液晶物質5*CBの多形とガラス転移

Molecular Structure of 5*CB and 5CB Fig. 1. Molecular structure of 5*CB and 5CB.

Gibbs Energy for 5*CB Fig. 2. Schematic diagram of Gibbs energy for 5*CB.

Heat Capacity of 5*CB Fig. 3. Heat capacity of 5*CB. The ordinate is for the stable solid phase. The results for the other two phases are successively shifted upward by 100 J K–1 mol–1.

Cp/T vs. T plot Fig. 4. Cp/T plot of three phases of 5*CB.

5*CB [(S)-4-(2-methylbutyl)-4′-cyanobiphenyl]は,コレステリック相(Ch相)を示す液晶物質のひとつです. ネマチック相で液晶画面に使われる5CB(4-pentyl-4-cyanobiphenyl)との違いは,アルキル基が枝分かれしていてキラルなところです(Fig. 1). 5*CBについてはすでに,100 K以上での断熱型熱量計による熱容量測定とDSC測定が行われ,その多形が調べられています. また,赤外スペクトルの測定や中性子散乱実験も行われています. 今回は測定温度域を極低温まで拡げ,5 K〜330 Kで熱容量測定を行うことにより相挙動を詳細に調べ,各相の熱力学諸関数の決定を目指しました.

最終的に得られた5*CBの相関係をギブスエネルギーの概略図でFig. 2に示します. 結晶としては安定相の他に準安定相があります. また,等方液体を冷却すると容易に過冷却しガラス状態が得られます. これはCh相のガラス(Tg = 210.5 K)であり,実際,昇温することにより準安定なCh相が得られます. ところが,230 K付近では準安定結晶の核生成が起こり,それ以上の温度では結晶化が始まるために,Ch相→過冷却液体への転移は正確に観測されていませんでした. 今回は,何回かのランでこの転移の全容を捉えることができました(Fig. 3). その転移温度は246.6 K,転移エンタルピーはかなり小さい(300 J/mol)ことが分かりました.

このように,準安定結晶はCh相→過冷却液体の過程で(恐らく液体から結晶化して)生成するのですが,一方で,これを完全に結晶化させるには何日もかかることが分かりました. また,準安定結晶には100 K付近に小さくてブロードな熱異常があることも分かりました. それを明確に示すため,T に対してCp/T をプロットしたグラフをFig. 4に示します. 安定結晶やガラスの熱容量の振る舞いと比較しても,準安定結晶に熱異常があることは明らかです. これまで見いだされなかった相転移だと思われます. 可能なベースライン(正常熱容量)を何通りか試しましたが,転移エンタルピーは約90 J/molのようです. この転移のメカニズムが興味深いところです.

Fig. 4には,もうひとつ興味深い事実が示されています. それは,極低温では準安定結晶の熱容量が最も小さく,ガラスと安定結晶の熱容量が互いに近いということです. 中性子散乱実験により,ガラスには低エネルギー励起が存在することが分かっていて,その状態密度の違いから余分の熱容量寄与が期待できます. しかし,安定結晶の熱容量を準安定結晶より大きくしているのには密度や構造が関与していると考えられ,大変興味深いところです.

ところで,準安定結晶,安定結晶ともに融解が熱容量ではダブルピークとして観測されました. これは,この試料ではエナンチオマーが一部混ざっていて,それが原因で共融点(低温側のピーク)が見えたものと考えられます. また,安定結晶の融解エンタルピー(16.6 kJ/mol)が準安定結晶(11.4 kJ/mol)より大きいのはごくふつうの挙動です. ここで,準安定結晶から安定結晶相を得るのにも大変時間がかかり,純粋な安定相を得るのが容易でないことを記しておきます. こうして得られた各相の熱容量から熱力学関数(エンタルピー,エントロピー,ギブスエネルギー)を算出しました. その結果,8*OCBについて報告されたような(2002年のレポートNo.23,研究紹介13)準安定結晶と安定結晶のギブスエネルギーの低温での反転現象は見られませんでした.

光学的により純度の高い試料についての研究,準安定結晶相の転移のメカニズムの手掛かりを与える構造研究が必要とされます. 本研究は,ポーランドのクラクフ核物理研究所のグループとの共同で行われています.

(鈴木晴,稲葉章)

発 表

鈴木晴,稲葉章,Jan Krawczyk,Maria Massalska-Arodz, 第41回熱測定討論会(福岡) 若手の会 P15 (2005).

Copyright © Research Center for Structural Thermodynamics, Graduate School of Science, Osaka University. All rights reserved.