生分解性合成高分子ポリ乳酸の
熱容量とガラス転移

Repeat Unit of PLA Fig. 1. Repeat unit of PLA.

DSC Thermogram for PLA Fig. 2. DSC thermogram for PLA.

Heat Capacity of PLA Fig. 3. Heat capacities of PLA per mole of repeat unit of PLA. ◎: As-received sample, ○: liquid-quenched sample, ●: annealed sample. All the samples exhibited glass transitions around 320 K.

Heat Capacity Differences between Glassy and Crystalline
     States of PLA Fig. 4. Heat capacity differences between glassy and crystalline states of PLA. Solid curve represents heat capacity difference between the contributions of the skeletal vibrations for glassy and crystalline states of PLA.

今日,世界中で地球環境に優しい製品の研究・開発が盛んに行われています. そのような製品の1つであるポリ乳酸は Fig. 1に示される繰り返し単位をもつ生分解性合成高分子です. ポリ乳酸はトウモロコシなどの再生可能資源を原料として作られ,土壌や水中の微生物により分解されるために,最近では環境に負荷を与えない合成高分子として広く利用され始めています. しかしその一方で,ポリ乳酸については基礎的データの蓄積がまだ十分とは言えない状況です. 特に熱物性に関しては,低温からの熱容量に関する報告(M. Pyda et al., J. Chem. Thermodyn. 36, 731 (2004))がごく最近までなかったため,熱的な解析方法が確立できているとは言えませんでした. 今回,私たちは東レリサーチセンターとの共同研究の一環として,ポリ乳酸の熱測定を行いました. 本レポートではこれまでの研究成果について紹介したいと思います.

測定にはAldrich社製の市販品のポリ乳酸チップを用いました. DSC測定はPerkin Elmer社製のPyris 1で,断熱法による精密熱容量測定は研究室既設の微少試料用断熱型熱量計で行いました.

Fig. 2にDSC測定結果を示します. 未処理試料では,60 ℃付近にガラス転移による大きな吸熱ピークと100 ℃付近に冷結晶化による発熱ピーク,それから175 ℃付近に融解による大きな吸熱ピークが観測されました. 液体急冷試料の結果は未処理試料の場合とほぼ同じですが,60 ℃付近のガラス転移がベースラインの段差として観測された点が異なります. 未処理試料のガラス転移の大きな吸熱ピークは,室温で長時間保持されたことによるガラス転移のアニール効果で説明できます. 一方,140 ℃付近で冷結晶化による発熱がなくなるまでアニールした試料では,60 ℃付近にはガラス転移による明瞭な段差は見られず,175 ℃付近の大きな融解ピークのみが観測されました.

Fig. 3はポリ乳酸の熱容量の測定結果です. 未処理試料では,DSCの場合よりも少し低い320 K付近にガラス転移による大きな熱容量ジャンプが観測されました. また,330 K付近から激しい発熱を伴う冷結晶化が起こりました. 液体急冷試料の場合も未処理試料とほぼ同じ熱容量挙動が見られました. また,冷結晶化による発熱が収まるまでアニールした試料でも,320 K付近にガラス転移による小さな熱容量ジャンプが見出されました. Pydaらの解析に倣い,280 K以下のガラス状態および結晶状態の熱容量をTarasovモデルでフィッティングしたところ,ガラス状態ではΘD3(9)=(54.6±2.6) K,ΘD1(9)=(594.9±1.4) K,Nernst-Lindemann式によるCpCV補正係数A=(1.374±0.73)×10–6 mol J–1,結晶状態ではΘD3(9)=(58.8±2.1) K,ΘD1(9)=(592.6±1.2) K,A=(1.247±0.62)×10–6 mol J–1という値が得られました.

Fig. 4 はガラス状態と結晶状態の熱容量差の図です. 70 K以下では通常のガラス性物質で見られるように,ガラス状態の熱容量の方が大きくなる,いわゆるガラスの低エネルギー励起が観測されましたが, 非常に興味深いことに,70 K以上では結晶状態の熱容量の方が大きくなるという逆転現象が見られました. この傾向は200 K付近で再び逆転しました. 図中の曲線で表されますように,Tarasovモデルから計算された両者の骨格振動の熱容量の差も同じような傾向を示しています. 今後,両者の熱容量差の温度変化の起源について解明するのが楽しみです.

(宮崎裕司)

発 表

中本忠宏,細見博之,中西加奈,石切山一彦,三輪久美子,宮崎裕司, 稲葉 章,第41回熱測定討論会(福岡),P39 (2005).

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