., J. Phys. Soc. Jpn., 67, 3505 (1998)).
一方,カチオンを1価と3価の組み合わせにした結晶でも,結晶構造は異なるのですが誘電的に多様な振る舞いをするという性質は持ち続けることが分かっています. そこで,1価のカチオンとしてCu+,3価のカチオンとしてCr3+とした標題のイオン結晶について熱容量を測定しました. この場合Cr3+のスピンは3/2で,誘電的な相転移に加えて磁気モーメントの整列が関与する磁気転移の存在が予測されます. 実際にCuCrP2S6結晶は磁気転移と誘電転移を併せもつため,そのメカニズムをエントロピーの観点から考察するのは大変興味深いことです. 結果の概略は昨年の本レポート(No.25,研究紹介8)でも紹介しましたが,その後,構造との関連で詳しい解析を行ったのでここに記します.
まず,熱容量測定の結果をFig. 1およびTable 1にまとめておきます. 高温側の2つの転移のエントロピー変化は,併せると8.85 J K–1 mol–1になります. 現時点で分かっている構造的な知見によれば,銅イオン1個に対して2つのサイトがあり,高温相における乱れがそれによるものとすれば予想されるエントロピー変化は5.76 J K–1 mol–1となりますが,実測値はこれより遥かに大きいことが分かりました. 構造解析で予想される乱れより,もっと高度な無秩序構造が実現しているものと思われます. また熱容量の形はSnP2Se6の場合とよく似ており,高温側に二次のインコメンシュレート−常誘電,低温側に一次のコメンシュレート−インコメンシュレート転移の存在を示唆します. さらに不思議なことに,30.95 Kの磁気転移についても,Cr3+のスピンの整列により予想されるエントロピーRln4(=11.5 J K–1 mol–1)よりかなり小さなエントロピー変化(4.1 J K–1 mol–1)しか観測されませんでした. イジングモデルの平均場の解を用いた別のベースラインの見積もりによる磁気転移のエントロピーは4.85 J K–1 mol–1であり,やはりRln4よりかなり小さな値を示します(Fig. 2). この結果は,エントロピーの見積もりの確かさを示唆しますが,CuCrP2S6の反強磁性−常磁性転移における転移エントロピーの小さな理由は今のところわからず,今後の詳しい検討が必要になります.
本研究で用いた試料はウクライナのウズゴロド大学のYurian M. Vysochanskii教授より提供されたものです.
K. Moriya, N. Kariya, A. Inaba, T. Matsuo, I. Pritz and Y. M.Vysochanskii, Solid State Commun. 136, 173-176 (2005).
Copyright © Research Center for Structural Thermodynamics, Graduate School of Science, Osaka University. All rights reserved.