合成高分子ポリ(フェニルイソシアナート)
およびそのテトラヒドロフラン溶液の
熱容量とらせん反転

Repeat Unit of PPIC Fig. 1. Repeat unit of PPIC.

Heat Capacity of THF Solution of PPIC Fig. 2. Heat capacities of THF solution of PPIC with 7.560wt% of concentration and bulk PPIC per mole of repeat unit of PPIC. ○, ●: THF solution sample, ◎: bulk sample. Two broad peaks due to transitions were observed around 210 and 250 K for the bulk sample. The THF solution sample exhibited only a sharp peak due to fusion of THF at 164.5 K.

Apparent Heat Capacity of PPIC in THF Solution Fig. 3. (a) Apparent heat capacities of PPIC in THF solution. A broad peak due to transition were found around 210 K. (b) CD signals of THF and dichloromethane solution samples. ○: THF solution sample, ●: dichloromethane solution sample.

合成高分子であるポリイソシアナートは代表的な半屈曲性高分子の1つですが,その側鎖に不正炭素をもちますと,大きな旋光性を示すようになることが知られています. 特に,側鎖基が重水素化されたキラルなポリヘキシルイソシアナート(PadHIC,PbdHIC)では,旋光度の分子量依存性の解析から,左右巻きのらせん状態がらせんの反転を介して存在することが明らかにされています. 最近,イソシアネートの側鎖に直接フェニル基が化学結合したポリ(フェニルイソシアナート)の一種であるpoly{3-[(S)-2-methylbutoxy]phenyl isocyanate}(PPIC,Fig. 1)のテトラヒドロフラン(THF)溶液の円偏光二色性(CD)についての研究が行われ,この高分子がTHF中においてT=–32 ℃でCDの符号が反転し,そのことから主鎖の優先らせん状態が反転することが報告されました. 今回,この高分子のもつCDの符号の反転挙動の機構を解明する目的で,この高分子そのものとTHF溶液の熱容量測定を行いました.

測定試料は,トルエンを溶媒としてGPCにより分別した試料(Mw=30.0×104Mw/Mn=1.1)を凍結乾燥して得ました. 熱容量測定は研究室既設の微小試料用断熱型熱容量計を用いて,まずバルク試料30.04 mgについて行いました. 次に,この試料にTHFを加えて7.560wt%溶液にした試料について測定を行いました.

Fig. 2にバルク試料およびTHF溶液試料の熱容量の結果を示します. バルク試料では,210 K付近と250 K付近に転移によると思われるブロードな熱容量ピークが観測されました. 一方,THF溶液試料では,164.5 KにTHFの融解による鋭い熱容量ピークのみが観測されました. バルク試料の熱容量ピークからエンタルピー・エントロピー変化を求めたところ,それぞれΔH=1.32 kJ mol–1,ΔS=5.76 J K–1 mol–1となり,エントロピー変化はRln2程度となりました. また,THF溶液試料のTHFの融解エンタルピーを求めたところ,PPIC繰り返し単位当たり1.3分子のTHFが不凍溶媒 になっていることがわかりました.

Fig. 3はTHF溶液試料の全体の熱容量からTHFの熱容量を差し引いた見かけのPPICの熱容量とCDの温度変化の図です. CDについてはジクロロメタン溶液のデータも載せています. 全体の熱容量の図では見えなかった転移によると思われるブロードな熱容量が210 K付近に見られます. この熱容量ピークのエンタルピー・エントロピー変化は,それぞれΔH=578 J mol–1,ΔS=2.66 J K–1 mol–1となり,エントロピー変化はバルク試料の半分の(1/2)Rln2程度となりました. しかし,この熱容量ピーク温度はCDで見られる反転温度よりも30 Kほど低くなっており,むしろバルク試料の高温側の熱容量ピーク温度と一致しているように見えます.

今のところ,両試料で観測されました熱容量ピークの起源やCDの温度変化との不一致についてはわかっておりません. 現在ジクロロメタン溶液の熱容量測定を準備中で,この測定によってこれらの問題が解決するかもしれません. なお,本研究は群馬大学工学部の吉場一真博士との共同研究です.

(宮崎裕司)

発表

吉場一真,宮崎裕司,稲葉 章,寺本明夫,第54回高分子討論会(山形),2Pe037 (2005).

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