Fig. 1. Repeat unit of PEVE.
Fig. 2. Heat capacities of PEVE solutions per mole of repeat unit of
PEVE. ○: 9.4wt%, △: 15.8wt%, □: 21.1wt%, ▽: 40.4wt%, ●:
dried sample. Inset shows heat capacities around phase separation
temperatures.
Fig. 3. Excess heat capacities of PEVE solutions with 9.4, 21.1 and
40.4wt%. Thick solid curves are theoretical excess heat capacities,
which reproduce experimental ones roughly.
近年の高分子合成技術のめざましい進歩により,新しい構造や機能をもつ高分子が数多く合成されるようになってきました. 標題の高分子ポリ[2-(2-エトキシ)エトキシエチルビニルエーテル](PEVE)はFig. 1に示すような繰り返し単位からなる両親媒性の合成高分子で,室温では液体として存在します. PEVEは水溶液において41 ℃ 以上で相分離を引き起こすことが,曇点測定やDSC測定からわかっています. 最近,相分離温度以下での超遠心沈降平衡測定において, 温度上昇につれて円柱状のハードコアと見なした高分子の太さdが小さくなり,高分子間の引力εが急激に増加するという興味深い現象が見出されました. このPEVE水溶液の相分離温度近傍の挙動を熱力学的立場から調べる目的で,本大学大学院理学研究科の佐藤尚弘教授,青島貞人教授と共同研究を行っております. 昨年の本レポートでは,PEVEそのものの熱容量測定結果について紹介しました. 今回はPEVE水溶液の熱容量の測定結果について紹介したいと思います.
測定に用いたPEVEは,数平均分子量と分子量分布がそれぞれMn=2.68×104,Mw/Mn=1.26,重量平均分子量と分子量分布がそれぞれMw=3.04×104,Mz/Mw=1.30で,重量平均分子量の値から計算した繰り返し単位の数はn=190です. 熱容量測定は研究室既設の微少試料用断熱型熱量計を用いて行いました. 測定試料濃度は9.4wt%,15.8wt%,21.1wt%,40.4wt%の4種類です.
Fig. 2に繰り返し単位1 mol当たりのPEVEの熱容量を示します. 比較のため,PEVEそのものの熱容量も載せています. 全ての試料で,200 K付近にガラス転移による熱容量ジャンプと,273 K付近に水の融解による大きな熱容量ピーク,そして314 K(41 ℃)付近に相分離による熱容量ピークが観測されました. 相分離温度の濃度依存性は曇点測定結果とほぼ一致しました. 観測された水の融解エンタルピーの値から,PEVE繰り返し単位1 mol当たり6.2 molの不凍水が存在することがわかりました. おそらくPEVE側鎖の各エーテル基の酸素原子1個当たり2個の水分子が水素結合によって水和しているのでしょう. ただ不思議なことに,PEVEのガラス転移にはほとんど影響を及ぼしていません.
Fig. 3は全体の熱容量から溶質であるPEVEと溶媒である水の熱容量を差し引いた過剰熱容量です. これらの相分離挙動を,相分離温度以下での超遠心沈降平衡測定結果の解析に用いられた冠球円筒モデルに対する拡張Barker–Henderson理論を用いて解析を試みました. 解析の詳細につきましては説明を省きますが,Fig. 3中の太い実線で表された過剰熱容量の理論曲線は実測値を大まかに再現しています. 相分離温度の高温側で不一致が見られますが,これはひとつにはdとεの高温側への補外の不確定性が原因と考えられます.
このように,両親媒性合成高分子PEVE水溶液で見られる非常に興味深い相分離挙動の研究について紹介してまいりましたが,将来的には熱容量の実測値をもう少しうまく再現する新たな理論の構築が求められるでしょう.
Y. Matsuda, Y. Miyazaki, K. Saito, T. Sato, S. Sugihara, and S. Aoshima, J. Polym. Sci. B 43, 2937 (2005).
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