1次元に配列した酸素が秩序過程で凍結
−酸化物超伝導体YBa2Cu3Oxにおけるガラス転移−

Crystal Structure Fig. 1. Schematic structure of YBa2Cu3O7.

THermal Expansion Fig. 2. Thermal expansion of YBa2Cu3O6.95.

Heat Capacity Fig. 3. Heat capacity of YBa2Cu3O6.7 (sample 1).

Difference Plot of Heat Capacity Fig. 4. A difference plot of Cp/T against T for YBa2Cu3O6.7 (sample 1).

代表的で有名な酸化物高温超伝導体YBa2Cu3O7はFig. 1の構造をもち,その超伝導転移点は93 Kです. この結晶は,温度と酸素圧を調節することで熱処理により酸素含有量をある範囲で制御することができ,一般にYBa2Cu3Oxで表せる結晶が作成できます. 実際,超伝導体としての性質はxに強く依存することが分かっており,特に超伝導の性質変化が著しい領域6.3<x<6.7に注目した研究が多数行われてきました. 構造面からは,CuO鎖が形成されているab面内での酸素の秩序化が超伝導に強く影響するものと考えられています.

ところで本研究では超伝導よりむしろ酸素に注目し,その秩序化に興味をもち6.7<x<7.0の組成域に注目しました. すでに,x=6.95の単結晶について高分解能で線膨張率が測定されており(Fig. 2),x=7.0では見られない酸素の秩序化に伴う大きな熱膨張率変化が(変化は特にb軸方向で大きい)室温付近で観測されています(P. Nagel, et al., Phys. Rev. Lett. 85, 2376(2000)). 今回は熱容量測定によりこれを調べました.

融液から作成した起源の異なる2種類の結晶(1, 2)について,それぞれ熱処理を行うことによりx=6.7, 7.0の試料を作成しました. 前者の処理条件は(500 ℃,13 mbar),後者の処理条件は(450 ℃,327 bar)でした. このような条件(レシピ)は,すでに詳細に調べられ確立しています. 実際には試料の均質化のため,それぞれの条件下でいずれの試料も1週間アニールしました. また,結晶2については,x=6.9の試料も作成しました. 以上の5試料について5 K〜400 Kの温度域で断熱型熱容量計を用いて熱容量測定を行いました. また,元の結晶には不純物としてY2BaCuO5が共存しているので(この物質は上の処理に無関係で,組成は化学量論的),その寄与を見積もるためにY2BaCuO5の粉末結晶についても同じ温度域で熱容量測定を行いました. ここで,x=7.0の試料の役目の第一は,酸素の秩序化を示さないバックグラウンドを与えることにあります. また第二の役目は,酸素含有量を変化させても磁性不純物は変化しないため,これを差し引くためのバックグラウンドとなります. x=6.7, 6.9では酸素含有量の違いによる秩序化の違いを期待しました.

代表的な熱容量の結果(結晶1,x=6.7)をFig. 3に示します. このグラフでは明確でないのですが,バックグラウンドとしてフォノンの寄与の計算値を差し引いたところ3種の異常が観測されました(Fig. 4,Cp/T vs. Tプロット).

  1. 超伝導転移(63 K)
  2. ガラス転移(320 K)
  3. Y2BaCuO5による磁気励起

ここで観測されたガラス転移は,アニール効果などの熱的な挙動を見る限り,通常のガラス転移と変わりないものであり,観測された熱膨張率の異常もガラス転移によるものであることが分かりました.

一連の測定の結果,1)結晶1は結晶2に比べ磁性不純物Y2BaCuO5を多量に含むこと,2)高圧で処理した試料(x=7.0)で,ごく微量であるがバルク酸素によると思われる熱異常が観測され,酸素導入処理により結晶が幾分多孔質となり,酸素が一部これに閉じ込められたと思われること,3)x=6.9の試料のガラス転移温度は,x=6.7よりも低いことが分かりました. ガラス転移で観測された熱容量のステップを,酸素原子の1次元的秩序化によって定量的に説明する試みを行っています.

本研究は,ドイツのカールスルーエ固体物理学研究所のマインガスト博士との共同研究です.

(稲葉章)

発 表

稲葉章,Christoph Meingast,第41回熱測定討論会(福岡)3C1310 (2005).

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